ダーク・ファンタジー小説

Re: 怖い恐い話 ( No.24 )
日時: 2017/07/06 16:05
名前: 兎妬 (ID: 2XDHCgd7)

『佐藤さん』

わたしの名前は、佐藤紅音。このマンションに住んでいるあの子の母親の姉。妹が生前に「自分が死んだらあの子のことを傍で見ていてほしい」と頼まれた。そして、妹はあっけなく逝ってしまった。あんなにも息子のことをかわいがっていて、孫を見るまでは死なないと豪語していたのに。人間とはとてもあっけないんだと思った。
妹が死んでから、あの子はおばあちゃんたちが引き取った。そして大学生になり、このマンションに一人暮らしをはじめた。私は妹の言葉を思い出し、このマンションに住むことにした。妹の大事な息子を、傍で見守ることが私がしてあげられることだから。だから、あの子が大学に行くときは後ろからついていったし、帰るときもちゃんと帰れるように見守っていた。不審者が出れば、私が排除した。あの子に怪我をさせるわけにはいかないの、だって大切な子なんだから。だから、私の手がどれだけこのワンピースと同じように、赤く紅く染まろうと気にしない。妹がやっとの思いで、産んだ大切な子だから。
でも、人間って酷い。私はあの子が無事に帰れるように、不審者を排除しているのに私が不審者扱いだなんて。むしろ褒められることだと思うけど。まあ、どう言われようといいのだけれど。
そして、その日もまたいつものようにあの子の後ろを見守っていた。でもあの子はいつもと違った。私の存在に気づいた。私は慌てて先ほど買った夕食の食材を見せて、説明した。いつも気づかなかったあの子がどうして気づいたのだろう、絶対いつも気づかれなかったのに。私はあの子を見送った後、盗聴器を確認した。あの子に危険が迫ったら、いつでも駆けつけられるようにあの子には盗聴器を仕掛けてある。どうやら大学で友達から聞いたようだ。なるほど、確かに大学でそんな噂を聞けば後ろも気にするようになる。

次の日、あの子の友達がいなくなってしまったそうだ。あの子と仲良く話していたから、あの子もとても心配していた。可哀想に、私もあの子が心配だと心配になる。そういえば昨日の夜いなくなったらしいけど、私がいつも使ってる包丁から変なにおいがし始めたのも、昨日からだったっけ。まぁ、あまり深く気にしなかった。そして次の日もその次の日も、私はあの子を見守った。心なしかあの子が日に日にやつれていってるように見えた。ちゃんとご飯を食べてないのかな、それとも何か悩み事はあるのだろうか。朝、大学に行くあの子に何気なく声をかけてみた。聞くと、自分の周りの友達が次々といなくなっていき、深く悲しみ大学ではいい目で見られてないと言う。
私はあの子を悲しませている「不審者」を探し出すことにした。あの子の悲しみの原因を立ち去らなければ、でも中々不審者は見つからなかった。いつもなら、すぐに見つかるのにその不審者だけは、いつまでたっても見つからなかった。とうとうあの子は大学に行かなくなってしまった。ご飯も食べず、部屋でひたすら泣いていた。私はあの子を元気づけようと、夕食の買い出しに行った。あの子の好きなものはオムライス、妹が生きていた頃よくあの子に作っていた。さすがに母の味は再現できないかもしれないけど、きっと喜んでくれるはず。
そして、食材を選んでいたらすっかり暗くなってしまった。夜道を一人で歩いていると、明らかに自分の足音とは違う音が混じっていた。私が足を早めると、もう一つの足音も早まった。このまま振り切ってしまおうか、それとも消そうか。護身用にナイフなら常備していた、でも純粋にどんな人か気になった。なので、思い切って振り返ってみた。すると、そこにはやつれたあの子が立っていた。びっくりしている様子のあの子に声をかけると、あの子も買い物をした帰りのようだ。片腕を後ろに隠しているけど、ビニール袋の音が丸聞こえだった。同じマンションに住んでいるのだから、確かに帰り道は一緒だった。せっかくだからご飯をごちそうすると言って、マンションへ帰ろうと後ろを振り返った瞬間、背中の真ん中に重い衝撃が来た。そして、鈍い痛みがじんわりと広がっていった。背中が熱くなり、後ろにいるあの子を見る。あの子は泣きながら、私を睨んでいた。なんで殺したんだと叫ばれた時、私は気づいた。不審者は私だったのだ、最初から不審者なんてどこにもいなかった。私はこの子に近づいた人を無差別に消していただけ、勝手に不審者と頭の中で決めつけていた。
あぁ、この子が怒るのも当たり前だ。この子の友達も、全て私が消したんだから。どうしてこうなったのかな、最初は見守ってるだけだったのに。どこでおかしくなってしまったのだろう。いつからか、私はこの子を「守る」ことをはき違えてしまったようだ。ごめんね、こんなことになってごめんね。向こうに行ったら、妹にどんな顔をすればいいのかな。なんて呑気なことを考えているうちに、意識がどんどん遠のいていくのがわかった。

「なんでだよ、いつも見守ってくれてたじゃねぇか。紅音、おばさん…」


人間って、本当にとても呆気ないのね。


この物語はフィクションです、また自作の作品です。

こんばんは、どうも兎妬です。今回は紅い女のサイドストーリー(?)となっています。あんまりまとまっていない感じでしたらすみません(;'∀')
なんというか、作品に間が空きすぎて佐藤さんがどんな感じだったか忘れるというプぷちハプニングと戦いながら書きました(自業自得です)
そのおかげで全然怖くなくなってしまった感じがありますね、もっと精進いたします。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。