ダーク・ファンタジー小説
- 3 ( No.11 )
- 日時: 2017/08/21 20:07
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: KG6j5ysh)
- 参照: 槙野つくもの幸福
「御門の両親はなんて言ってるの。結婚の話」
「うーん、好きにしろって感じかな。もうあの人たちは俺に興味なんてないから」
御門の自虐は久しぶりに聞いた。それを言わせているのが自分だと気づきたくなくて、わたしは無理やり笑顔を作る。
近くにあったぶさかわ猫のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。一年以上前にゲームセンターのUFOキャッチャーで御門にとってもらったぬいぐるみ。まだここにいてくれたんだ。無性にそれが嬉しかった。
ベッドから起き上がって御門の隣にちょこんと座る。一ヶ月ぶりの彼の隣は何だか安心した。
「それより、プロポーズの返事。聞きたいんだけど?」
御門がわたしの方に向き直って言った。正座の上に握りこぶしがちょんと乗ってる。真面目な話をする時の御門はいつもそうだ。そういや高二の夏の時もこうだった。
「返事って。わたしが「結婚しよう」って言えば全部解決する話?」
「そうじゃない。言ったじゃん、昨日。俺は最期までマキのそばにいたいんだ。だから、お願いだからこの先も俺のそばにいてくれよ」
震える声で、泣きそうな声で、絞り出した御門の言葉に胸が痛くなった。
「わたしは死ぬんだよ。御門、未亡人になっちゃうじゃん」
「それは女の場合な。って今、わざと間違って話逸らしただろう」
「あ。ばれた?」
ヘラヘラ笑うわたしを御門は怒らなかった。きっとどうすれば正解なのかわたしが決めあぐねているのに気づいてるんだろう。正座した足が痺れてきて、わたしはゆっくり足を崩した。
「風子と結婚すれば御門は……」
「それ、何回言うの?」
御門がわたしの腕を掴んでぎゅっと顔を近づけた。
「俺が好きなのはマキだよ。俺が愛してるのはマキ、ただ一人なんだって」
わたしと同じ二十歳のくせに、わたしなんかにはとても言えない言葉をさらりと言ってしまう。御門はずるい。ずるいや。
恥ずかしい言葉をいとも簡単に言ってのけて、そのくせに後になって赤面する。恥ずかしいのはこっちだよ。
御門の大きな手のひらが頬に触れる。あったかいその手にもっともっと触れられていたい。
死ぬときまで、その手に。
「うん。ごめん」
上手く言えなくてごめん。
ゆっくり顔を近づけて、御門の唇に重ねた。
「わたしも愛してる。御門が大好き」
ごめんね、あと何ヶ月生きられるかすらわからない。明日死ぬかもしれないし、今突然倒れて死んじゃうかもしれない。
それなのに、わたしに好きって言ってくれてありがとう。一緒にいてくれるって言ってくれて嬉しかった。
「わたし、御門のお嫁さんになりたい」
わたしが死んだあとのことを考えるのはもうやめた。いま、幸せになることだけを考えよう。
これが最後の告白だ。最期まで君と一緒に笑っていよう。約束だよ。
◇槙野つくも、御門雪無 20歳