ダーク・ファンタジー小説

Divine Force 第1章『始まりの鐘が鳴る時に』01 ( No.5 )
日時: 2016/10/09 23:35
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

7月26日午前11時55分。
俺はこの街のシンボル、時計塔の下に来ていた。
理由はただ一つ。悠那を救うヒントを見つける為だ。
あの少女の言葉を鵜呑みにした訳ではないが。
溺れる者は藁もを掴む、ということだ。
そんな俺の思いを感じ取ったのか。

「待ってたよ、翔君」
銀髪の少女は突然現れた。
暗がりに紛れていたのだろうか。
彼女は何故か、雨に濡れたように身体中がびしょ濡れだった。
「お前、妹を救うヒントを知ってるって言ったよな」
俺は少女にずい、と詰め寄って言った。
最早一刻の猶予も許されない。
早く、そして速く悠那を助けなければ。
「ちょちょ、近いよ……とりあえず、ついて来て欲しい」
「ついて来てほしい……?何処に行くってんだよ」
「私、さっき言ったよね」
12時に来て欲しいって。
銀髪の少女はそう言った。
その時間に何かあるのだろうか。
「ううん、12時に何かあるのはこっちの都合だよ」
「こんなシリアスシーンで地の文を読まないでくれ」
どんな小説なんだよこれ。前代未聞だぞ。
シリアスシーンで地の文読んでその疑問に答えちゃうって。
「私も思ったんだけど、この小説そんなにシリアスじゃ」
「やめろそれ以上は言わせねえぞ」
お前がそれを言ってしまったら時系列がおかしくなってしまう。
読者の混乱を避けるためにもそれは言わせない。
「うん、やっぱり翔君は面白いね」
「アンタが俺の何を知ってるんだよ」
「さぁね、何も知らないよ。」
少女はお手上げ状態のポーズをとった。
銀髪も相まって外国人のアクションそのままである。
「知らねえのかよ……」
「うん。君が妹を失って、ただ1人君がそれに気付いた事以外はね」
それは私達の世界ではイレギュラー、と少女は言った。
私達の世界……?何を言っているのだろうか。
「さて、そろそろ12時なのだけど。翔君の意思を聞かせてほしい」
「俺の、意思……?」
「そう。君が妹を救う為に私について来る覚悟があるのか」
「だから何処に行くのかって聞いてるんだよ」
「ここではない、どこかだよ」
「それがアンタ達の世界、ってことか?」
「おお。飲み込みがとても速い。素晴らしいね」
銀髪の少女は関心したように腕を組みながらうんうんと頷く。
「だけど、これだけは知っておいて欲しい。君には選ぶ権利がある。
私について来ると、とても危険な目に合うことになるよ」
「それがどうした」
「……え?」
「俺は、悠那を助けられるなら何処にでも行ってやるさ」
「最高。やっぱり翔君は面白いね」
「あぁ……お褒めに預り光栄だぜ」

その時、12時の鐘が鳴り響いた。
その鐘は旅の始まりを告げる号砲だった。
「時間だね」
「時間だな」
「ちょっと構えといてね」
「あぁ」
俺の同意を聞いて。意思を聞いて安心したのか。
銀髪の少女は俺に背を向けてこう唱えた。
「ゲートよ、開けっ!我等に進む道を与えよ!」
瞬間、辺りに暴風が吹き荒れた。
それと同時に眩い光が辺りを包み込む。
「なッ……!?」
「手を伸ばして、翔君!」
俺は言われるがままに前方に手を伸ばした。
「これで良いのか!?」
誰かに手を掴まれた。無論、銀髪の少女だろうが。
「絶対に、離さないでね!」
「それは言われなくても本能で理解してたぜ!」
「さぁ、私達の世界に行くよ」
それっ、と少女が言い、俺は光の中に吸い込まれた。
少女の手を堅く握り締めながら、それでも俺達はもみくちゃにされた。
異世界に行くって、こんなに大変なのか。
小説の主人公ってやっぱりすげぇな……

うーむ、こんな時でもどうでもいい事を考えてしまうのか。
でもそれが、澤村翔という人間だった。
そして紛れもなく、俺は今でも変わらずに悠那の兄で居続けている。
誰が何の為にこんな事をしたのかは分からない。
だけど、誰であろうと、そんな奴の好きにさせてたまるものか。

