ダーク・ファンタジー小説

Divine Force 第1章『始まりの鐘が鳴る時に』05 ( No.11 )
日時: 2016/12/17 18:00
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

「さて、次。さっき私は翔君に夢を見せたと言ったね」
ステラはそう言って話を続けた。
心無しか焦っているようにも見えるが、どうしてだろう。
俺が考えても仕方が無いか。
「……あぁ、言ってたな」
「私は、他人の夢に干渉することができる—それが私の能力だ」
「能力、だって?」
いよいよ話が異世界じみてきた。
魔法がなくても能力はあるのだろうか。
うーん、というかこの両者の違いってなんなのか……
「そう、『夢魅せの獏』。私はこの能力をそう呼んでいる」
「夢魅せの獏……?ん、獏って夢を食べる動物じゃないのか?」
そもそも獏とバクって別物ではなかったか?
夢を食べるのはあくまで伝説上の生き物だったような気がする。
「そこら辺はちくはぐのあべこべでね。神っていうのはそういうのを気にしないから」
「神?なんで神が出てくるんだよ」
「うん、話が飛躍しすぎていることは承知している。しかも私は説明下手だしね」
駄目じゃん。
他に適役いなかったのかよ。
「そう、神だ。私達はこの能力をディバインフォース、と呼んでいる」
「ディバインフォース……?」
「神から授かった能力なんだ、これは」
もっとも、私のはまだ弱い部類に入るんだけども、とステラは言った。
まあ、その話だと精神面にしか作用できないしなぁ……。
相手を眠らせて悪夢を見せる。なんだかゲームの話のようだ。

「私は、獏に行き遭ったんだ」
「行き遭った……?どういうことだ?」
「……この、獏だよ。獏でもあり、バクでもある—そんなちくはぐの存在。見せてあげるよ」
そう言うと、ステラの横に突然巨大な獏が現れた。
獏は、俺をじっと見下ろしている。
「いや待て待て待て待て。状況が理解出来ない。なんだそのオーラみたいな物は」
「あれ、翔君は頭の回転が速い子ではなかったのかな?」
「処理追いつかねぇよ!非現実的過ぎるだろこれ!」
瞬きした瞬間隣に獏の化身が現れたなんてホラー以外の何物でもない。
理解しろという方がはっきり言っておかしい。
というか、叫び声を上げなかっただけでも十分に勇敢だと思うのだが……。
なんだか誇らしい気分になってきた。
「まあ、理解しろとは言わないさ。この世界においても、この能力は異端なんだし」
「え、そうなのか?」
「そうだよ。神はこの能力は選ばれたものにしか渡さない—そう父は言っていた」
「しっかし、そんな能力を渡して神は何がしたいんだよ?」
「そこは神の味噌汁、なのかな」
「ステラ、それだと神が調理されているからな!?」
なんでこんな説明シーンまでツッコミいれなきゃいけないんだよ。
流れぶった切る天才かよ。
というかそれ、もしかして単語の区切り方を『神の・みぞ知る』で考えてないか……?
なんだよみぞ知るって。
「あ、神の、みぞ知るか!」
「お前割と天然キャラ入っているよな」
「はは、それほどでもないさ」
「褒めてねえよ……」
なんでこんなテンプレ漫才をしなければならないのだ。
非常に疲れる。
「神っていうのは、私達が思っているより適当な存在なのかもしれないよ」
そう言ってステラは獏を引っ込めた(少なくとも俺にはそう見えた)。

「さて、最後だ。これは私たち以外、誰も知らない問題だ。絶対に口外しないで欲しい」

Divine Force 第1章『始まりの鐘が鳴る時に』06 ( No.12 )
日時: 2016/12/17 19:48
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

