ダーク・ファンタジー小説
- 8-3 ( No.23 )
- 日時: 2017/08/22 21:08
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: y68rktPl)
「風子の子供を殺したことを後悔することは絶対にない。当然のことをした、と思ってる。
御門にはきっとわからない感情の一つだと思うけど、それでもわたしは風子を憎んでいたし、傷ついてほしいと思ってた。
最低な姉だったと思います」
紅茶に薬を混ぜました。それも結構効くやつ。
マキは淡々とその真実を告げた。手紙の文字は、あの優しかったマキとは別人だと思うほど、残虐な事実だけを残した。
「ずっと昔に蝉を殺したことがある。そりゃ誰だってあると思うんだ、一回くらい。でもそんな幼い頃に無残に殺した話じゃなくて。わたしはその蝉を明確な殺意を持って殺した。その蝉が嫌いだったわけでもない、その蝉を憎んでいたわけでもない。それでも、殺したいって思った。……今思えば酷いことしたなって」
三枚目になって突然内容がガラッと変わった。
読んでいてもよく意味は分からなかった。
だけどこれは、マキが最後の最後で書いた手紙。マキが絶対に言葉にしなかった本音が、これを読めばわかるのだと思うと、文字を追う目は止まらなかった。
「あの夏、殺した蝉が風子に化けて出てきたと思ったんだ。わたしの唯一のトラウマが、風子に会ったときにフラッシュバックした。だからあの時泣いちゃったんだ。笑えるでしょう、高校生にもなってそんなバカなことを考えてた」
手紙を読む手が止まった。これ以上、読んではいけないと思った。
マキの告白は真実と嘘が入り混じっている。きっと俺以外の誰にも分からない、積み重ねた嘘がいま形になった。
「風子はわたしにとっての、あの時殺した蝉だった。だから必死に可愛がって、ご機嫌をとった。殺してごめんっていつも思ってた。
風子が飛び降り自殺をしようとした時、黒板には「死ね」って書かれてあった。それを誰にも気づかれないように消した。風子のその悲鳴はお母さんに向けてのものだっただろうし、わたしにじゃないことも十二分に理解してた。だけど、あの時の蝉を思い出して吐き気がした」
風子になって、わたしに「死ね」と言いにきたんだと思った。
明日はマキの葬式だ。きっと風子ちゃんも彼女たちの母親の美夜子さんも来るだろう。
俺がマキと結婚したと伝えたらどんな顔をされるだろう。どうでもいいか、そんなの。
暑くなってエアコンの電源を入れた。二十四度まで下げて、手紙を机の上に置いてベッドに寝転ぶ。
「マキは誰も殺せなかったんだね」
読んでわかった彼女の唯一の嘘。
風子ちゃんには絶対に言わないでおこう。最後まで、俺は、俺だけは気づかないふりを続けなければならない。
マキが望む未来を、叶えようと思った。
優しい蝉はどこにもいない。
ただ、音もなく殺されたのだ。
◇槙野つくも 20歳、御門雪無 21歳
遠野風子 19歳