◆◆◆

「……んっ」
「お、目が覚めたかな?」
「成功、したのか?」
俺は隣の少女を見ながら言った。
当の少女は凄く面白がっていたが。
「ははは。そこは普通『ここは……?』って言うところでしょ」
「ここは……?とは言えねえだろ。アンタらの世界なんだろ?」
「まあね。特にこれといったトラブルもなく、トリップは成功したよ」
「なら良かった」
見回すと、辺りには広大な丘が広がっていた。
見たことの無い動物が草原を走り回っている。
それが俺を、別の世界に来たんだなと実感させた。
少女はそんな俺を見ながら、会話を続ける。
「あー、そういえば途中翔君が私のあんなところやそんなところを触ってきたけど」
「それは正真正銘トラブルじゃねえのか!?」
おいおい。この小説をR指定しなければいけなくなるだろ。
やめてほしい。いや、やめてほしいのは俺自身か。
「あの揺れが激しいトリップを手を繋ぐだけで乗り切ろうなんていう私が浅はかだったよ」
「俺の判断は割と正しかったのか」
「ちなみにあんなところやそんなところっていうのは頭と腹のことね」
「紛らわしい表現をするんじゃねー!」

俺のツッコミで幕を開けた悠那を捜す旅は。
俺の予想を遥かに上回る、過酷な旅になるのだった。

Divine Force 第1章『始まりの鐘が鳴る時に』02 ( No.6 )
日時: 2016/10/10 23:39
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

「しっかし、別の世界、かぁ……」
青く澄み渡った空を眺めながら、俺はそう呟いた。
少女はそんな俺の言葉に首を傾げながら言った。
「なに、信じられないのかい?」
「いつもの俺だったら信じてないな。第一、アンタが部屋に現れた時点で追い返してただろうよ」
「それはとてつもなく困るなあ……」
いつもの君じゃなくて良かったよ、と少女がいう。
まあ、今の俺はいつもの俺ではない。
妹がいなくて取り乱してたのだから、正常な判断はできないだろう。
「ま、結論として俺はこの世界に来てしまったわけだ」
「そうだね。それだけは変えられようのない事実だろうね」
「それ、アンタが言う台詞じゃねぇよ」
「ははは。とりあえず、私達の世界にようこそ。」
私達はあなたを歓迎します、澤村翔。
少女は立ち上がって、深々と礼をしながらそう言った。
「そう言えば、アンタの名前をまだ聞いてなかったよな?」
「あ、あぁ……私としたことがすっかり名乗り忘れていた」
あちゃー、と少女は頭を抱えて嘆いた。
ぶっちゃけ俺も自分の名前ぐらい会ったときに言って欲しかった。
「うっかりさんかよ……」
「では改めて。私の名前はステラ・エレック・フォーサイスだよ」
「ステラ・エレ……あとなんて?」
「ステラ・エレック・フォーサイス。長ったらしいからステラでいいよ」
うーん、異世界の人は名前が長いのだろうか。覚えづらい。
いや、これに関しては日本人の名前が短すぎるだけってのもあるか。
世界を見渡せばこれぐらいの名前の人はざらにいるだろう。
……おっと危ない。名前トークで10行ぐらい使ってしまうところだった。
俺には語り部としての役割がある。さっさと話を進めなければ。
雑談も程々に、な。
「あー……じゃあステラ。これからよろしくな」
「うん。こちらこそよろしく、翔君」
ステラ(やっと名前で呼べるようになった)は、俺に握手を求めてきた。
俺はそれに応じる。そして俺達は固く握手を交わした。
それはもうぎゅっと。力強く。

……お?待てよ。
俺って今までの人生で母と悠那以外でここまで固く手を握ったか……?
これって結構貴重な体験なのではないか……?

このチャンス、逃してたまるか。

「か、翔君……?もうそろそろ離してもいいよ?」
「いいや離さねえ。あと5分……いや一生ステラの手を握っておこう」
「えっ、それはちょっとっていうかかなり怖い」
初対面なのに積極的過ぎないか、とステラに言われてしまった。
知るかそんなもん。第1印象なんてクソ喰らえだ。
キャラも崩壊なんてしてない。今後もこういう方向性で行くから覚悟しとけ。
「ステラの手あったけぇ……落ち着く……」
「わかった!わーかったから!私の手はいつでも好きな時に握っていいから!」
「え、マジで!?」
「翔君が手フェチなのはわかったから!」
とんだ棚からぼた餅である。棚から金塊レベルである。
俺は人生に勝利した……
いや、手フェチではないが。そこら辺はあとで訂正しとこう。
「えっと、今はとりあえず離して。私達にはやることが沢山あるから、ね」
「お、おう。分かった分かった分かった」
「言ってることと行動が伴ってないんだけどな!?って痛い痛い!」
結論から言うと俺はさらにステラの手を強く握りしめていた。
とんだ変態高校生である。恐るべきハイエナっぷりである。
どこからかハイエナネタをまだ引っ張るのかという声が聞こえたがな。
ちなみに手は振りほどかれてしまった。くぅーん。
「くぅーん」
「なんで犬の鳴きマネをしたのかなぁ……翔君はやっぱり面白いねえ」
「その一言で今の状況を片付けられるのかよ。ステラも十分面白いぜ」
心寛容すぎだろ。寛大過ぎだろ。
その心の広さっぷり、是非見習いたいものである。
「はは。さて、そろそろ下に降りようか」
「この丘の下になんかあるのか?」
「私達の町だよ。この話数中に行きたかったのに、雑談が長くなってしまったね」
「それはとてつもなく申し訳ない気分だ」
「いいよいいよ。町に行きがてら、私達の世界のことを話そう。行くよ、翔君」
「おう」

