ダーク・ファンタジー小説

Re: その緋眼に映る景色はなんと呼ぼう 【和風ホラー】 ( No.6 )
日時: 2017/05/20 06:33
名前: 阿修羅 (ID: X2arTSSH)

第1章『目色の意味』

「…はっ!」

目が覚めた僕は、ベットから落ちるほどの勢いで体を起き上がらせ、ぜぇぜぇと荒く息をした。鼓動は触れなくても分かるくらい高鳴っていて、シャツが肌と密着するほどに汗を掻く。

まただ…こんな感じ。

夢を見ていた筈だ。
筈というのは、はっきりと分かっていないからだ。
自分自身がどんな夢かがわからないのだ。確かに「みた」という事だけははっきりと分かるのに…。思い出そうとすれば、だんだんと色褪せていき、完全に分からなくなるから考えるのをやめる。
でも、悪夢なのはすぐに分かった。
はっきりと覚えてなくて、ぼんやりとしていて説明することが出来ないものなのに、ただただ不安で怖くて恐ろしくて、そんな感覚だけが残っていた。

呼吸も鼓動も落ち着きを取り戻し、なんとかなったみたいだ。
喘息持ちの僕は、下手をすれば過呼吸になる。これで、何度か死にかけた。
枕元の近くにあるメガネケースを手で探りながら、床へと足を移した。眼鏡を取り出し、かけてみると先ほどまで輪郭がぼやけるほどだった景色は、はっきりとした形で目に飛び込んでくる。いつ見ても、この瞬間は感動する。
カーテン越しにぼんやりと柔らかい光が見え、チュンチュンと小鳥のさえずりも聞こえる。朝だ。
クローゼットを開け、制服を取り出す。
今日は平日だ。きっと、普通ならため息が出るところだけど、僕は案外学校は嫌いではない。というか、好きだ。だから、もう制服をつける時点でルンルン気分になる。
ボタンを1つ1つ留める感覚すらも楽しくて、いつの間にか鼻歌までも歌っちゃう。
そうすると、コンコンと僕の部屋にノックが響く。

「お兄ちゃん?起きてるんだったら、下りて。朝ごはん出来てるよ〜」
「わかった、今行くよ」
「ん〜」

あくび混じりで返事をした、妹。いつもこんな感じで妹が、僕に朝ごはんを知らせてくれる。ありがた迷惑というと、申し訳ないからありがたい行動としておこう。
ボタンを留めることが出来なくなることに、少しもどかしさを感じながら、僕は下へと降りて行った。

ゆっくりと歩く廊下には、ガラス越しに庭園が見えて、その庭園は日本の侘び寂びとかいうものを意識させるような佇まいである。
僕の家系はちょっと特殊なせいで、財産が沢山ある。
僕みたいな将来継がれる身にとっては、嬉しい話でもある。
その家系というのも、少し話しておこう。

僕の家系は''目''が関係している。
誰もが顔しかめていうんだ「目って、何か関係あるの?」と。
もちろん、少し前の僕なら同じ反応をしただろう。何故なら、この僕でさえ知らなかったことなのだから。この家にいるというのに、一切口にしてくれなかったからだ。これを終わりにさせようとしているのだろうか?
ま、そんなことは置いておく。
目が関係している理由は、僕の先祖にあたる人にある。
江戸時代中期の頃、今の僕たちみたいに財産を沢山持っていた男がいたらしい。その男は手を差し出すわけでなく、文句を言うわけでなく、ただただ人の迷惑にならないようにひっそりと自分だけの生活を送ってきた。
しかし、たくさんの金を独り占めした罰がくだったのだろう。ある日、男は倒れてしまう。そして、意識を取り戻した頃には、目の前は真っ暗になっていた。そう、失明したのだ。
倒れた拍子に、目につながる血管が切れて、見えなくなったらしい。
自分の目から見える、その世界が好きだった男は、見えなくなったことにひどく悲しみ、そして狂ってしまった。何も見えないことに、目を背けたくて、自分の目を自分の手で潰した。その時に見えた色は、狂ってしまいそうなほど綺麗な赤色をしていたらしい。
これが目が関係している理由。