「おい、そんな事俺に言って大丈夫なのか?」
「どうだろう。大丈夫なのかもしれないし、大丈夫じゃないかもしれない」
「なんだよ、それ」
「妹の、ことなんだよ」

ステラは、そのまま部屋から出ると、廊下の奥にあった階段を上っていく。
なんだか薄暗い場所である。
何かを隠してるような、そんな気配がした。

ギシギシと階段を軋ませながら、俺とステラは三階へと上がる。
三階にはただ一つだけ、部屋があった。
「リリー、今大丈夫かい?」
部屋の戸をノックし、ステラはそう言った。
部屋の中からは、うん、という返事が返ってくる。
「今から妹を見せる、ただ驚かないであげて欲しい」
ステラは、そう小声で囁いた。
一体ステラの妹に何があるのか、と俺はそう思った。
とりあえず、俺はその言葉に頷く。
「入るよ」

ステラが扉を開けた。
中には、天蓋付きのベットが一つ、ぽつんと置かれていた。
そこには、ステラによく似た少女が座っていた。
「……っ!?」
なるほど、驚かないで欲しいとはこういう事だったのか。
彼女の首から下は……
「そう、妹は石になっている。正真正銘の石にね」
ステラは俺の考えを汲み取るように、また小声で囁いた。
「お姉ちゃん、お客さんだよね?大丈夫……なの?」
「大丈夫さ。なんかあったら私がなんとかする」
「お姉ちゃんがそう言うなら……初めまして、私はリリー。あなたの名前は?」
リリーは、首をこちらに動かし、俺にそう言った。
「俺は、澤村翔だ。よろしく」
「あなたが来ること、精霊さん達が教えてくれたの」
「精霊さん?……ってうおっ!?」
物凄く無様に驚いてしまった。
俺の肩にいつの間にか妖精らしきものが二、三人乗っているのである。
「驚かせちゃったかな?それが私の精霊さん達なの」
「妹も、ディバインフォースを持っているんだ」
ステラはそう言った。
「もうその話はしたんだよね?お姉ちゃんが私以外に獏を見せたの、初めてなんだよ」
「そうなのか?」
「なんで突然恥ずかしい気分にされなければいけないのかなぁ……」
ステラはそう言ってそっぽを向いた。
「そう、これが私の力。精霊の加護って言うの」
「リリーの力は万能なんだ。出てくる精霊に左右されるんだけどね」
「左右された結果が、これだけど……私の能力は暴走したの」
「暴走、だって……?」
ディバインフォースは暴走する危険性があるのか?
そんな危険な力なのか?
「悪い精霊が、私を騙したの。もっと強くなれるって」
「リリー、その話はしてもいいのかい?」
「いいの、お姉ちゃん。……私はお姉ちゃんを守れるぐらい強くなりたかった。
だからその精霊さんは私に知恵を貸した。『精霊の力を合わせれば、力が編み出せる』って。
後から分かったことなのだけど、これはしてはいけないことだった。
神の力を使うだけだけでもリスクがあるのに、それを多重に背負うなんて、考えれば分かることだったのにね。私はたくさんの精霊さん質に嫌われてしまった。
私はそれを実行したその夜から、石になり始めたの。
そして、三年かけて、私はついにここまで石になった」
リリーは自分の体を見下ろす。
その目からは、涙が溢れ出ていた。
部屋の中には、少女の咽び泣く声だけが虚しく響いていた。

◆◆◆
「あれを治すのか?どうやって?」
「しーっ、翔君。声が大きい」
「あっ、悪い」
俺達は時計店から出て、町の中を歩いていた。
「一つだけ、方法があるんだ。この町の北に、深い森がある。そこの奥にある泉に行く」
「泉って、何があるんだ?」
「その泉の水は、何でも治すことができるんだよ」
「なんだって?じゃあ何で今までそれをしなかったんだ?」
「あの森に入った者は、入っている時間だけ呪われる」
「呪われる……どういうことだ?」
「身体が、だんだん鉛みたいに重くなっていくんだ……遅くなると、出られなくなる」
タイムリミットはたったの一日だけなんだ、とステラは言った。
「ステラ、その森に入ったことがあるんだな?」
「そうさ。私は妹の為に何回もあの森に入った……でも全て失敗に終わった。
そこで君に頼みがある。私達は、悠那さんを探す上で必ず力になれる。
だから、この世界でリリーを救ってほしい」