俺達は腰を上げ、ステラの町へと歩き始めた。

Divine Force 第1章『始まりの鐘が鳴る時に』03 ( No.7 )
日時: 2016/10/22 20:16
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

「さて、じゃあ話をしようか、翔君」
私達の町に向かう最中(ちなみに移動手段は徒歩である)、私は翔君にそう切り出した。
まあ、彼はスタンダードこう切り返した。
ん、この世界の話か?、と。
まあそれもある。私達の話もさせて欲しい。
私の話だよ。
ステラの話?どういうことだ?と、翔君は疑問の表情で言った。
ちょっとした身の上話だよ。と、私はそう言う。

今回、語り部が私になってるのもそのせいだけども。
次回からは普通に翔君に戻ってるだろうから安心して欲しい。
戻らなかったら?
まあそれはそれで一興、ってやつなのかな。
何せ、私は語り部なるものを今の今までやったことなんてなかったからね。
どうなるか自分自身でも分からないんだよ。
とっても楽しみであり、不安でもある。
翔君はなんなくこなしてる様だけども。
閑話休題。
話を元に戻そう。語り部について語りたいわけではなかった。
少々メタ要素が入ってしまうしね。
さて、ちょっとした身の上話だね。私の話だ。
私の名前は、ステラ・エレック・フォーサイス。
もう言っているけど、翔君が覚えづらいそうなのでもう一度言っておこう。
略してステラ。ほうら、とっても覚えやすくなった。
ちなみにエレックは御先祖様の名前らしい。どうでもいい、のかな。
私は、すぐそこにある町の町人なんだよ。
そんな一般町人の私は、今住んでいる村で妹と2人で暮らしている。
おや、どうしたのかな、翔君。そんな顔をして。
私に妹がいることに驚いたのかな?
それとも2人で暮らしていることに?
あぁ、どっちもかな。そうだよねそうだよね。
美少女が2人きりで過ごしていたら誰だって驚くよね。
ちょっと自分を過大評価し過ぎたかな?反省反省。
実は私、幼い頃に両親を亡くしているんだよ。
なぁに、ちょっとした事故だったんだ。
そこら辺については追々語ることにするよ。
今言ってもしょうがないだろうしね。
そしてそう、私にも妹がいる。君と同じだよ。
この妹についても追々語る、というか家についたら分かるかな。
ちょっと、妹と言っても特殊な感じでね。
君の考えている様なおてんば少女では全くないんだよ。
うーん、この世界についても語りたかったんだけど。
そろそろ町に着くようだね。思ったよりも近かったかも。
ずっとこうやって語っているのも疲れるし、続きは私の家で。

町の賑やかな空気が、風に乗って伝わってきた。
町はもうすぐそこにあった。
私の住む、町が。

Divine Force 第1章『始まりの鐘が鳴る時に』03 ( No.8 )
日時: 2016/10/22 20:19
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