先祖が見たという赤色は、僕の目の色の赤と関係している。
呪いか執着かなんだったか忘れたけど、この家系の男はみんな目が赤い。だからと言って景色も赤いわけではないが、瞳が赤いというのは少しだけ印象に残る。
赤なんて珍しいからな。
しかも、目の話は赤だけでは終わらない。
他の色だってあるのだ。例えば…

「お兄ちゃーん!早くー!」
「あ、うん!」

しかし、その考えはここで断ち切れた。
とりあえず、今から楽しみな朝ご飯だ。それを食べてからゆっくりと考えるのも悪くないだろう。
僕は知らず知らずのうちに駆け出していた。

* * *

Re: その緋眼に映る景色はなんと呼ぼう 【和風ホラー】 ( No.7 )
日時: 2017/05/20 07:00
名前: 阿修羅 (ID: X2arTSSH)

あ、皆さんに少し失礼な事をしてしまった。
僕の名前は朱姫 紗雪(しゅひめ さゆき)小さい頃から、この女の子みたいな可愛らしい名前が好きじゃなかった。これで何度からかわれた事か…
名前を紹介し忘れるなんてなんて醜態だ。以後、お見知りおきを…

僕は食堂が見えたあたりから、激しく動かしていた足を緩め、ゆっくりと歩いて近づいていった。

「お兄ちゃんおそーい!次もこんなに遅かったら、私が食べちゃうからね!」
「それだけはやめて…」

彼女は、僕の妹の朱姫 紫貴(しゅひめ しき)。
何度聞いても、いい名前をつけてもらったとつくづく思う。もはや、僕と交換して欲しいと思うほどだ。

僕は座布団に腰を下ろし、今日の朝ごはんを見つめた。
今回は無難なものだった。冷奴に納豆にご飯に味噌汁に卵焼きに焼き魚。飲み物はお茶だ。…また和食だな。まあ、好きだけど。

「いただきます…」
「いただきまーす!」

僕の元気のない声とは反対に、妹はパチン!と大きく音を鳴らしながら手を叩き、大きな声で挨拶をした。こうすると、両親が顔をしかめる事になるとは知らず…。いつも僕に責任回るんだよ!?分かる!?
でも、美味しそうにご飯を食べているところを見ると、暫くは続きそうだな…と、ため息をついた。

「あー!お兄ちゃん!もちゃもちゃため息ついたらもちゃもちゃ幸せ逃げるよー!もちゃもちゃ」
「食べるか、喋るかどっちかにしろっ…て」

それだけじゃないし。
ほっぺにご飯ついているわ、こぼしているわ、嫌いなもの残すわ!
なんだよ!お前には食べる時のルール知らないの?!最低限のルールしか出来てないな!?
はぁー…怒っていたってしょうがない。
僕は焼き魚に手を伸ばし、中身をほぐした。箸に絡みつくぐらいになったら、それをつまみ上げ、ご飯にのっける。そして、暫くご飯の蒸気にあてさせ、いいと思ったらご飯ごと摘み、口に運ぶ。丁度いい塩加減と、ご飯の甘みが最高で、自然と笑顔になってしまった。
卵も納豆も冷奴も味噌汁も、どれもご飯にあって美味しかった。

「ごちそうさまでした…」
「いってきまーす!」

妹はガタン!音をたてて立ち上がり、鞄を持って玄関へと行ってしまった。
おい。挨拶は…?
でも、そんな口聞いたら、こっちが潰される。それだけはごめんだ。僕は席をゆっくりと立ち上がり、洗面所へと向かった。
しっかりと鏡を見ながら、歯を磨いた。終わってから自分の部屋に戻り、学校の鞄、補助鞄を持つと、玄関へと急いだ。
玄関へ着くと靴に足をはめ、靴紐をキュッと結ぶ。そして最後にトントンと軽く蹴る感じで、つま先を地面に打ち付けると終わりだ。
玄関の扉に手をかけ、後ろを振り返ってから言った。