ステラは、俺の目を見て、そう告げた。

Divine Force 第1章『始まりの鐘が鳴る時に』07 ( No.13 )
日時: 2017/01/02 12:16
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

「ステラ、一つ言っておこう。俺は単なる普通の高校生であって、そういうずば抜けたパワーを持っていないぞ」
そうだ。いくら助けてくれと言われても、それが物凄い美少女の頼みだとしても、俺はただの高校二年生なのだ。
異世界人で魔法まで使えるステラが出来ないことが果たして俺に出来るだろうか。
答えはノーだろ。当たり前だ。
「うん。君はおとりだ」
ノータイムでステラに頷かれた。
事実ではあるが、結構傷つく。
「そんなサラッと酷いことを言うんじゃねぇよ!」
「おとりって言っても敵の攻撃を数分耐えてくれればいいんだ、頼むよ」
「敵?なんか敵がいるのか?」
決まりの悪そうな顔をするステラ。やめろ、そんな顔をするな。
「行けば分かる。行けば分かるから」
「はぁ……分かった、分かったから。一緒に行ってやるよ」
俺が諦めたように溜め息をつくと、ステラは顔を輝かせた。
「よし、実行は今日の夜。良いかな?」
「俺に選択の余地はない気がする質問だな。良いぜ」
「じゃあ、それまで休んでおこうか」
時計店のある道まで戻ろうとしたその時だった。
「待って、翔君、隠れて!」
ステラは小声で俺にそう告げた。
俺達は咄嗟に建物の裏に身を隠す。
「今度は何があったんだよ?」
「静かにしててくれ。時空警察の奴らが私の家の前にいる」
「時空警察?」
「詳細は後で話す……マズイな、もう動き始めたなんて」
ステラは何やら緊迫した表情で何かを呟いている。
「お嬢さん方」
俺達はいきなり大型の男性に声をかけられた。
ステラが慌てて応答する。
「はっ、はい!何でしょうか!」
「あちらの時計店の店主の行き先を知りませんでしょうか?」
「さ、さぁ……私たちは一介の町人なので」
俺はこくこくと頷いておいた。
「ふむ、ご協力ありがとうございましたっ!」
男はそう言うと同時にステラの首根っこを掴んだ。
「何が一介の町人だ、あぁん?おめぇがフォーサイスだろぉ!」
「最初から分かってて聞いてたのか?」
「あたりめぇだ。銀髪はこの町におめぇしかいないんでな!」
そのままステラを連れ去ろうとする男。
駄目だ、なんとかしなければ。
このままステラが捕まってしまったらどうするんだ。

「おめぇも大変だったな。こんなやつに他の世界まで飛ばされて。あとでおめぇの世界に戻してやるからな」
「そんなのいらねぇよ……いいからステラを離せ」
「あ?今お兄さん何つった?」
「時空警察だかなんだか知らねえがな、ステラはお前らに捕まるような悪人なんかじゃねぇよ!」
「それぐらいにしとけ。今なら見逃しておいてやる」
「慈悲なんざクソくらえだ。ステラを離せっつてんだよっ!」
俺はそう言うと同時に男の腹に拳を叩き込んだ。
人生初の腹パンである。意外とスカッとするぜ、これ。
俺のいきなりの行動に驚いたのか、男はステラを離した。
取り落とした、って感じだろうか。
「……ナイスパンチ、翔君。助かったよ」
「礼なんかいらねえよ。するべき事をしたまでだ」
「そうだね。さあ、逃げるよ!」
「おう!」
俺達は時計店のある道に飛び出し、全力疾走した。
後ろからは「いたぞ、追えー!」などという叫び声が聞こえてくる。
「翔君、私の手を握って!」
「わ、分かった!」
「最終逃走手段を実行する。『t−e−l−e−p−o−r−t』……テレポート!」
ステラが何だかカッコイイ呪文を詠唱した、俺はそう思った。
そして次の瞬間、目の前の景色がぐにゃりと歪んだ。
「うおおおっ!?な、なんだコレ!?」
「手を離さないで、行くよ!」
ステラと俺は歪んだ空間の中へ駆けていった。

