ダーク・ファンタジー小説

Re: 僕らの世界征服 【戦慄】 ( No.2 )
日時: 2017/03/30 22:49
名前: あぽろ (ID: 2bejoTrg)

「…ん………」

寒気混じりの風を肌に浴びて、暫くの沈黙の後石の地面の感触を確かめる。いわばコンクリートというやつだ。
目覚めたその場所は、ゴミ捨場のさらに奥にある路地の中。昼とは思えぬ薄暗さに加え、風まで通す。そしてその小さな声すらも反響してしまうほどの、細い路地であった。

「……っし、」

微かに喉が動くと同時に俺は立ち上がる。手のひらを見つめるとコンクリート跡が赤く残っていた。その凹凸がある小さな穴にはまった石を叩き落し、細い路地の中を通った。

「見えた…!」

目を見開き、自然と光が入る。耳から耳へと流れる人の声。
さっきまでとは全く違う、希望に満ち溢れたような明るい声が、自然と出た。
さっきまでの薄暗い路地に、コンクリート製の地面から抜け、電光掲示板、ビルが立ち並び、心が昂るような街並みに、今ではワクワクするような人混み。

全て、想像通りであった。

「渋谷だ……」

見えた光景をそのまま口に出した。それだけでもまた目が輝く様な気がした。
白い線とコンクリートの地面が交互に並ぶ横断歩道。それと交差点が入り混じった、異世界にはどこを探してもない様な、『スクランブル交差点』。
そして、電光掲示板からはCMが流れ、それも見覚えがないもので、また楽しかった。

「おいっ、黒神!」

そんな俺のご機嫌ムードを、一瞬で壊す様な声音。
勿論聞き覚えがあった。それと同時に、何かを企んだ彼の顔が頭に浮かぶ。

『赤沼』だ。

「なぁ〜に逃げてんだよ…」

背後から聞こえた声はまた嘲笑うようにして聞こえた。
聞こえたというよりは確実だと言っても過言ではない。

「おい…早く来い。みんな待ってるぞ」

そんな中ある意味救いの手を差し伸べたのは、富也だった。
ふと安心した眼中に入ったのは悔しそうな赤沼の顔だった。
血も涙もない奴め。そう目線と聞こえないような声で吐き捨てた。

「さ、揃ったか?」

その声に応えようと声とする方へと体を向ける。
すると見えたのは、寺山。頭脳派でこの中でのリーダー。年上でもあるのが、また頼もしかったのであろう。

「…あれ、飛鳥は?」

寺山の声にまた俺は振り返る。そこにはただの外壁がこれでもかと存在感を放っている。

「…糸蘭なら人混みに耐え切れなくてダウンしてるよ…」

どこかを向いて愛想なく答えた富也。
むしろこれがいつも通りなんかもしれない。誰も動じはしない。

「さて…集合場所にちゃんとついてるか?」

どこかから、空間ではない所から声がする。
でもその声は、どこか安心して、どこか親しみを持てる。
皆は一斉にポーチからスマホを取りだした。

「遅いよ赤沼の兄さん…もう飛鳥がダウンしちゃってるもん。」

俺が助けを求めるようにしていった。でもその表情は笑っていて、何故か安心していた。

「そっか、飛鳥は人混みが苦手だっけ?先が思いやられるなぁ」

スマホからは陽気な笑い声が聞こえる。その呑気さがまた赤沼のいいところでもあった。

「ってめ、うるせぇな…声がでけえんだよ…ちと黙ってろ。お節介野郎が。」

いつも通りの毒舌をスマホの前でもここぞと見せつける真治。
容赦ねえな…俺は諦めつつも心の中で呟く。

「あってめえ、それ言いやがったな?今お節介にならないように気をつけてたんだぞ?てか兄になんだその口の利き方!大体6つも歳が離れてるのにいい加n…」

『プチっ』

途中で会話が途切れたと思うと、スマホの画面が切り替わる。
赤沼の兄の顔ではなく、「通話が終了しました。」と白で書かれた画面だ。

「途中で切りやがった…!?」

「ったく…そういうとこがお節介っていうんだよ…今度会ったら○してやるよ…」

今頃赤沼の兄はそんな辛辣な言葉を言われていることは知る由もないだろうなぁ…胸中察するわ…

「……こんなんで征服出来んのか?…支配すら出来るか不安だってのに」

富也が冷静な分析を入れる。でもストレスに満ち溢れた赤沼を止めることはもう出来ない。一人で人混みの中へと消えようとする。

「ちょ…赤沼!飛鳥もいつまでダウンしてんの!行くぞ!?」

あぁ…こんなんで大丈夫かなぁ…
今頃危機を感じても遅かったのかもしれない。不安は高まるばかりだ。