ダーク・ファンタジー小説

004 ( No.43 )
日時: 2017/11/16 16:34
名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: y68rktPl)

 朝比奈和幸、三十半ばの男性。整った綺麗な顔立ちは中性的で、初見さんは「女性」と見間違う人もいるくらいだ。
 そんな彼には血の繋がらない二人の子供がいるという。それが俺、朝比奈浩輔と朝比奈真尋である。
 真尋は和幸さんに実の子供のように可愛がられて育てられたが、結局は血の繋がりなんて一ミリともない赤の他人。

「死んだんだって、私のお父さんとお母さん」

 俺が初めて真尋に出会った日。その時に最初に真尋に話しかけられたその言葉。
 声は震えることなく、逆に透き通った綺麗な声で俺に刃を向けた。俺のことをにらむことなく、かといって表情が豊かだったわけでもない。ただ一点に俺のことを見据えて、九歳であるという事実を忘れさせるかのような態度で俺の隣に彼女は座った。

「きみは、だれ」



     □ □ □


 自分の人生が大きく狂ったのは二分の一成人式が終わって帰ってきた日のことだった。楽しかった思い出と、プチ卒業式みたいだったその大きな行事に俺の心は変に騒いでいた。
 今日の夜ご飯はなんだろうな。ハンバーグだったらいいな。そんな子供っぽいことを考えて、帰路に就く。
 ようやく家が見えたかと思うと、俺の目には余計なものが映った。大量のごみのような集団。子供ながら、俺の家を取り囲んでいたあの連中を俺はごみとしか判断していなかった。俺を見つけるなり何の躊躇もなくマイクを突き付けフラッシュを浴びせるあの大人たちを、ごみと呼ばずにに何と呼べばいいのだ。
 
 そのあとに、家の中に入ると俺の大好きなお母さんは首を吊って死んでいた。声が出なくなるほど悲鳴を上げるのは後にも先にもこれっきり。家の周りにたむろっている記者どもで薄らと父親が何かをしでかしていたことに気付いた俺は、すぐにすべての根源が自分の父であることを察した。
 すぐに救急車を呼んだが、母親は生き返ることはなかった。冷たいまま、死んだまま、俺のお母さんは俺を捨てていなくなった。

 それから俺はしばらくの間施設に預けられた。俺はテレビのニュースで自分の父親である柿谷真介が、自分の会社の取引先の宮下夫妻を殺したということを知った。宮下夫妻には小さな子供がいて、残されたその子がとても可哀そうだとコメンテーターは俺の父親のことを責めていた。殺人者の考えることはわからない、残酷だ、こんなことはあってはならない。そんな綺麗ごとを並べる大人たちにもうんざりして、それでも最終的には自分の父親が最低だという結論に至るのだ。
 最初に父親が人を殺したというニュースを見たときに俺が思わず吐いてしまったから、それ以降は施設の人たちがニュースをつけなくなった。大丈夫だからね、と何度も何度も俺のことを励ます大人に俺はどうすればいいのかわからなくてただただよくわかりもしない感情のまま笑っていた。根拠もない大丈夫が一番嫌いだ、その時にそう思った自分が一番嫌いだ。

 
 施設に俺に会いに二人の人間が来たという。俺が施設に来て、つまり俺の父親が人殺しをしてから一週間経った日のことだった。先生が会わなくてもいいのよ、と何度も念押ししてくるからそういう人なんだと思った。だから、俺はその人たちに会いたいです、と先生が望む方向とは逆を選んだ。
 片方は、大人。もう片方は、小さな小さな少女だった。

「初めまして、柿谷浩輔くん。僕は、朝比奈和幸といいます」
「……はじ、めまして」

 まだ二十代くらいの若い男だった。けれど今時の若者という感じは全くなく、社会人としての魅力というのだろうか。父親の会社とかによく来ていた営業の人の瑞々しさみたいなのを感じだ。
 ぺこりとお辞儀をした朝比奈さんは、隣にいた女の子のことを紹介した。

「こちらは、宮下真尋ちゃん。君より一つ下の女の子だよ」

 真尋、と呼ばれた少女は俺に笑うことなく小さくぺこりとお辞儀をした。俺も初めまして、と言いながら頭を下げて返した。けれどそれっきり会話みたいなものはなかった。
 最初の印象は無口な女の子。恥ずかしがり屋とかそんな感じでもない。
 俺のことを見る目も周りの大人たちとは違ったこの二人はとても心地が良かった。そのあと、朝比奈さんは施設の先生と少しお話があるからと言って抜けて行った。残った俺たちは会話もできないのに。真尋ちゃんを見つめて、それに気づいた真尋ちゃんがこちらを見たら俺は目をそらす。まるで初心な恋みたいなソレは甘ったるくて気持ちが悪かった。