Divine Force 第1章『始まりの鐘が鳴る時に』08 ( No.14 )
日時: 2017/02/03 15:53
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

「ぐえっ!」

歪みが収まった。
と共に、思いっきり躓いた俺の呻き声が草原に吸い込まれていった。
まるでカエルである。澤村蛙である。
テレポートとか言っていたし、これが瞬間移動ってやつなのか。
どうやらステラは色んな術を使えるらしい。
「ふぅ、成功したね。久々に使ったからどうなるかと思ったけど」
「ステラ、あんなこともできたんだな……」
完璧に酔った俺は、立ち上がって膝に手を付きそう言った。
「多少の隠し玉は必要、そういうことさ」
「先に言ってほしかったぜ……はは……」
「うーん、酔ってるところ悪いけど。作戦変更だ」
作戦変更?まぁ町には戻れないのは確かなのだろうが……
グロッキー状態の俺に悪いって事はもしかして、もしかすると……
「このまま森に行くのか?」
「流石翔君。察しが良くて助かるよ」
「そうだよなー!そうなるよなー!」
こうなったらもうヤケクソだ。
敵だろうがなんだろうが、全部俺が相手してやる。

◆◆◆
森の中は、しん、と静まり返っていた。
俺達の足音だけが響く。
「なんだか、幻想的なところだな」
「そうかい?君達の世界にはこんなに大きい森はないんだっけ」
「いや、あるとは思うけどさ。雰囲気が違うっつーか……」
うまく言い表せない。
ただこの森には、俺の見たことのないようなものが沢山あった。
「まあ、この森はその特性上、調査団もうかつに入れないからね」
本来人間が入るような場所ではないよ、と前を行くステラは言った。
俺はそんな危険なところに連れてこられたんだな。
まあ覚悟の上で来たわけだったが。

ステラは妹に繋がるヒントを知っていると言った。
つまり、俺が悠那を捜す手掛かりは現時点で彼女しか握っていないのだ。
異世界に飛ばされていることだし、元から命懸けである。
「身体が重くなるんだったっけか?」
「そう。言うなれば、死の呪いだ。外部からの侵入者を追い出そうとしているんだよ」
「森も自己防衛機能を付ける世界なんだな」
「まだ優しい方さ。もっと深くまで行くと、とんでもないトラップが待っているから」
「泉はその森深くにあるんだよな?」
俺のその言葉に、こくりと頷くステラ。
このステラを追い返すようなトラップだ。
多分とんでもなく恐ろしいのだろう。
「止まって」
ステラが手で止まれの合図をした。
「なるべく音を立てないで。伏せて進むよ」
「トラップってやつか?」
「こんなの序の口だよ」
ぴっ、とステラが指さした。
そこには、身長3メートルはある木の巨人がいた。

「な、なんだよあれ……」
「ウッドゴーレムと呼ばれている。森の番人だ」
「見つかったら?」
「……さぁ、付いてきて」
質問には答えてくれなかったステラだが、まあなんとなく伝わった。
ステラはまだしも、俺は即死だろう。
……即死?
なんか頭に引っかかる。
違和感と言うか、もやもやした何かが俺の頭にある。

ステラは俺の妹の情報を握っている。
俺は妹を全力で捜すことを望んでいる。
ステラは俺におとりになって欲しいと言った。
俺はあのウッドゴーレムの猛攻を避け切れるような人間ではない。
ステラは世界を渡るという、この世界での違法行為をしている。
時空警察はステラを追っている。
つまりステラにはきっと、何らかの前科があるのだ。

