ダーク・ファンタジー小説
- Absolute ( No.45 )
- 日時: 2016/09/23 19:50
- 名前: 茶色のブロック (ID: clpFUwrj)
命を吸う機械がある。
家の中の埃臭い一室に、天辺が丸く、下は人が何十人も入れそうな棺桶の仕組みの、鉄で出来て立った入れ物。
中はうっすらと血の跡があり、僕にとつて少し怖い機械だった。
部屋に父が入ってくる。
「どうした、トート」
そう呼び掛けられ、僕は少し震えた声で返事をした。
「なんでもないよ」
血の臭いがするのだ。背後から。
振り返ると、そこには父と、父に抱えられている、翼の生えた黒くて大きいライオンが居た。
父は僕を通りすぎ、機械の下の部分に黒いライオンを放った。
機械はカシャッと入り口を閉じ、中からぐちゃぐちゃとした音が鳴る。
「あ、あの中では、あの化け物はどうなっているの……?」
僕の問いに、父は、
「ううん?」
と、唸ったあと、
「まず中を切り開いて、所々の魔の力を吸い、最後にプレスして余すところなく魔の力を吸い尽くしているところだな。『能力吸引機』なんだからそうだろ」
と、平然と言った。
——父は勇者だ。
西暦2236年、世界に突然化け物が出現した。化け物は恐ろしい力や、魔法の能力を持っており、人間たちを殺していっている。
エルフと呼ばれる者などはそうではないが、魔王たちはちがって殺してくる。
それを退治するのが父であり、父のような人たちである。もちろん父は人間で、化け物には敵わないのだが、この命を吸う機械、「能力吸引機」で化け物の能力を吸い、その能力を自身の体に宿して倒す。
やがて機械の入り口が開くと、そこには黒いライオンの姿はない。血の跡だけが残っていた。
父はその入り口に入り、入り口が閉じ、数分後に出て来る。
父の姿こそ変わっていないものの、父は試しに自分の指を折り、数秒後に元に戻った。
まだなんの能力も宿していないことでいじめられまくる中学校から帰ると、父が出迎えた。
「お帰り」
「ただいま……って、その子は?」
背の高い父の横、黒く可愛いドレスを来ている、冷たい闇のような長い黒髪の、ブドウの紫の瞳をした愛らしい少女が居た。体は痩せているようで、表情が緊張している。
「あぅ、う…あ……あい………」
声が上手く出ていなかったが、「お帰りなさい」と言っているのだと気付き、
「た、ただいま」
と返した。
父はどこか嘘臭い笑みを作る。
「この子はお前の従兄弟でな、アルテミスと言うんだ。しばらくこの家で一緒に暮らすことになるから、よろしくしてくれ」
そう言われてもう一度少女を見る。どう見ても、美少女だった。
理由を聞こうかと思ったが、別に理由なんていくらでもあるだろうと思い、聞かないでおいた。
アルテミスは父から僕の側へ歩いてきて、ふらつきながらも僕の隣に移る。
僕の心臓の脈が大きく聞こえる。
そんな様子に父は怪訝な視線をアルテミスに向けるが、背を向けながら僕に言った。
「お外へ散歩でもしてくればいい」
アルテミスは不思議そうに父を見ていた。
僕は言われた通りに外へ出る。つまり、僕とアルテミスを仲良くさせたいのだろう。立派な父親だ、男心を分かっている。
アルテミスはふらつきながらも僕についてきて、僕の左手を握って来た。
「あ、う……うう……あうあ……」
出ない声を必死に出して、僕に何かを伝えようとするも、さっぱりだ。
「手を握りたいの?」
「うあ」
「不安なの?」
「うあ」
「歩けないの?」
「あう」
どうやら一人では歩けないかららしい。
僕は支えるようにアルテミスの手を握り、寄りかかれながらも一緒に町を歩いた。
集団で人権のない尖った耳のエルフを苛めているところを見かけるが、僕にはなんの力もなく助けられないので通り過ぎる。隣のアルテミスを見るが、耳は人間と同じだ。ただ、アルテミスの表情は必死だった。
「あ、うう、あううあうあ、うあう!」
「え?」
さっぱりだ。
すると、アルテミスは左手で自らの首をしめながら、喋った。
「だ……ずげ……で……あげようぎょ……」
振り返る。
人数は六人、僕より年上の高校生の男子、エルフの少女が苛められている。かなり酷く。
それをアルテミスは泣きながら見ていた。
だから、覚悟を決める。
「……分かった。絶対に助けるよ」
仕方なく、震えながらも、僕は袖に仕込んである拳銃を取り出し、少年の一人の右足に向けて撃った。
「ぐっ!?」
少年が倒れる。僕たちは急いで離れた。
家に帰ると、アルテミスはふらふらとソファーに座った。
そのまま疲れ切ったように目を閉じ、眠ってしまった。
父は買ってきたそうざいをテーブルに並べていて、僕が帰って来るとこう言った。
「風呂入っとけ——アルテミスと」
嘘みたいに嫌だったが、僕はアルテミスを起こし、一緒に風呂場へ向かった。
脱衣場でアルテミスはかなり脱ぐのに苦戦していたが、僕は仕込みの武器を何種類も外さなければならなかったので、アルテミスより時間が掛かった。
アルテミスは裸で座りながら僕を待っており、見下ろす側としては本当に危ない。
白い、肌が白い。割れ目が、割れ目が可愛い。
そのあと、僕はアルテミスの手を引っ張ってあげながら、風呂場へ入った。
僕が体を洗おうとスポンジを取ると、アルテミスにやんわりと奪われる。
「あうあう」
後ろを向けと言われてしまった。もう言っていることがすぐに分かる。
言われた通りに後ろを向くと、僕の背中にスポンジの感触……そっち?
やがて風呂のお湯で流され、アルテミスがスポンジを僕に返した。
か、可愛い過ぎる……。
やがて一緒に風呂に入ると、背中合わせに失敗して向かいでやってしまったアルテミスと視線があう。
アルテミスはお湯の中だというのに、震えていた。どうしたの、と聞くと、首を横に振る。
目線が下にいく。真顔でなんてもんを見てしまう。これがシングルファーザーの息子の宿命なのだ。
「わたしは……ダークエルフなの……」
「……ん?」
「あうあう」
超小さすぎる声に反応すると、アルテミスは笑顔で謎の言葉を発した。
一週間後、アルテミスはどこかへ帰って行ってしまった。
僕は能力吸引機のある一室に入り、能力吸引機の天辺を見上げる。
あの丸いやつの中はどうなっているのだろうか。
ダークエルフは人と外見は変わらないらしく、エルフに殺意を向けられる程の嫌われものらしい。それに命を吸って生きており、でないと人間と同じ歳で死ぬという。
僕は何となく、能力吸引機と似ているなと思った。
僕は天辺を持っていた斧でもぎ取り、丸いやつを器用に割る。
やはり——アルテミスが居た。