「行って参ります」
「行ってらっしゃい」

母がここまで見送ってくれるのが、何時ものことだ。
紫貴の場合、これをうざいだとか言っていない時に行こうとする。なんでなんだろう?嬉しくないのかな?
玄関の扉を横にスライドさせ、一歩踏み出した。ここで暫く、外の空気を吸い、朝独特の湿った空気の質感をじっくりと味わう。これが、僕の朝。

「おーい!紗雪ー!いるかー!」
「紗雪くーん、おるんやったら声だしてぇーな!」

暫くすると、幼馴染の大きな声がする。
2人は僕といつも一緒に登校してくれる、僕の友達でもあり家族同様の親友でもある。
僕は「はーい!」と大きく返事をし、2人のいる場所へとかけだした。

* * *

Re: その緋眼に映る景色はなんと呼ぼう 【和風ホラー】 ( No.8 )
日時: 2017/05/21 11:45
名前: 阿修羅 (ID: X2arTSSH)

「ごめん、待たせちゃって…」
「たくっ…本当だよなぁ」
「そんなことないでー、気にせんといて」

僕が謝ると、呆れたように言う翠疾 俊(すいばや しゅん)と、笑って手を振って関西弁混じりの橙螺 葛(だいだいら かずら)。
この2人は、僕の幼稚園からの付き合いで、家は左右2件隣だ。だからと言って、僕と同じぐらい広い…って訳じゃないだけど、そこそこ広い位だ。
でも、僕の家系と関係ある…と倉庫にあった古い書物に書いてあったはずだ。

その書物によると、赤い眼には必ずある色が周りにいる。それは、緑・橙・黄・紫の眼の者が近くにいるらしい。
どんな形であろうと、必ず親しい人物の中にいるらしい。
現に、俊は緑の目だし、葛は橙の目だ。言ってないけど、妹の紫貴は紫の目だ。何故この色なのか、諸説あるけど、1番有効なのは目を潰した先祖様が好きだった花が紫の紫陽花と、黄と橙の菊だったらしい。
だから、紫・緑・黄・橙が好きな色で、亡くなってからもなお見たいと思っているから。ということらしい。

と言っても、黄…とは誰のことだろうか?
僕のおさななじみは、もう1人いるけど…

「あ、そう言えば紗雪君!桐生ちゃんのお見舞い行かへん?」
「行く」
「そっか!じゃ、俊も強制な〜」
「は?!なんで俺が!」
「もー、文句言わへんの!たまにしか行けないんやから、そこは我慢!」
「チッ…分かったよ」

今、葛が言った子が、もう1人のおさななじみだ。
白舞 桐生(はくま きり)っていう子。この子は、僕の再従姉妹に当たる子なんだ。もともと僕は喘息持ちだけど、あの子のほうがもっと重症で、外も出歩くことが出来ないんだ。
実際、葛も俊もそれを知ってて、いつも気遣ってくれたんだよね。
幼稚園の頃は、まだマシだったから4人で一緒に遊んだりしてたけど、小学生になった途端、悪化して病院から出れなくなっちゃった…
それから、小学生の時は毎日通ってた。3日に一度くらい、3人で一緒に来るようなペースでいつもお見舞いしてたんだ。
中学校になった今、時間に空きが見えず、最近は2週間前に行ったきりになっていた。丁度1週間前は期末テストで、2週間前は単元テストだらけで勉強の日々に追われていたからだった。昨日でテストは終わり、ひと段落したので行こうということになったのだと思う。
正直久々に会うから緊張してるけど、会える楽しみの方が大きかった。
ルンルン気分で歩いていたら、葛から「危ない!」と声がかかった。

「…へ?」
ーゴッチン!
「いたぁ…」
「あらあら、大丈夫かいな?」
「ブハッ!電柱にぶつかるとかウケる〜あははっ!」

周りをよく見てなかったせいで、思い切り頭を電柱にぶつけた。
俊は笑い転げてるけど、葛は心配してくれた。
…有頂天になって、轢かれたりとかされたら危ないから、病院行くときはしっかり気を持とうっと…
僕は1人でそんな事を思っていた。今日は快晴の青天井だった。

