ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【滅びた世界の存在証明】 ( No.5 )
- 日時: 2017/05/24 11:55
- 名前: はむ。 ◆H5CzBEem7. (ID: 9rKDLQ3d)
〈睨み合う子供〉
その日、集合した仲間の中に新しい子供がやってきた。その隣には、よく知ってる茜色の瞳。子供……といっても僕よりも大きく、年上だろうな、と感じた。20数人の遠慮ない視線を集中して浴びて、目を合わせないためにか真顔で下を向いている。でも、子供たちは敏感に反応した。「こいつは、普遍色だ」と。
普遍色——つまり黒や、黒に近い瞳をもつ者——の全てが、黒から遠い色の瞳をもつ「異端者」と敵対関係にあるわけではない。だから、この濃紺色の瞳も、本当に僕らの仲間になるのかもしれない。
鼓動が速くなる自分の心臓をなだめようと、精一杯の理屈を考える。でも、他の奴らとは違って、どうしても目の前で立っている少年を信用する事が出来なかった。深いふかい闇がその奥に隠れているような気がして、危険だと本能が告げていた。僕の本能がどれだけ正確で、役に立つ事を言っているのかは分からない。だから、証拠が無いといわれてしまったら何も言い返せない。
嫌になるくらい、僕は冷静に思考していた。怒ったり泣いたり笑ったり、感情の表現は最低限しか行わない。此処で生きていくために考え抜いた結果だが、、幼い頃は愚鈍で馬鹿で、そんな事も分からなかった。自分で自分が情けない。蘇った記憶の中で人々が見下し、嗤っている。そいつらと目の前の少年が同じ色の瞳をしている事に気付いて、気分が悪くなった。
「いいじゃん。彼はいい人だよ。ねぇ、仲間にしようよ」
茜色の瞳をくるくるさせて、ついでに体もくるくる回しながら明るく声を発する少女に、他の仲間も納得した様だった。……そう、どこまでも底抜けに明るくて真っ直ぐな彼女は、何故かとても人を見る目がある。新しくこの界隈にやってきた子供たちを選別し、仲間として引き入れるのは彼女の役割。僕も、数年前に拾われたのだ。
無表情で死んだように静かなこの中で、茜色の瞳だけがいつも楽しそうに輝いている。人望もあり、確かな実力もあり。でも僕は、その笑顔を見ても少年を引き入れることに賛成なんてできなかった。
どうしても気に入らない。少年を睨むとちょうど目があって、それとなく視線を逸らした。あの瞳を直視する事も出来ないような臆病者の僕。自分の気弱な態度も気に入らない。全部気に入らない。そんな考えを見抜いたように、肩に手がのった。見上げると、漆黒の瞳が諭すように此方を見つめる。周囲がざわめいた。
……そう、漆黒の瞳。女性らしく艶めいた長い髪。骨と皮だけ、というような華奢な体。諭すように僕を見つめた人こそ、今集まっている仲間たちの長だった。
「彼は……私が預かるわ」
乾いて平坦な声。少年に視線を流すと、そのまま踵を返す。戸惑った様に濃紺の瞳を泳がせる少年。その様子に苛立って、口から言葉が零れた。
「行けよ」
微かに少年が頷き、ゆっくりと走りだす。その様子を眺めながら、まだ少年の名を知らなかったなとぼんやり思った。
——少年への反感は、その背中が消えるまで忘れ去っていた。まるで、魔法にかけられたように。