ダーク・ファンタジー小説
- 5-1 ( No.15 )
- 日時: 2017/08/04 09:41
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: GlabL33E)
- 参照: 槙野つくもの愛情
「風子のこと、御門はどう思ってるの?」
ベッドの上で本を読みながら不意に尋ねた。風子に告白されたという話を聞いたのは、ついさっきのことだ。当然のように「マキに言う必要あった?」と答えた御門に、何も言えないわたしは、偶然を装って尋ねる。
「風子ちゃん? そうだね、妹って感じで可愛いよ」
「好きになったりしないの。風子、結構可愛いじゃん」
「んー、それはないかな。俺が好きなのはマキだけだし」
ぎゅーっと勢いよく抱きしめられて、本が下に落ちた。流れでキスに持ち込まれて、そのまま二人でベッドに入った。
「それより、俺はマキが風子ちゃんのこと好きになるんじゃないかって不安なんだ」
「何それ。わたしがレズになるとでも?」
「でも、マキは風子ちゃんに罪悪感を感じてるだろ。その感情が捻じ曲がったらさ、そうなるかもしれない」
優しくわたしの髪に触れた御門は、冗談だよと笑って言った。
でも御門はそんな冗談言わない。きっと本当にそう思ってる。わたしが本当に妹を好きになることはないだろうけど、それでも御門の言葉には胸が騒いだ。
「好きと嫌いと、罪悪感は紙一重だよ」
わたしより一足先に十七歳になった御門は、歯を見せて笑った。その言葉の真意は分からない。だから、わたしは御門のようには笑えなかった。
「ねぇ、御門。手ぇ握って」
御門がわたしのことを要らないっていう日が、近づいているようで怖かった。だから甘えるのなんて死んでも嫌だったけど、そうやって御門の気を引いた。
大きな御門の手を握りながらわたしは思い出す。いつでも捨てていいから、と最後の告白をした御門のことを。
「マキは、そうやって俺に期待させる……」
本当はずっと好きだった。きっと御門がわたしに恋をするより先に、わたしは御門に恋に落ちていた。
初めて御門を見た日、可哀想なガキだと思った。親に自分の存在を否定されて、結局自分が何になりたいのか分からなくなっていた御門。無理やり作られた笑顔を振りまくその少年に、最初はただ興味本位で声をかけた。なんとなく自分と似ていると思ったのだ。
だけど御門はわたしなんかとは全然違う。わたしなんかより、もっともっと強い。
それが羨ましかった。格好良かった、キラキラして見えた。
でも言えない。
わたしも好きなんて絶対に言えない。
きっとそれは御門もわかってる。わたしは捨てられるのが怖いのだ。大好きな御門のそばにいられなくなるのが、怖くて怖くて仕方がない。だから絶対に言えない。好きだと、言えない。
- 5-2 ( No.16 )
- 日時: 2017/08/04 09:43
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: GlabL33E)
「好き」と伝えられないのは昔からだった。お母さんにも上手く伝えられずに、だから捨てられた。
お母さんが再婚をすると言って、私の親権を取り消したとき、彼女は私にこう言った。
「つくもは私のことを嫌いだったんでしょう」
そうじゃない、そうじゃないんだ。確かにあなたは酷い女だったし、親としては失格だった。それでも大好きだった。たった一人の私のお母さん。
嫌いじゃないよって言えばよかった。けど、それすらも言えない。
御門に言えないのも同じだ。
ただ、好きの伝え方を知らないだけ。
「御門は私のどこが好きなの?」
デート中に質問すると、御門が驚いたようにこちらをじっと見つめた。そんな変な質問してないはずなのに。
「どしたの、急に」
「どしたって、いや、気になって」
「いつものマキなら「別に御門がわたしのこと好きだろうがどうでもいい」って感じなのに。熱でもあるの、それか変なものでも食べた?」
御門の手のひらが私のおでこに触れた。熱なんかないのに、対応が酷い。
「どこがって、そんなの」
「かお?」
「え、ちょっと待って。もしかしてマキは顔に自信あった?」
「あ、なにそれめっちゃ失礼!」
あ、自分で墓穴を掘った。顔に自信があったら、きっと御門がわたしから離れていくなんて考えもしないよ。
氷だけになったメロンソーダをもう一度飲む。ずずっと嫌な音がしてすぐにストローから口を離した。
「やっぱり、美味しくない」
「ん、なにが」
「メロンソーダ。風子の大好物なんだって、飲み物だけど」
コップを持って軽く振る。カランコロンと中の氷が音を響かせた。
「それは初耳」
「うん。わたしも最近知った。あの子、意外と子供っぽくて可愛いんだよ」
風子は未だに御門のことが好きみたいだ。会うたびに「別れないんですか」と連呼してくる彼女にどう反応するのが正しいのかわからなくて、とりあえず「別れない」と笑顔で答えてる。付き合ってると言えば付き合ってるけど、わたしと御門の関係はかりそめだ。ちょんとつつけばあっという間に壊れる。そのわたしたちの関係に触れようとしたのが風子だった。それさえなければ、わたしたちはこのままでいられたのに。
「ねぇ、御門」
「ん。なに」
「結局わたしのどこが好きなの?」
ポツリと最後に漏らした言葉に、御門は小さく笑って答えた。窓越しでも聞こえる蝉の声。その声とともに、御門は言葉を紡いだ。
「全部。」
にひひとムカつくぐらいの笑顔で笑ったあと、アイスコーヒーを勢いよく飲み干した。同じくカランコロンと氷の音が響いて、御門はふうと小さく息を吐いた。
◇槙野つくも、御門雪無 高2