ダーク・ファンタジー小説

009 ( No.48 )
日時: 2017/12/11 20:02
名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: Uj9lR0Ik)
参照: 視点が変わります。真尋です。


 今日も最悪な日だった。
 私の一日はそんな一言から始まる。


「あーあーあーあー」

 声にならないその言葉に何の意味もなかった。制服のままベッドにダイブした私は近くにあった抱き枕にギュッと抱き着いて大きなため息をつく。幸せが逃げますよ、と笑いもせずに私に言った浩輔のあの言葉を思い出す。浩輔の顔が脳裏に浮かぶたびにイライラするのは、きっと今日のことがあったからだ。

 久しぶりにあの女を見た。宮森かずさ。私はその言葉を譫言のようにぼそりと言ってあとで後悔した。宮森かずさは私の恋人の妹だ。セミロングの髪の毛は日に当たると少しだけ明るい茶髪になって、顔の薄いそばかすも笑うとなんだかかわいく見える。浩輔が昔彼女のことをそういっていたのを思い出して無性にまたいらっとした。よく浩輔に「可愛い」といわれる女子。私は彼女のことをそう認識している。浩輔に可愛がられていい気になっている女子。ただのクラスメイトのくせに調子にのるな……今日そんな話を恋人のスバルにすると彼はいつものように笑って「そうなんだ」と相槌をうった。自分の妹の悪口を彼女が言おうとも、スバルにとっては関係ない。スバルはかずさとは仲が悪かった。



     □ □ □


 高校に入ってすぐ、五月のゴールデンウイークに入る前だっただろうか。一人の男子が告白してきた。よく見てみると入学式の時に代表で挨拶をしていた男だった。生徒会長イケメンだよね、と周りの中学よりすこしスカートの短くなった女子たちが言っていた。

「こんなところで一人ですか、お嬢さん」

 その日は浩輔に振られた日だった。お弁当を一緒に食べようと彼に登校中に言ったら「ただでさえあなたと一緒にいると目立つのに、そんな自分からまずい飯を食いに行くようなことはしたくありません」とやんわり断られた。いま思えばっさり断られていたようだ。
 浩輔に弁当を振られて私は中庭のベンチで一人弁当を広げていた。四月のいい天気、広がった青空に花壇に咲いている色とりどりの花たちは、私の傷心を少しだけ励ましてくれているようだった。
 浩輔に作ってもらったお弁当の中から唐揚げを口に運んでいると彼は私のもとにやってきた。お嬢さん、なんてお前は大正の人間かタイムスリップかよ。と心の中でツッコんでにっこり笑ってそれに応えた。

「そうですけど。どうかしましたか」

 生徒会長のその少年はとても綺麗な顔立ちの男だった。
 すらっと身長が高く、髪を少しだけ赤く染めている彼は私を怖がらせないようにか笑顔を絶やすことはなかった。だから余計に怖かった。

「お弁当、おいしそうだね」
「そうですか。私の兄が作ってるんです。おいしいですよ」

 歯切れが悪いしゃべり方になった。私は先輩に話しかけられているのにも関わらず箸を止めることはしなかった。

「へぇ、お兄さんが……すごいね。自分で作ったりはしないの?」
「しないですね。兄が今まで作っていたのに便乗してるだけなので」
「お兄さん、学生?」
「この学校にいますよ。朝比奈浩輔といいます」

 私がその名前を告げた時の、彼の表情といったら何とも言えないほどの喜びようで。まるでツチノコでも発見したかのような顔だ。腹立たしい。
 兄のことを知っている人だとすぐに分かった。それでも生徒会長のことなんて浩輔は今まで何も言わなかったし、そもそも浩輔と彼は学年が違うはずだ。

「そっかー浩輔くんのいもうと、さん」

 にやにやした顔がとてもムカついた。
 浩輔を今すぐに殴ってやりたい衝動にかられた。