* * *

Re: その緋眼に映る景色はなんと呼ぼう 【和風ホラー】 ( No.9 )
日時: 2017/05/21 21:42
名前: 阿修羅 (ID: X2arTSSH)

学校に着き、僕たちのクラス1-4のクラスへと入る。
少し遅い時間な事もあって、人が多くてざわざわとしていた。

「俊!おはよーっす!」
「はよ〜」
「橙螺君、おはよー!」
「おはよぅさん」

俊と葛は見た目と性格のおかげか、声をかけられやすい。いつの間にか、このクラスの中心的人物となってしまっていた。
冴えない僕は、2人の後ろに隠れて…

「朱姫もおはよ!」
「朱姫君、おはよー!」
「へ、え?…あ、おはようございます…」

という訳にはいかず、僕もなんだかんだ中心的になってしまっている。
何故かと、俊と葛に尋ねたら「分かんない方が可笑しい」って、呆れた顔で言われた。でも、本当に分からなくて首を捻ったら、葛が面白そうに笑いながら言ったんだ。「それは、顔が可愛らしいからやでー。お姫さん」とからかわれた。
結局僕が目立っているのは、容姿…という事らしい。
別に目立つような物ではない気がするけどなぁ…?

自分の席に着くと、いつもパッと何人かに席を囲まれる。
最近は、女子の3人グループによく囲まれてしまう。この3人は女子の中で特に中心的なグループで、少しだけギャルっぽい所がある。
キャアキャアと黄色い声をあげながら、僕の周りを囲った。

「ねえねえ、マジ今日のわたしさあ〜やば可愛くない?」
「う、うん。可愛いと思うよ…」
「ていうかさあ、遊びに行かね?テスト終わったしさあ〜」
「えっと…、親に聞いてから…決めるよ」
「てか、前に聞いた家に行っていい事については、どうなったの!?てか、マジ今日行きたいんですけど!」
「あ、その…今日は無理かな?用事があって…でも、明日ならいいよ?」
「え!マジで!えぇ〜、今日無理なのか〜。ざんねーん」
「あ、ごめんね…」
「いいのいいの!明日楽しみにしてんね!」
「ありがとう…」
「てか、宿題うつさせてくれね?私、ちょーやばいんだって!」
「う、うん…どうぞ」
「あざーっす!マジ優しいわ!紗雪君!ごめんね、すぐ終わるから!」
「うん、分かった…頑張ってね〜…」

いろんな話をごちゃごちゃとした後、彼女達は僕の宿題をとって自分の席に戻った。
ふぅと、疲れたという息を吐いた。
暫くしたら、隣と後ろからクスクスと笑う声が聞こえた。

「葛…俊、笑うなよ…」
「いやあ、あんさんモテモテやなぁ〜」
「紗雪、マジでウケる〜!!」
「葛冗談やめて、俊さっきからウケるしか言ってないよ?」

またいつもの通り、2人と当たり障りのない事をする。
これが普通。ふつうだったのだ。

ーキーンコーンカーンコーン

「あ、チャイム…」

暫くするとチャイムが鳴り、みんなが慌ただしく席へと戻った。
1時間目がそろそろ始まる。

* * *

Re: その緋眼に映る景色はなんと呼ぼう 【和風ホラー】 ( No.10 )
日時: 2017/05/24 22:34
名前: 阿修羅 (ID: X2arTSSH)

「おーい!席つけー!じゃ、テスト返すぞ〜」

えー!とみんなの中から声が上がる。正直言って、僕もこの時間が好きではない…
なんだか、よくわからない緊張感に…そして、高かった時は喜びだけど、低かった時のあのガンッと頭をぶつけたような衝撃は味わいたくない…
今日は、数学…か。
あんまり得意な分野ではないけど、計算なら得意だし…ま、計算と知識ぐらいかな?取れているのは…

