ダーク・ファンタジー小説

Re: 死神は、今日も薔薇に唇を染める ( No.5 )
日時: 2017/04/12 09:41
名前: ぶたばらミルフィーユ ◆GwfDdNpqWQ (ID: Nt/V91yN)

【プロローグ】

この国には、奇妙な位置づけの人間がいた。常に国王の傍にいるのだが、執事や秘書とは違い対等の立場から物を言う。突然変異でしか有り得ない、希な紅の目と白銀の髪を持つ。難しい顔で言葉を交わすこともあれば、笑いながら乾杯する時も。これは後で知ったのだが、その存在は殆どの国民に知られていない。
……それが、ライネの父だった。
「親友なんだ。アイツも俺も、どちらかが居ないと成り立たない」
そう言って、父はいつも穏やかに微笑む。
ライネの血筋は祖父も曽祖父も代々国王の“親友” として人生を全うして来たので、当然ライネもその役職に付くのだと思い育って来た。黒かった髪も、次第に白く艶やかに染まっていく。ある日起きると、自分の目が紅に染まっていた。見えるものは同じなのに、瞳の色は違うなんて。感嘆の息を漏らして、鮮やかな色彩にライネはうっとりした。
ライネははしたない程に駆け回り、母や父に満面の笑みで伝えた。同じ様に喜んでくれるかと思ったが、その反応は期待はずれだった。残念そうに、期待はずれの様に、そして少しだけ嬉しそうに、苦笑したのだ。
「やっぱり、ライネが後継者になるのか。前例が無いから、苦労するかもしれないね」
ライネは女だった。これまで“親友”は男が務めてきたのは、国王も男だからというのが1番大きいのかもしれない。とにかく、100年以上続く“親友”を、女がやったという記録は1つも残されていなかった。

これは、ライネが“親友”の意味を知り、手袋をはめる様になる3年前の事。紅の瞳は、不幸の台風の目となるのに。無邪気なあの頃を思い出し、ライネは溜息をつく。