ダーク・ファンタジー小説
- 011 ( No.50 )
- 日時: 2017/12/20 19:06
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: y68rktPl)
城谷スバルには一人、妹がいた。浩輔と同じクラスらしい。だから自分は朝比奈浩輔を知っていたと彼は言ったけれど、それは多分嘘だった。
スバルに妹がいるのは事実だったけれど、その妹が浩輔と同じクラスだったのも本当だったけれど、それでも浩輔はスバルのことは知らなかった。嘘つき。けれど、やっぱり彼がどうして私たちの秘密を知っているのかが不思議で不思議で仕方がなかった。漏れるはずのない私たちのたった一つの秘密——。
ふと気が付いたら、窓の外はもう真っ暗だった。電気をつけて時計にめをやるともう十九時を回っていた。いつもなら起こしに来る浩輔も姿を見せず、きっと今は私に会いたくないんだろうなぁと自己解決した。
服を着替えて下に降りる。リビングではパソコンとにらめっこしている和幸さんと、課題を広げてうなっている浩輔の姿があった。
「起きましたか、真尋様」
私の姿に気づいた浩輔は教科書を閉じ、立ち上がった。
「おなかすいた」
私がぼそりとつぶやくと、浩輔は「ごはん、できてますよ」と笑った。ほんの数時間前に私が浩輔を殺そうとしたの、ちゃんと覚えているのだろうか。様子を何一つ変えない浩輔は私の横をするっと通り抜けるようにキッチンに向かった。作っていたカレーをあたためつつ、炊飯器からご飯をよそう。主夫みたいだ、なんて思ってしまって私は大きくため息をついた。
こうやって幸せな日常は、私が望めばあたりまえになるのに。
——わたしはね、あなたをころしたいの
たったひとつ。わたしのねがいは、あなたのふこうなかおをみること
幼いころの自分の考えは、今でも変わっていない。あの日の約束に囚われているのは、きっと私のほうだ。椅子に座った私の前に浩輔がカレーを置く。私の大好きな中辛のそのカレーは、きっと今日も美味しいのだろう。でも、私は彼に美味しいなんていってあげない。浩輔に優しくなんてしてあげない。
浩輔の苦しむ顔が見たいんだ。浩輔のことは大好きだけど、私が彼を殺したい。私が朝比奈浩輔を、柿谷浩輔を殺したいのだ。私以外が浩輔を殺すなんて許せない。浩輔にはうんと苦しんで死んでもらいたい。私の大切だった家族を奪ったアイツの息子、たった一人の大切な息子。その命さえ奪えれば私はきっと死ねるんだ。
□ □ □
一緒に死にたかった。お父さんとお母さんと一緒に死にたかった。けれど、アイツは私を殺してはくれなかった。私を見て、ごめんねといったアイツのあの表情はいまだって思い出すたび吐き気がする。浩輔の父親は最低だった。私を殺してくれなかった。私を不憫に思ったのだろうか。私がかわいそうに思えたのだろうか。自分の息子よりも年下の、そんな子供の命を奪うことは自分には出来ないなんて、そんな偽善だ。一人殺すも二人殺すも一緒だっただろうに。それなのにアイツは私を置いて刑務所に入った。ひとりぼっちはいやなのに。あぁ、思い出したくないな。
カレーはやっぱり美味しかった。さすが浩輔だ。将来はシェフにでもなればいいのにって思いながらも口にすることはなかった。隣で作業している和幸さんは私が食べ終わったのを見て「美味しかったね」と笑った。「別に」とそっけなく返すけれどきっと和幸さんには気づかれているだろう。
私を救ってくれた和幸さん。感謝してもしきれないのに、それなのに未だにあなたのことを好きにはなれない。食べ終わってから口の中がピリピリしてきて私は水を飲んだ。福神漬けのあの味と、辛いスパイスの味が口の中に広がって気持ちが悪かった。