「朱姫!朱姫!ほら、お前の番だぞ!」
「あ、はい!」

僕はガタッと音を立てて立ち上がった。自分の点数が気になったせいで、声が全く聞こえなかった。周りからの冷たい視線が僕を突き刺す。でも、それはふざけ的なもので、大抵のみんなは、僕が通り過ぎる前に吹き出してしまう。
それも、好きではなかった。

受け取った答案用紙を敢えて半分に折ったままにし、点数を見ないようにした。
と言っても、ほぼ無理だ。
答案用紙自体が薄いから、赤で書いた点数が紙越しにうっすらと見える。そんな感じだから、開く前にわかってしまう。そこが残念で仕方がない…
開いてみると、93点。まあまあな出来だ。
95点以上じゃないと、家として誇れる人物じゃないと言われる。授業の合間にある小テストや、単元ごとにある単元テストでは95点以上取れても、此処で通用しなければ、意味がない…
僕は溜息を吐いた。

「じゃ、一旦教え合いタイムとるからなー!教科書見たり、ノートを見返したり、友達と話し合ったりして見つけろよ!じゃ、スタート!」

そう言うと、消沈していた教室に活気が溢れ出す。
一気にざわざわと会話の波が襲ってきて、不快な気持ちにさせる。でも、2人が来るとそれは吹き飛んだ。

「ふーん、やっぱ紗雪は高得点か…」
「へー!すごぉー!紗雪君、頭いいんやな!」
「俊と葛は何点なの?」

僕が聞くと、2人は気まずそうに顔を見合わせた後に、小さな声で言った。

「俺は…、63点」
「僕は、45点やったわ〜…」
「そっかぁ、分かんないところどこ?」
「ここ!ここ教えてくれへん!?」
「じゃ、俺も。ここ教えてくれ。全くわからん」
「うん。じゃ、説明するね」

そうやって、手順良く植え付けられた知識を2人に教える。
たぶん無駄なことだろうに、2人は一生懸命言葉の一つ一つを漏らすまいと、聞いている。そう思っているのが伝わるのだ。表情や態度から。元から、こういうところが嫌いでもある。
態度や表情などの細かい動きから、人の感情読み取るなんて、罪悪感や劣等感などもあるが、一番は知りたくない感情を知ってしまった時。
1度経験したトラウマは、時が経つごとに苦味を増して、じわりと自分を苦しめる。そんな言葉のもうごめんだ。
僕が説明を終えると、2人とも感心したように頷いた。

「へぇ、凄いな。紗雪」
「僕、今度から紗雪君と勉強するわ〜」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいや」

そうやって他愛のない会話をすると、パンパンッと乾いた音が響き、この時間は終わってしまった。
みんなが慌ただしく席に戻った。

* * *

Re: その緋眼に映る景色はなんと呼ぼう 【和風ホラー】 ( No.11 )
日時: 2017/05/29 21:14
名前: ボーカルロイド (ID: X2arTSSH)

「ちぇ〜…、なんかこの点数はないよな〜」

俊は帰り道にブツブツとまだあの事について言っている。
あの事っていうのは、数学のテストで63点を取ったこと。別に、平均点は超えていたし、大丈夫かと思ったのに、俊にとってはかなりの大きなミスだと言う。
数学だけは、70点以下を取ったことがないって言ってたからかぁ…としみじみ思う。

「でも、まだマシやで〜。僕なんか、45点やで〜。こっちの方が大ミスやないの〜」
「うや、そっちの方がむしろ清々しいよ。なんか、惜しいって感じが嫌なんだよなぁ〜。下なら下で、もっと低い点数ならいいのにな…」
「そう言うもんかね〜?」

葛は疑問を持ちつつも、それで納得してしまったらしく、すぐに話題を変えた。

「ああ、そういえば…桐生ちゃんは何点だったん?」

桐生は、学校に行ってない代わりに、養護の先生がいつも桐生の病院に行って勉強を教えている。一応、ここの生徒って事になっているから、テストの日は養護の先生が見てる側で、解かなければならない。
そして、その返却する際は必ず僕らが行く事になっていた。
桐生は、普通ぐらいだからなぁ…

