ダーク・ファンタジー小説
- 013 ( No.52 )
- 日時: 2017/12/29 22:30
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: lQjP23yG)
大人は理不尽だ。自分の愛のためなら何でもする。そう知ったのは、ランドセルを買ってもらった日のこと。最初から全部おかしかったんだ。可愛い娘のランドセルを買うのが赤の他人なんて、そんなの普通じゃない。
浩輔の父親に殺された私の両親は、きっと殺されても仕方がない、最低最悪な人間だった。きっと浩輔の父親が、真介さんが殺さなかったらきっと私が殺していたんだろうなって、そう思う。いつも繰り返し大好きだった彼のことを思い出してはそれを浩輔と重ね合わせて私は大きなため息をつく。
死んでしまえ、口に出すことで自分を自分で傷つけた。
□ □ □
両親がおかしかったことは、きっと私しか知らない。
うちの両親は本当に仲が良くて、父は愛妻家とか言われて、母は料理が上手で、そんな素敵な家庭だった。やさしい両親に育てられ、父親が会社を経営していたために裕福な暮らしもさせてもらっていた。そんな温室育ちのお嬢さん、それが宮下真尋だった。
「おかあさん。もうすぐ真尋ね、しょうがくせいになるんだよ」
「そうねー、もうそんな年になったのよね、真尋も」
お母さんがいつものようににっこり笑って答えた。
まだ六歳の小さな子供だ。その笑顔の裏なんて考えもしていない。
「あぁ、そうだ。今日は柿谷さんがくるわよ」
「真介さんくるのー!」
子供の私は彼の名前を聞いて無邪気に喜ぶ。真介さん、柿谷真介さんはお父さんが社長を務めている会社の取引先の子会社の社長さんだ。お父さんとは同じくらいの子供がいるということで意気投合して、たまにうちでお酒を飲んだりしていた。真介さんは子供がとても好きな人で、私ともよく遊んでくれた。私は単純だから自分のことを可愛がってくれている真介さんにすぐに懐いた。
真介さんが来る、ということは今日はお泊りするのかな。なんてそんなことを考えていると玄関のチャイムが鳴って私はすぐに駆け出した。真介さんだ! 小さい足裏で地面を蹴飛ばして、ひたすらに腕を振る。
「しんすっ——」
玄関を開けて彼の名前を呼ぼうとした。だけどすぐにやめた。
真介さんじゃなかったのだ。違う、別のお客さん。私はすぐに口元を手で覆い、恥ずかしくなってすぐにお母さんのもとに帰って行った。
お母さん、真介さんじゃなかった。そういうと、お母さんはびっくりしたような顔をして玄関に向かった。お母さんの知り合いだったのかな、って思って私は覗き見をするようにそっと玄関の様子を見てみた。
お客さんはとても若い男の人。スーツが男物だから男の人だって分かったくらいに顔がきれいで中性的なその男性は私が物陰から見ているのに気付いたのかにこりと笑った。
お母さんと楽しそうに話をする彼に私は嫌悪感を抱いた。ぐちゃっとなった自分の心は自分の意志ではきれいにすることはできずに、ひきつった笑顔で彼に笑い返した。
「初めまして、朝比奈和幸と申します」
お母さんとの玄関先での会話が終わってもう帰るのかなと思っていたらお母さんが「お茶でも」と勧め、彼は和室のほうに入ってきた。私はなんだか嫌だったけれどそれも言えずにお母さんの隣に座布団をしいて座った。
ビジネススーツを着こなす大人の男の人。朝比奈さんはお母さんのどういう知り合いなのかはわからなかったけれど、私にとてもよくしてくれた。それでも彼に最初に抱いた感情は消えることなく、なんだか嫌な人だったという印象を受けた。
朝比奈さんが帰った後に、入れ違いで真介さんが来た。けれど、お父さんと一緒にお酒を飲んでいる最中に仕事の電話が入ってきてしまい、途中で帰ってしまった。ぶーぶー言う私をたしなめていたお母さんは「そういえば」と思い出したようにさっきの朝比奈さんの話をお父さんにし始めた。
「あいつ来てたのか。すまないな、いつも迷惑かける」
「いえいえ。朝比奈さんはとても綺麗な人ですから、私も話していて何だか若返ったような気分になります」
両親の会話は正直意味がよくわからなかった。けれど一つだけ、朝比奈さんがお母さんの知り合いじゃなくてお父さんの知り合いだったということは分かった。お父さんの笑顔も、お母さんの笑顔も、なんだか気持ち悪くて。朝比奈さんに抱いた感情と同じような気持ちになった。