そして今俺は、ステラでも対処できない様な事態と対峙しているのだ。
この森に連れてこられたのだ。

「なぁ、ステラ」
「……どうしたんだい?翔君」
「お前、一体何を考えてる……お前の目的はなんだ?」

Divine Force 第1章『始まりの鐘が鳴る時に』09 ( No.15 )
日時: 2017/02/11 17:31
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

これは、言うべきではなかったかもしれない。
俺はその言葉を口にした後でそう思った。

「君は……それを知ったところでどうするのかな」
「どうするって……」
「所詮他人は他人だ。私の事情をこれ以上話しても意味が無いよ」
そう言うとステラは、俺を置いて先に行ってしまった。
何故か、その後ろ姿からは哀愁が漂っていた。
「お、おい!ちょっと待てよ!」

俺はステラを追いながら考える。
絶対コイツの過去には何かがある。
俺にまだ話していない重要な何かが。
確かにステラと俺は会って少しの時間しか経っていないが……。
どっちにしろ、今聞くべきことではなかった。

にしても—。

所詮他人は他人、か。

◆◆◆

もう大分歩いたと思う、周りは背の高い木で覆われ、空は全く見えなかった。
「着いたよ、翔君」
さっきの物憂げな雰囲気は何処へやら、ステラはいつもの調子で話し掛けてきた。
なんだか狐に化かされている気分である。
「あれが泉か……トラップっつーのが見当たらないんだが」
「あぁ、まだ寝ているだけだよ」
寝ているだけ?
猛獣かなんかでもいるのだろうか。
それともさっきのゴーレムか?
「頭上注意で。泉に辿り着くまでに死んだらお話にならないからね……
それ、ぼーっとしてると頭を跳ね飛ばされるよ!」

そうステラが言った途端、俺の頭を何かが横切った。
正直に言おう、髪の毛を何本かカットされてしまっていた。

「な、なんだよこれ!?」
「この森は他者を寄せ付けない……周りの木々を見てご覧!」
そう言ってステラはアクロバットな動きで何かを避けた。

周りを見渡すと、勿論木々しか無かったのだが。
そう、木々しか無かったのだ。
つまり木々が俺達に攻撃を仕掛けていたのである!
安心してくれ、俺も自分で何を言っているのかわからない。
端的に述べると、木の枝がまるでゴムの様に伸びてこちらに攻撃を仕掛けている。
多分ぶっ刺さったら即死するレベルである。

「さぁ、5分間耐久レースだ!頑張れ翔君!」
「アホかお前はーーーー!」
俺はただの高校生なのだが。
だが手伝うと言ってしまった手前、もう引き下がれない。
俺が覚悟を決めたその時だった。

空から、轟音を立てて何かが降りてきたのである。
それはかなり聞き覚えのあるエンジン音だった。

俺は木々で覆われた空を見上げた。
間違いない、これはヘリコプターの音だ。

「ぐっ……時空警察の奴らか……!」
「こんなところまで追ってくるのかよ!?」
しかも世界観ガン無視じゃねぇか。いい加減にしろよ。
この世界の機械は時計レベルしかなかっただろうが。
ヘリコプターは木を蹂躙して着陸。
木の枝も流石に鋼鉄には敵わなかった。

「下がって、翔君。今だいぶヘビーな展開だよ」
「言われなくても何となく察してるぜ」

「やぁ、フォーサイス。そっちの少年は誰かなっ?」

ヘリコプターから降りてきたのは、大人の女性だった。
戦闘服を身にまとい、笑顔でこちらに訊ねてきた。
しかしそれは、作った笑顔だった。
人形のような雰囲気を醸し出している。

「そこの少年は誰だって私が聞いているよ?」
「馬鹿馬鹿しい。私に答えなきゃいけない義務なんてない」
「そうかい。じゃあその哀れな頭にたっぷりお仕置きしなきゃね?」
「……伏せろ、翔君!」