「確か、70点ぐらい取ってたよ。いつもと同じくらい」
「やっぱり、桐生ちゃんは絶好調やねぇ。僕も、その力欲しいわぁ〜」

冗談半分、本気半分できっと言ったのだろう。
おふざけにしては、何気に嫌味っぽいし、本気にしては、言葉は軽い。きっと、両方とも思っているのだろう。

例え、こんな状況だとしても、僕は目のことを忘れない。
赤の目には、必ず緑・橙・紫・黄が近くにいるということだ。
緑は俊。橙は葛。紫は紫貴だということは分かってる。でも、黄とは、いったい誰のことを指しているのだろう。
因みに、母と父は違う。父は赤で、母が橙だ。
だから、違う。いったい、黄とは誰のことだろう…

そう考えていると、葛の能天気な声が聞こえた。

「そういえば、桐生ちゃんの目って綺麗やないぁ〜」

別に、葛のことだからくだらないと思ったけど、「目」という単語が引っかかってとりあえず、耳だけは傾ける事にした。

能天気な声に続いて、うげ…という勘弁して欲しいような俊の声が聞こえた。

「お前、気持ち悪…」
「酷いなー!別に、綺麗なのは本当なんやから、ええの!」
「桐生って、何色だったけ?」
「うーん、確か…黄色…やったよな?」
「確かな…」

黄色…?
桐生の目が黄色?
もしかして…黄って…

僕の背中にひやっとした何かが掠った。

* * *

Re: その緋眼に映る景色はなんと呼ぼう 【和風ホラー】 ( No.12 )
日時: 2017/05/29 21:17
名前: 阿修羅 (ID: X2arTSSH)

すみません…
二次創作小説を執筆した後に来たため、>>11の名前がそちらで使っている、「ボーカルロイド」になってしまっています。
でも、人物は変わっておりません。

ちょっとしたミスですみませんでした。
今後このような事が無いように気をつけます…

Re: その緋眼に映る景色はなんと呼ぼう 【和風ホラー】 ( No.13 )
日時: 2017/06/11 20:22
名前: 阿修羅 (ID: X2arTSSH)

>>11

何故ひやっとしたか。
それは、先程から僕が言ってきた先祖の話。目の色の話。そういう、色々なもの。実は、このことは僕の家族内で聞いたわけじゃなくて、桐生から聞いたことなんだ。桐生は、僕が小学生の頃、「面白いこと教えてあげる」と遊びに退屈していた僕にそう言った。
驚きの連続で、いつの間にか僕は話に夢中になっていたのを覚えている。

あの時、桐生は窓を見ていた。
夕焼けの赤が僕と桐生、そして病室全体を煌々と赤く染め上げていた。此処まで状況を鮮明に覚えている割には、目の色は覚えていない。
まあ、それもそうだろう。
桐生は、昔から窓を見ている。ほぼ、振り向くことはないだろう。だから、目の色のことを知らなかった。にしても、今になってはなんでその行動をとったのか…大体予測がつくのは何故だろう?
前は「景色でも見たいのかな?」とか、純粋無垢に受け取っていたけど、多分違う。桐生は、目の色を隠そうとしていたのだろう。多分、僕だけに。
何故かっていうと、葛と俊が桐生の目の色を知っているから。
たまに、僕でも行けなかったり、遅れて来ることはある。だから、2人だけってのもあった事はあった。その時は、窓を見ずに顔を見合わせて、笑いあっていたに違いない。だから、目の色を覚えていた。

まぁ、如何にせよ、今回は3人だし、その事については、また2人きりになる機会があったら、話そう。
コツコツと廊下に僕たちの足音が響く。なんとなく、この音にびくりとする事もある。そして、特定の部屋を見つけると、一声かけてガラッとドアを開けた。
其処には、桐生の隣で楽しそうに話す少女。2人とも、笑っている。

「あれ?桐生ちゃん。その子…誰なん?」
「知り合いかなんかだろ?なあ、紗雪」
「……」

1人、その少女に目を向けながら硬直していた。だって、其処には…其処には…
僕の妹、朱姫 紫貴が座っていたからである。
なんでなんだ?僕は、紫貴に病院も教えていないというのに…!!
何故だ?!

