ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【滅びた世界の存在証明】 ( No.4 )
- 日時: 2017/06/01 10:19
- 名前: はむ。 ◆H5CzBEem7. (ID: pyCNEaEv)
〈色の付いた子供〉
「君はさ」
「何、馬鹿にしないで」
「失礼だな、馬鹿にする前提やめようよ。君は……とても綺麗な色をしている」
やめて、と耳を塞いだと思う。ヒステリックに叫んだと思う。丁度空が茜色に塗り潰されていた。上手い事でも言ったつもりか、と体が重くなった。自分は泥の塊だ。……そんな風に、思った。いつまでも付き纏う自分の「色」が嫌いだった。皆と違うのはたったそこだけ。そこだけなのに、人々は過敏に反応する。コイツも同じかと思うと、とっくに諦めていたはずなのに哀しくなった。
気遣うかのように優しく、頭に手が置かれた。ずん、と重い。その手にすがりたくなってしまって、また頼りたくなってしまって、柔らかくほどけた決意を無理に結びなおした。もう信じない。この手は汚い。周囲の奴らと一緒。駄目だ。ダメだ、泣くな馬鹿。
「ごめんね。ごめん、うまく伝わらない。きっと君はさ、すごくつらい思いをしてきたんだろうね。僕には想像がつかないくらいに、酷くて思い出したくもないような気持ちを味わったんだろ。だから僕が伝えた言葉は、不適切だ。」
つっかえながら、面倒くさい理屈を述べる少年は、どこからどう見ても格好悪かった。焦ってたし、慌ててたし。それでも私は……。
「でも、理解してほしくて。あのね、僕は本当に好きなんだ。君が好き……あっ、も、勿論友達としてね?! えっと、あ、何が言いたいのかというと」
ああ。私はこれを求めてたんだ。この人を探して迷いながら迷っていたんだ。体を縛っていた縄がほどけるように、何かが弾けた。心の底から嬉しい。きっとこの明るい気持にも、いつか闇が溶けてくるのだろう。それでも今は、この人と笑っていたかった。振り返って彼の顔を見つめる。頼りなさそうだし、鳶色の目はせわしなく動いて落ち着きがない。戸惑ったように首をかしげた。そんなところもまた好きだ。
「な、何かな」
「私も好きだよ、君の事」
「えっ! あ、友達としてかな。そうだよね、僕も嬉し」
「んー、ちょっと違くて、ちょっと同じ意味かな。好きだよ」
彼を翻弄させるのが面白くなって、そのまま答えは教えない。口を開けたまま固まった彼をおいて歩きだした。茜色、良いじゃないか。夕焼けが他の色を飲み込む。後ろから追いかけてくる足音がした。
そして今、警戒する私に全く同じ言葉をかけてくる少年がいた。
「君の色はすごく綺麗だ」
ねえ、どう思う。冷静な彼に尋ねたかった。疲れた様で諦めた様で。複雑な笑顔に何が隠れているか分からない。ここは「異端者」の場所。居場所じゃない、生きているだけ。冷たい視線を少年に向けた。
「ついてきて」
手を差し伸べる時、なんて言えばいいのだろうか。背後を歩かせるほど気を許すわけではなく、だからと言って見捨てるわけでもなく。またひとつの色が鮮やかに映し出される。
でも大丈夫、きっとだいじょうぶ。夕焼けの茜色は最強だから。全ての色を染め上げる。
——肩に、手が置かれた。それは泥の様に重かった。