ステラが俺を強引に投げ飛ばす。
伏せろってなんだよ。
俺は案の定地面に叩き付けられた。
一方、女性はいつの間にか出していた銃をこちらに発砲していた。
「うおおっ!?」
いや、こちらには飛んでこなかったが。
彼女の狙いはあくまでもステラの様だった。

Divine Force 第1章『始まりの鐘が鳴る時に』10 ( No.16 )
日時: 2017/03/11 22:02
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

「ぐっ……サリエル!こんなところまで追ってきて何のつもりだ!」
華麗な動きで銃弾を避け、ステラが叫ぶ。
流石の反応速度と言うべきなのか。
恐らく彼女はこの手の窮地を何回もくぐり抜けているのだろう。
一方、サリエルと呼ばれた女性は先程から笑顔を全く崩さない。
正直言って、気味が悪いというレベルではない。
「決まっているじゃないか、君を捕まえに来たんだ、フォーサイス!」
いやいやいやいや!
それ銃弾ぶっ放しながら言う台詞じゃないから!
思いっきり息の根止めに来てんじゃねぇか。
大丈夫かよ時空警察。まずコイツを取り締まれよ。
「っ、ステラ!どうすんだよ!」
「退けるしかない!降り注げ、『レイピアレイン』!」
ステラが魔法を唱えると同時に、空から無数の短剣が降り注ぐ。
こ、コイツも十分危なかった……お前普通に魔法使えるじゃねぇかよ。
「その程度の魔法では私は倒せないよ!」
しかしサリエルはこれを快活に笑い飛ばし、剣の雨をするりするりと避けてしまう。
なんとも厄介な野郎だ。俺だったら立ち弁慶のスタイルになってる自信があるぜ。
まあそれではあの世に一直線なんだがな。
「倒そうとはしてないさ……ただの時間稼ぎだ」
「時間稼ぎ?君に勝ち目は無いと思うけど」
「あるさ。これが私の能力だ、その目に焼き付けておけ!」
そう言うとともに、ステラの目が青から金色に輝き始める。
纏うオーラが変わった、と率直に俺は思った。
「獏よ、精神を侵すものよ……奴らに夢を魅せよ」
ゴゴゴ……と、何かの動く音が聞こえた。
俺達が入ってきた方向からするようだが、一体何をしたというのか。
「ディバインフォース発動、『夢魅せの獏』!」
途端、先程のウッドゴーレム達が木を押し退けて飛び出して来た。
ステラが操っているというのか。
「私の能力は何も夢を見せるだけの物ではないんだよ、翔君。
相手の精神にも作用させることができる、案外便利な能力なんだ」
俺の驚いた顔を見てか、御丁寧に説明までしてくれた。
一種のマインドコントロールみたいなやつか。そいつは案外便利かもしれないな。
ステラの操るウッドゴーレムは一斉にサリエルに襲い掛かった。
彼女は銃で応戦を試みるも、巨大なウッドゴーレムの身体だ。
いくつか風穴が空いたからと言って止まる訳では無い。
「ふん、敵ながらブラボー……かな」
そんなことを口走った気がしたのは気のせいだろうか。
しかし、見事に形勢逆転しやがった。もうシナリオは組み立てられていたのか。
「翔君、これを頼んだよ!」
ステラが俺に小瓶を投げ渡す。
「泉の水だな、任せろ」
「私はサリエルを仕留める。さぁ、今の内に!」
やっとそれっぽい仕事が回ってきたぜ。
実況係にも飽きてきたからな、丁度良かった。
俺は泉に向かって駆け出した。

しかし。
今まで俺を一回も狙わなかったサリエルが、唐突に俺に攻撃を仕掛けた。
爆発弾は俺の足元で綺麗に炸裂。
「っ……がはっ……」
無論、俺は普通の高校生である。
避けられる暇も無く、無抵抗のまま。
そのまま俺の身体は泉に吹き飛ばされて行った。