頭ん中でぐるぐると渦巻いていく感情に、終止符を打ち込んだのは意外にも桐生だった。

「ま、驚かないでよ。紗雪くん。妹ちゃんを呼んだの私だし」

そうやって、意地悪くにっこりと笑う。
葛と俊は僕の妹という事に初めて気づいたらしく、驚きの表情を露わにしている。といっても、2人は初めてじゃないはずだけどな…
桐生は、ニコニコと笑顔を絶やさないまま、話を続けた。

「まあ、座りなよ。今日は、この4人に話があるんだから」

そうやって笑う桐生の目は、怪しげに黄色く光った。

* * *

Re: その緋眼に映る景色はなんと呼ぼう ( No.14 )
日時: 2017/07/01 07:35
名前: 阿修羅 (ID: X2arTSSH)

僕の頭に浮かぶのは、あの先祖様のこと。
目の色…僕らの目の色が関係している、あの…呪いのこと。
僕は赤。あの、狂ってしまった先祖様と同じ色。

桐生は、特にこっちを見るでなく、すぐに窓の方へ目を移した。

「綺麗な夕焼けだよねぇ…」

全く関係のない話だ。何故、そんなことを話したのだろう。
それは、事情を知らない紫貴や俊や葛にも分かったらしく、不思議そうに首を傾げている。
僕は、少しでも桐生を警戒しすぎていたのか…?ただ単に、みんなと話したかっただけかもしれない。僕のとんだ早とちりで、別のことと捉えてしまったのかもしれない。みんなが首を傾げてるのは、どう答えればいいか考えているからかもしれない。
そうだ。きっと、そうに違いない。
僕は僕を暗示し、きっとそうだと信じ込ませた。しかし、消せば消すほどその色はだんだん濃くなるばかりで、疑いや不安ばかりが膨らむだけであった。

「そろそろ…さ、現実逃避もそれまでにしなよ。沙雪くん。見苦しいよ?」

目の前に目を移すと、少し不満気そうな桐生。
一体何に怒ってるんだ…というか、何故わかったんだ。

みんなの視線は僕に注がれており、決してそれは心地の良いものではなかった。怪訝そうな顔で、探るように見てくるのである。それは、誰にだって不快だろう。

「まあ…腰掛けてよ。私の話…聞いてからにしてくれる?」
「…分かったよ」

僕は焦る気持ちを振り払うように、前髪をかきあげた。そして、意外にも汗をかいていた事に吃驚した。
僕は、悟られないように、平常心を保ちながらゆっくりと腰掛けた。
僕が腰かけた途端、ふー…と息を吐いた桐生は、周りを見渡してから、口を開いた。

「結構前から、沙雪くんには伝えていたんだ。…昔の事を」
「昔の事?…って、なんのことや?」

葛が不思議そうに相槌をうつ。
そりゃそうだよな。急に僕のご先祖様のお話なんて…知る由もない。
しかし、蔓はああ。と手を打った。

「もしかして、前に話した…沙雪くんのご先祖の事?」
「そう。そういう事」
「一体それがどうしたんだよ」

葛は少しあやふやながらも、なんとか思い出したみたいだ。俊もそれを知っていたみたいで、桐生に話を急かした。

でも、なんで知ってるんだ。もしかして…紫貴も?

「私も知ってる。ていうか、目が関係してるんでしょ?」
「そうそう。目が…ね。今日は、そのお話」
「へー、面白そう!」

予想が当たってしまったようだ。どうやら、紫貴も知っていたらしい。しかも、葛や俊よりも、もっと深く…。
桐生は、少し上機嫌なのか笑いながら…話を続けた。

「じゃあさ、目の関係性って知ってる?」

そうやってまた笑う桐生。何度見ても僕の心には恐怖というものか植え付けられた。


***