「あっ、ちょっとストップ」
「どうかしたのか?」
いきなり止まった私を、翔君が心配するように声をかけてくる。
まあ、心配の要因は翔君なんだけども。
「例え話をしよう。翔君、宇宙人が町中にいたらどう思う?」
「どう思うか……?いや、なんつうか怖いだろ。素性知れねぇし」
「うん、つまりそういうことなんだよね」
「あー、なるほどな」
翔君はどうやら納得してくれたようだ。
なんて頭の良い子なんだろう。私は例え話が苦手な部類に入るのだけれども。
そう、翔君と私達の着ている服では圧倒的に違いがあるのだ。
もう多分素材レベルから違うだろうと私はそう思う。
そんな訳の分からない人が突然町に侵入したらどうなるか。
もう、大パニックだよ。
よく町に入る前に気付いたよ私。とても偉い。
「で、どうするんだよ。どうしようもねえだろ」
翔君は困ったように頭を掻きながら聞いてくる。
実はこれについてはあまり困らない。
とっておきの隠し玉があるのだ。
「ふふふ!実は私、魔法も使えるんだよ!」
「お、おう……」
まあ、本業じゃないんだけどね。
昔習ってたからそこそこのことは出来る。
ていうか、翔君の反応が気にいらない。
まるで、「は?お前らって全員魔法使えねえの?」って声が伝わってくるようである。
それぐらいの疑問を持っているような顔をしていた。
まったく、失礼しちゃうな。
他の世界だからって全員魔法が使えると思ったら大間違いなのだ。
そんなのは物語だけに留めておいて欲しい。
もし一般町人の全員が魔法を使えたら今頃世界で魔法戦争が起こってるよ。
「服ぐらいは余裕で作れちゃうから安心していいよー」
「それだったら洋服屋って結構商売あがったりだな……」
「ううん翔君、魔法は解けるものなんだよ」
「まさかの時間制限付きー!?」
シンデレラかよ、と翔君は言った。
はて、シンデレラとはどこのお嬢様なのかな?

◆◆◆
「よし、町に到着だね。ちょっと待っててね」
翔君を町の入り口付近で待たせて、私は町の見張り番と話をする。
まあ、一応住人じゃない人を入れるのだから。
これぐらいはしておかないといけないよね。
「おっ、ステラちゃんじゃないか!どうしたんだ?」
「おじさん私が話しかけるとやけに喜ぶよね」
「ステラちゃんは町1番の美人さんだからな!はっはっは!」
見張り番のおじさんはいっつもこんな感じである。
というかこの一連の流れをやらないと本題には入らせてくれないかもね。
魔法で翔君の衣類がなくなってしまう瀬戸際だっていうのに。
正直言って今日は勘弁してほしい(いつもは満更でもない)。
「ん?あちらの男の子は?彼氏さんかい?」
結構ハードな質問をしてくるおじさんである。
なんだろう、その歳になるとそういう質問をしたくなるのかな。
とんだ野次馬精神である。
「そんなんじゃないよ。遠い親戚の子だよ」
「ん?ステラちゃんにも親戚がいたのかい?」
「ぶっちゃけほぼほぼ赤の他人なんだけどね。血が繋がってるってレベルだよ」
私は結構嘘がうまいと言われる。自覚はある。
この場合、フォーサイス家は私と妹しかいないので、バレっこないのである。
流石私。翔君にも負けない頭の良い子供かもしれない。
「おお、なるほどなるほど。で、その子はこの町に何をしに?」
一応仕事だから聞くけど、とおじさんは言った。
「私達に会いに来てくれたみたい。道に迷ってるんじゃないかって外まで迎えに行ってたんだよ」
「ふうん。ま、害はなさそうだな。通っていいよ」
「ありがとう、おじさん」
ありがとう、私の嘘に騙されてくれて……私の心が少々傷んだ。
「翔君、いいってよー!」
私は大声で彼に伝えた。
「かける君?」
おじさんが怪訝な顔をする。
私は最後の最後にへまをしでかした。
これこそ私の恐れていたものじゃないか。
町中に宇宙人がいたらどうなるか。
緊張感を持っていなかった。

こちらに走って来た翔君に、おじさんは言った。
「ごめん、君。名前を聞いてもいいかな?」
ここで翔君が澤村翔と本名を言った時点で終わりである。
多分一家追放である。やらかしてしまった、と私は震えながら思った。

「俺の名前?グリューン・カケル・フェンゲルハウアーですけれども」
それがどうしたんですか?と、翔君はおじさんに言った。
「ほら、最近物騒じゃないか?ここら辺で聞かない名前だったから一応聞いておこうと思ってね」
「あぁ、物騒ですよね……こいつがいつもの癖でミドルネームで呼ぶから。悪かったです」
「こちらこそ疑ってすまなかったね。ささ、入っていいよ」
ステラちゃんも、とおじさんは言った。
「行くぞステラ。さっさと入ろうぜ」
「えっ……あ、うん……」
翔君は私の手を引いて町の中に入っていく。
私はほぼ引き攣られているようなものだった。
なんだかよく分からないけど助かった。
翔君の頭の回転は並大抵じゃないらしい。
「ねぇ、かけ……」
「グリューンって呼べよ。これ以上疑われてたまるかっての、めんどくせえ」
「あ……えっとグリューン君。どうしてすぐにあんな名前を?」
「ステラとあのおじさんの会話に耳を済ませてたんだよ。話を合わせる為にな」
「流石だね……」
本当、流石としか言いようが無い。
ちなみに名前は、「ゲーム」で使用しているものだったらしい。
翔君の世界のゲームは、いちいち名前を付けないと遊べないのかな。
他の世界は本当に未知の領域なのである。
私が知らないことも、沢山ある。

