ダーク・ファンタジー小説
- Re: 怖い恐い話 ( No.26 )
- 日時: 2017/08/16 20:43
- 名前: 兎妬 (ID: 2XDHCgd7)
『幸福を呼ぶ座敷童』
私は、あの夏に奇妙な体験をしました。
私の家では、よく怪奇現象が起きます。ポルターガイストやラップ音などの、よくありがちな奴です。両親や祖父母は、座敷童が住んでいるんだと言っていました。私は小さい頃からそう言い聞かせられてきて、毎年お盆の季節にはお供え物をしています。最初はお化けがいると聞いて、幼い私はその座敷童をとても怖がっていました。ですが、私が家で怪我をしそうになると不思議と助けてくれるようになってからいつからか、座敷童のことを怖がらなくなりました。
そんな私も成長して高校生になりました。私が高校生になってもポルターガイスト等の現象や、家で怪我をしないなどと変わらず座敷童がいました。ですが八月のお盆の時期、毎年恒例のお供えをしようとした時不思議なことが起こりました。いつものように、家の中にある両親が手作りした通称「お供え台」という台の上にお供えしようとした時、小さい女の子のすすり泣く声が聞こえました。最初はいつもの怪奇現象かと思いましたが、その泣き声はとても切なく私の耳に聞こえてきました。私には生まれつき霊感というものは全く無く、霊を見たことも会話したこともないのですが、とっさに声をかけてしまいました。
「どうしたの?」
すると泣き声は止みましたが、何にも返答がありませんでした。少し待ってみましたが、やはり何も聞こえないので諦めて部屋に戻ろうとしました。その時、
「助けて」
か細い声で、ただ一言助けを求める声が聞こえました。私はあたりを見回しましたが、誰もいません。もしかしたらまた何か聞こえるかもしれないと、少し待ってみましたがいくら待っても何も聞こえませんでした。ですが、その日から毎晩深夜零時を過ぎると、また小さい女の子の泣き声が聞こえました。私は必死に声を掛けますが、何も答えずただただ泣いていました。最初はどうしようもできないのかと思っていましたが、あまりにも毎晩泣いているのでどうしてもあの子を助けてあげたいと思いました。と、言っても私は霊感も無いし、声を掛けても泣き止まないのでどうしようか困りました。なので、ある晩少しいつもと違った声を掛けてみました。
「どうして泣いているの?どこか痛いの?」
泣いている声は、とても幼い声だったので人間の子と話す時と同じように接してみました。すると少しの沈黙の後、か細い声で私の質問に答えてくれました。
「…出れないの、ここから出られないの。出して、出して…」
「どこから出られないの?」
「出して出して出してだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだしてだして」
その後、10分くらいなのでしょうか?私には一時間にも二時間にも感じられるくらい、あの子はずっと出してと言っていました。出してあげたいけれど、どこから出られないのかを聞いても出してしか言わないのでその日は仕方なく、そのまま眠りについていました。翌日、どうしたものかと考えながら廊下を歩いていると両親に呼ばれました。祖父母もおり、なんだか張り詰めた雰囲気でした。そして両親が口を開きました。開かれた口から出た話は恐ろしいものでした。
まず、座敷童は元々はいなかった。たまたま迷い込んだ座敷童を、祖父母たちがお札やらなんやらを使い座敷童を閉じ込めたらしい。それから毎年、自分らの私利私欲のために閉じ込めた座敷童を、まるで元からいた土地神のようにお盆の時期にお供え物をするという習慣をつけた。後に私が生まれ、閉じ込めたということは隠し元々いたかのように教え、怒りに触れないように崇めるようにしたということだった。そしてついに私にも座敷童の監視を任せたいという話だった。私はあまりの酷さに言葉が出ず、そのまま部屋に戻りました。その夜、ネットで座敷童のことを調べつくしました。
「座敷童がいなくなってしまうと、その家は火事になったりなど災厄が起こるか…火事か、全部燃えるのかな」
