ダーク・ファンタジー小説
- クライマックス ( No.107 )
- 日時: 2017/02/16 17:50
- 名前: 茶色のブロック (ID: rCT1hmto)
あれれ、なんで私なんかと付き合っているのかな、占七(せんなの)君ってばさです。
いつか何気なく卑下した言葉でそう言った、俺の彼女がいる。
印象強いストレートのピンクの長髪に、海や空のような綺麗なブルーの瞳をしている。外見通り日本人とは思えない。
かといって、その色がとても自然と似合っていて、元々地毛がそうだったのではないかと思うくらいに素敵だ。
そんな彼女はこう名乗った。
「はーい! 永遠からの久しぶりです! 私の名前は音峰魄(おとみね はく)、本名はミーザですのです。占七君の助けに来ましたです!」
こういう挨拶を俺の家の玄関前でして、家事すべてをいきなり手伝いだしたのだ。
もちろんその時が俺にとっては「はじめまして」である。その、音峰魄というのは聞いたことがない。
えーと、魄……いや、ミーザ? ミーザは最初から俺に対して好感度が高く、なんやかんやと俺は好かれた。俺の二人の妹の片方がいじけるほどにだ。当然のことに困って、俺はミーザを追い返そうとした。
「死んじゃえ」
「え?」
「占七君の女装姿を想像した蛙は死んじゃえばいいんだ! 占七君の髪の毛に憧れを抱く羽虫はゴリラに握り潰されればいいんだ! だからさようならです! 占七君……!」
「ちょっと待った」
「はい? なんですのです?」
その時のミーザの切り替えが早かったというのも印象強い。
「お前さ」
「はい?」
「泣くなよ」
ふざけた発言で気持ちを押さえ込もうとしたミーザは、耐えきれず苦しそうに涙を流していた。
本当に出会いから訳が分からない存在だ。泣くほどに、別れが辛いというのだろうか。この俺に、何故そこまで想いを抱いているのか。
知りたい、そう思った。その感情は、間違いなく、不思議だからこその、恋なのだった。
「えーと、ミーザさんよ。これから散歩しねぇか? 夜中の三時だが」
ミーザは笑った。嬉しいという気持ちを振り撒くように叫ぶ。
「もしかして愛の告白ですか!?」
「それはない」
という感じで公園に出向いた。
やはりね、不良でも三時にはさすがに公園にいないな。しかし真の不良は俺のようであらなくてはならない。
そこで俺はにこにこのミーザの真正面に立った。
「あ、あの。私なら、占七君にならどんなことでもされていいですから、そとですけれど、気の済むまでシテいいですのですよ……?」
ミーザはたまに本気で自分を性器具のように言う。裏のオプションの家政婦みたいにだ。
好きだから好きにしていいのではなく、もう捧げているから好きにしていいというような感覚である。
だからと言って、順序を踏まえない俺ではない。欲と愛は一緒でも、欲と好きは違うから。
いつのまにか、俺はミーザへの好感度が掘り返されていた。きっと、俺は忘れているだけで、永遠よりも前はミーザを愛していたのだ。
そうだよな。これが、恋。
記憶に封じられた「好き」を破るとき、好きだったことを思い出すとき、それは『恋』というのだ。
「ミーザ」
「……はい」
「大人になったら、再婚しよう」
奇跡が起きた。起きてしまった。ミーザの計算を越えて、俺は失われた記憶を作り直してしまった。
ミーザは、答えに唇を捧げた。
「幸せですか? 占七『様』」
「なんとなく」
布団の中を移動し、頭を俺の胸に埋めるミーザ。
「何を思い出していたのですか? 私以外の女の子?」
「お前」
くすくすと笑う。ああ、息がくすぐったい。
「私なんかの彼氏にならなくていいのに。占七様ってばです、くすくすくす」
「欲しかったんだよ、お前が」
「はいはいです。あなた」