ダーク・ファンタジー小説

Re: イル ( No.4 )
日時: 2016/09/12 18:49
名前: 茶色のブロック (ID: WEFYk.MN)

 結局のところ、俺はお茶漬けを食べることになった。

 机に並べられているのは、茶碗と皿にのった沢庵。沢庵を一枚口に入れたあと、お茶漬けを口のなかに掻き込む。正直、これでもトラウマを起こすのだが、それを言っては何も食べられない。

 惜はお茶漬けに一切手をつけず、俺の様子を眺めていた。

「お兄ちゃん、いつかね、一緒にお料理作りたいな」

「無理だよ。トラウマだからさ」

「トラウマを起こしても、私を大事にしているのなら、叶えてよ」

「どうしたんだよ?」

 すると、惜は微笑んだ。

「なんとなく、だよ」

「……」

 黙ると、惜もお茶漬けを食べ始めた。

 その様子を数秒眺めてしまい、俺は慌てた心で手元のお茶漬けを再び食べ始める。

 ……人として、失格だと思う。

 俺はトラウマトラウマ言ってはいるが、そのトラウマを克服しようとはしていない。にも関わらずに、自分勝手な理由で惜の気持ちを台無しにして、傷つけることをして、本当に酷い奴だ。

 努力が足りないのだ、今の俺には。

「いつか、な」

「え?」

「いつか一緒にお菓子とか、お弁当とか、お夕飯を作ろう。ほら、約束」

「あ……」

 差し出した右手に、惜は一瞬身動きが止まり、

「……うん」

 嬉しそうに笑った。すぐに惜は俺の小指に小さな小指を絡めて、言った。

「約束だからね、忘れちゃ駄目なんだからね!」

 俺は、微笑みで返事をした。