ダーク・ファンタジー小説

Re: イル 序章「お前」2 ( No.2 )
日時: 2016/08/24 11:07
名前: 茶色のブロック (ID: kgjUD18D)

 リビングと繋がっている台所に着くと、そこにさも当たり前のように惜は立った。……嫁のような印象を受ける。しかし、惜は、俺の妹である。嫁と勘違いするな……俺……。

「お兄ちゃん、洋食と和食のどちらがお好みですかな、な、な?」

 なんて可愛い仕草なのだ。燃えさせる気なのか。

 洋食か和食か。本当なら、普段は母親が作ったものを食べるという形であり、こういうことはあまりない。……ないはずだ。

「なんでもいいよ。惜の好きな物を作りなよ」

「泥団子で良いかな」

「食べ物とは違うと思うな」

 俺の答えにとぼけたことを言う。わざとだということは惜の笑顔で分かるけれども、つい想像してしまって口の中がじゃりじゃりしてくる。

 にしても、俺と惜の喋り方はなんとなく似てるような気がした。惜の喋り方は柔らかくて、きっと幼児には良く好かれるだろうと思うが、俺はどうだろうか?

「えっと、今日は試しにあっさりしたものを作ろうと思うな」

 やっぱり似ているよな……。

「お兄ちゃんはお魚嫌いなんだっけ?」

「……嫌いな訳じゃないよ。ただ胴体部分を焼いた物とか、ししゃもの焼いたやつとか、体があまり切られていないのが無理なんだ」

「じゃあ、ちりめんじゃこは?」

「無理だね」

 すると、惜は頭を抱えてしまった。うーうー唸り始めてとても迷惑だ。

 あれ、あっさりしたものはどこ行った?

 しかし、惜の質問は続く。

「キャラ弁食べられる?」

「それも無理だね」

「ケーキの上の砂糖サンタさん」

「無理だね。あと質問の意味が分からないよ」

「肉団子……」

「それは大丈夫」

「……は無理だろうし」

「おーい、無理じゃないよー」

 そうして惜は頭を抱えるのをやめると、棚からヤカンを取り出し、冷蔵庫から天然水を取り出した。

 何を作るつもりなのだろう。カップラーメンだとしたら軽く衝撃だ。

「お兄ちゃんのお弁当を作るつもりだったのに、まさか朝食の食べ物を詰められないというのは軽く疲労覚悟だよ、どれだけ贅沢なのお兄ちゃんってば」

「……ん……?」

「朝食はお茶漬け、お昼はサンドイッチに決定だもん。仕方ないのだもん」

 うわあ、むくれてるなあ。

 俺としてはさっぱりなのだが、きっと冷蔵庫の中身を完璧に把握している我が妹にとっては苦渋の決断なのだろう。多分冷凍食品が無く、お魚がいっぱい泳いでいる。

 機嫌をなおしてもらいたく、俺は惜の頭を優しく撫でてみる。

 さらりとしているように見えて、触ると、意外に髪はとても柔らかい。

「ん……」

 しかし、惜は頬を薄く桜色にしたあと、俺から少し離れて逃げた。

 悦を感じた。叶うならもう一度撫でたい。

 やがて、コンロにカチッと火が付いた。