そう考えるととても怖くなりましたが、それよりも私はあの子の、座敷童が泣いているのを止めてあげたいと思いました。毎日毎日泣いているあの子の声は、本当に切なくなりました。きっとあの子は怖かったんだろうな、いきなり閉じ込められて外に出たいのに出してもらえなくて、暗い暗い部屋に閉じ込められるのはとても怖かったんだろうなと思いました。私は家こそ裕福なものの、心は真逆でした。学校でいじめられていなければ、あの子の気持ちも理解できなかったんだと思うと、その時だけは学校の人たちに感謝しました。私は学校で掃除用具入れに閉じ込められたことがありました。暗いし狭いし、息苦しくてものすごく怖かったです。なのであの子の気持ちが、痛いほどわかりました。
深夜、またあの子の泣き声が私の耳に入ってきました。私はまたあの子に声を掛けました。
「私が出してあげる、だからもう泣かないで」
するとまた泣き声が止まり、沈黙が流れました。そして、ちりんと鈴の音が部屋に響き、音がした方を見ると小さな女の子が立っていました。赤い着物を着ていて、おかっぱ頭のいかにも座敷童という見た目でした。こちらをじーっとみたあと後ろを向き、部屋の外へ行ってしまいました。私は黙って座敷童についていきました。すると、付いた場所はお供え台が置いてありました。座敷童は無言でお供え台を指さしていました。ここに閉じ込められているんだと言わんばかりに、台をじっと見つめ、指をさしていました。私はお供え台をくまなく調べました、するとお供え台の裏に数えきれないほどのお札が貼ってありました。普段は壁にぴったりくっついていたので、見つからないのも無理あると思いました。早速お札剥がそうとした時、手を止められました。座敷童は私の目をじっと見つめ、初めて口を開きました。
「私がこの家をでたら、あなたも家族もこの家と死ぬ。それでいいの?死ぬの、怖くないの?」
「…怖いけど、それより怖いのがあなたの気持ちも考えずに、自分たちのためにあなたを閉じ込める人間。」
お札を剥がしていき、最後の一枚を剥がすと同時に、キッチンから出火してあっという間に火が家中にまわりました。私がいるところにもまわってきて、紅い火が近づいてきました。私は逃げず、その場にただ立ち尽くしていました。部屋の温度もどんどん上がっていって、熱くて頭がぼうっとしてきました。ふらふらして、耐えきれずその場に倒れてしまいました。これから死ぬのに、自分の心境はあまりにもあっさりしていて不思議と怖くありませんでした。すると、座敷童が私を見下ろしていました。
「…死を恐れず、よく逃がすなんて決意したね。ありがとう、おかげでやっと出られたよ」
どういたしましてと言いたかったけど、喉が焼けてしまっているのか声が出ませんでした。そのかわり、私は笑顔をみせました。そして、私の意識はそこで途切れました。
あれから三年、私は奇跡的に助かり社会人になりました。祖父母はなくなり、両親は重体だけれど生きています。家は全焼、座敷童はもちろんいなくなっていました。なのに私はあの火事の中、火傷一つなく崩れた瓦礫に守られていました。私を預かってくれた親戚もとても驚いていました。そして、今は一人暮らししています。不思議なことに、一人暮らしを始めてからまだ一度も怪我をしたことはありません。
「不思議なこともあるもんだなぁ」
そう呟いて、眠りに落ちた。
「そりゃそうだよ、何故なら座敷童がついてるんだもの。本当はあなたのことも巻き込もうと思った、意識不明の重体にして両親を苦しめようとも思った。でもあなたの両親は少なくともあなたのことを一番に考えてた。私のところにきてあなたの健康を願っていたから、殺さないであげた。あの両親が何より大切にしていたし、私に自分たちはいいからあなたの健康を願っていたから火傷も防いであげたのよ。それに、こんな言葉もあるもんね。『子供に罪はない』だから、精々あなたが親になるまでは守ってあげるわよ」
すやすやと眠る寝顔を見て、私は姿を消した。
この物語はフィクションです、また自作の作品です。
こんばんわ、どうも兎妬です。今回はかの有名な座敷童様をお話に書かせていただきました。幸福をもたらすという座敷童、昔は神様として崇められていたでしょう。ですが、人間というのは非常に貪欲でずる賢い生き物で、自分のためなら神だろうと幽霊だろうと捕まえてしまいそうな気がして、今回はそれを感じていただければ幸いです。まぁでも、私も子供がいたら健康になってほしいので、同じことをしてしまうかもしれませんね。愛情故、されどそれが許されるかはわかりませんね。
では、ここまで読んで下さりありがとうございました。