ダーク・ファンタジー小説
- Re: 【滅びた世界の存在証明】 ( No.6 )
- 日時: 2017/05/25 15:33
- 名前: はむ。 ◆H5CzBEem7. (ID: XLtAKk9M)
〈眺める子供〉
腰まである黒髪が、歩くたびに揺れている。何も言えずにその後ろをついていった。建物の間、細い路地を通って町の方に歩いて行くようだった。此処にたどり着くまでの道中を思い出す。これといった苦労はなかった。あったのは、諦めだけ。俯き、前に視線を向けると黒髪が消えていた。
「えっ……」
「こっちよ」
声が、上から降ってくる。薄汚れた白い建物の屋根の上。そこに、いつの間にか黒髪の少女は立っていた。周りと比べると高い建物。母親と住んでいた町にあった教会によく似ていた。慌てて駆け寄る。少女が指さしたところに、今にも壊れそうな梯子がかかっていた。足をのせるとぎしっと音がする。早くしろとでも言いたげな視線を向けられて、渋々上へあがった。急な傾斜がつけられた屋根は、とても立ちづらい。平気な顔をしている少女は、きっと慣れているんだろう。不意に話しかけられた。
「此処に貴方を登らせた理由は分かっている?」
分からない。首を横に振った。彼女は無表情のまま、また喋り出す。
「今貴方の足を払えば、殺す事が出来るからよ」
血の気が引いた。確かに、慣れていない俺はすぐに転落してしまう。体格では劣っている彼女でも殺すのはたやすいことだろう。バランスを崩す自分が脳裏に浮かぶ。体温が下がって、何も感じていない様な顔が怖くなった。
「……殺すのか」
「いいえ。今はしない。名を教えて」
自分の声は震えているのに、少女の声は動じていない。風に黒髪がなびいた。何の反抗も出来ずに自分の名を呟く。
「そう。親は?」
「殺された」
目があった。蛇に睨まれた蛙。そんな言葉を思い出した。この漆黒の瞳に睨まれると、嘘がつけない。そんな気がした。
「この世界の中心は、あの黄金の塔。サンクチュール域の丁度真ん中にある。あれが崩れた時が、」
————?
問われて、強く頷いた。その行動が意味する事を噛み締めるように、強く。指にはめた銀のリングも、頷くように温かくなった。彼女が近付いてきて、思わず足がすくむ。
ふ、と微かに彼女が笑った。そのまま、屋根から飛び降りる。宙で1回転して、華麗に着地。満面の笑みをこぼして、背中を向けた。慌ててあとに続き、梯子を下りる。一瞬だけ見せた笑顔はとてもかわいらしくて、年相応の少女らしさを醸し出していた。黒猫みたいだ。そっけなくて、残酷で、時にとても愛らしい。