ダーク・ファンタジー小説

Re: 革命前夜の旋律は。 ( No.4 )
日時: 2017/02/03 11:32
名前: 華琉 (ID: S3B.uKn6)

【親友】

歩斗が目をぼんやりと開く。
———ここは? 白い天井と白い壁。真っ白、じゃなくてクリーム色に近い。あぁそっか、ここは寮か。自分は横になっているようだった。
たてつけの悪いドアの開く音。誰だろう。ルームメイトか?
「アレグロ?」
「ブッブー! はずれですぅ〜」
壁の向こうから黄色いパーカーが見える。兎のたれ耳つきだ。
「アレグロは研究機構にお呼ばれしてるんじゃなかったのっ?」
くくっと笑って原色の塊が飛び出してきた。しかも声が高い。うぇ……目の奥から頭が痛くなってくる。
「宙乃……」
「あ、ごめんごめん。気分はどうですか〜?」
「君を見た瞬間に吐き気が」
「殴るよ」
宙乃が殴る真似なんかしていたけれど、冗談を返せない。本気の方で気分が悪い。
ベッドに座っていた歩斗を、ひざまずいた宙乃が覗き込む。
「大丈夫? 倒れたらしいじゃん」
「教授が、研究の参考人も兼ねて助手になれって。7年前のことで」
「Condemnedの事ね。私も言われた。まだ返事はしていないけど」
宙乃はあいつらの名前を堂々と口に出す。歩斗にはまだ、口にすることができない。あいつらが、出てくるような気がして。また自分の大切な人を、八つ裂きにされてしまう気がして。
飛び散る血が頬につく。
銃声が胃に響く。
冷たい水が体に纏わりつく。
あいつらの笑い声が谷にこだまする。
助けを求める目が刺さる。
くいしばった歯から小さい叫びが漏れる。
大切な人の内臓が……頭が……血にまみれた川に流れる。
最後に見た母の顔は半分水に沈み、肩から下が無くなり、血が噴き出し、目には濁った光がちらつく。その目は何もしなかった、助けることをしなかった歩斗への憎しみと恨みに満ち溢れているように見えた。
「ゴブッ」
胃から熱いものがせりあがってきた。胸が焼ける様で喉が痛い。苦い……。
「歩斗っ?!」
背中をさすられながら歩斗は嘔吐した。
いつもそう。Condemnedと聞くといつも気分が悪くなる。弱い。あいつらに、負けている。歩斗はそんな弱い自分が嫌いだ。嫌いで、情けない。
口についた嘔吐物を腕で拭う。
「俺やるよ。ぶっ潰してやる」
まだ頭も痛いし、気分も良くない。それでもあいつらの名を口に出せるようになりたかった。あんな奴らに怯える自分とは決別しよう。宙乃も勢いよく首を縦に振る。
「歩斗がやるなら私もやるよ。やってやろうよ」
宙乃が目に楽しそうな光を灯す。ドアの音がもう一度した。
「アレグロ!」
一層黒くなった肌と金髪。アレグロは歩斗の下を見る。
「あーあ、派手にやったなぁ」
「アレグロっ! 今の話聞いてた?」
「うん。俺も誘われたぜ。協力するよ」
歩斗もニヤリと笑う。さっきの弱気はどこへやら、足を組んで、腕も組合す。
「これで仲間が揃ったって感じだな」
アレグロが首をゆっくり振る。
「違うんだなぁ、それが」
みんなからの驚きの視線を優越感たっぷりに噛み締め、人差し指をチッチッチッと揺らす。宙乃が小声で欧米かッとつっこんだ。
「明日来るんだ、俺の仲間が。魔法研究機構で知り合った奴でさ、そいつもCondemnedの犠牲者だ」
「うっひょぉ〜! 男っ? 女っ? 」
明日のお楽しみだ。そう言ってアレグロは二ィッと笑う。


———後で思えば此処が転機だった。僕があの一言を出さなければ、と思ったことはない。でもやっぱり、これがなければこのカビの生えた世界はあんなに大きく傾くことはなかっただろう。傾き方が、僕らにとっていいことだったのか、それは誰にも分からない。