◆◆◆

町をしばらく進むと、古ぼけた様相の時計店が見えてきた。
「ここが私の家、だよ」
「ふぅん……って結構デカいところに住んでるんだな」
まあ、2人暮らしにはあり余るほどの広さだ。
「まあ、入ってよ、グリューン君」
「なんか自分で言っといてなんだが、その呼ばれ方なんだか歯痒いな」
翔君はポリポリと頭を掻いた。照れた時には頭を掻くらしい。
じゃあ、お邪魔します、と言って翔君は中に入っていった。
私もそれに続こうとする。

「……!?」

私は後ろを振り返った。
誰かの視線を、確かに感じた。
見られている。
翔君がこの世界に干渉したことを、気付かれたのか。
私の背中につーっと、汗が一筋流れた。
一応私は看板を「CLOSED」にし、扉に鍵をかけた。

もう時間が無い、急がなければ。

Divine Force 第1章『始まりの鐘が鳴る時に』04 ( No.9 )
日時: 2016/11/06 22:18
名前: 葉桜 來夢 ◆hNFvVpTAsY (ID: q9MLk5x4)

この町には見覚えがある、と俺はそう思っていた。
丘の上から町を見ていた時から、何だか既視感を抱いていたのだ。
「……夢、だよ」
そんな俺の思考を見抜いたかのように、ステラはそう言った。
夢、か。
そうか、昨日見た夢に出てきた町にそっくりなのか。

俺が今いるのはステラの家である、フォーサイス時計店だ。
二階の一室で、俺とステラは話していた。

「夢なんだよ。昨日、私は君に夢を見せた」
「夢を、見せた……?」
「昨日までは夢でしか君に干渉できなかったんだよ」
何を言ってるのかさっぱり分からない。
夢の中で、干渉?
「警告とも言う—ちょっとこれを話すと、長くなるよ」

◆◆◆
妹が消えた。
俺の妹、悠那が消えた。
ある日突然、人々の記憶から消えてしまった。
そんな超常現象、誰が起こせるというのだ。
「それが出来るのが奴等なんだよ—奴らは、deleteと名乗っている」
世界の破壊者だ、とステラは吐き捨てた。
彼らは歴史を壊し、未来を作り替え、その全てを手中に収めようとしているらしい。
「何故かは知らないけれど、その過程で君の妹が攫われた。
多分、未来で君の妹は君の世界に大きな影響を与えてるのではないかな」
と、ステラは言った。
うーん、あの妹がか。
一概には信じ難い話だが—俺の妹には何だか人間離れしているところが多々あったしな。
否定もできない。
「私は、奴らの悪事を追っているんだよ。
そうしたら、君の世界に奴らが干渉しようとしているのを突き止めたんだ」
ステラ達の世界では、他の世界に干渉するのは禁忌だと言われている。
悪事をするのなら尚更だ。
「それから私は君を調べあげた—何億といる君の世界の人間の中からだよ?」
骨の折れる作業だったよ、とステラは笑う。
そして、ステラは夢で俺に忠告した。
妹の幻影と、自らの姿を送って—。
「でも、間に合わなかった」
本当に申し訳なかった、とステラは頭を下げる。
だからこうして、俺はここに連れてこられたのか。
「いや、ちょっと待ってくれ」
「ん、どうしたのかな?」
「俺は何故、悠那のことを覚えていたんだ?」
そうだ。
俺だけが、あの世界で悠那の記憶を失わなかった。
それは何故なのか。
「奴らには壊せないものもある、ってことさ」
人と、人との強い繋がり。絆だよ—とステラは言った。
「絆……?」
「上辺だけの関係じゃない。君達は心の奥底から信頼しあってたんだよ」
上辺だけじゃない、心の奥底からの信頼関係、か。
俺と悠那に、果たしてそれぐらいの絆があったのだろうか?
「そして、それほど強い絆の記憶は奴らの荒作業では消しきれなかった」
奴らも私も、それほど強い絆があるだなんて知らなかった。
とてもイレギュラーなケースなんだよ。
だから妹を救えるのは翔君、全てにおいて君しかいない—。と、そう言った。
俺の目を真っ直ぐ見つめながら。

そう、そんなことはとっくに分かっていたのかもしれなかったが。
妹が今でも何処かで助けを求めているのではないかと思うと、胸が痛んだ。