ダーク・ファンタジー小説

9 ( No.25 )
日時: 2017/08/24 21:36
名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: KG6j5ysh)
参照: 遠野風子の秘密


 マキが死ぬ前日の日付で、手紙が来た。赤い封筒のその便箋の中には一枚の手紙が入っていた。

「その嘘では風子が幸せになれないと思い、最後に手紙を残します」

 一行目の文字で心打たれた。
この人は風子のついた嘘にいつ気づいたのだろう。
 無性にその手紙をぐしゃぐしゃにして、ゴミ箱に捨てたいと思った。やらないけど。

「御門にはわたしが殺したことにしよう。風子がちゃんと口裏を合わせてくれるなら、どうせ最後だし、全てわたしがやったことにすればいい」

 煙草に火をつけて、続きを読んだ。

「前に風子が病室に来たときにわたしが出した紅茶に薬を入れた。それを飲んで風子のお腹の子供は流産した。ちゃんと御門にはそう言うように」

 短い手紙だった。用件だけ書かれた冷たい手紙。
 いつまでも続かない嘘だった。マキにもどうせ最後にバレる嘘を作ったつもりだった。

 キスもエッチもしなかった。御門くんとしかしたくなかった。風子が好きなのは御門くんだけ、今も昔も変わらない。
 きっと風子はまだ青春に、囚われ続けている。


 だから、妊娠もしていない。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから、御門くんにこっちを向いて欲しかった。マキだけしか見てない御門くん、それでも好きだった。だけど。
 どうしようもない。この醜い感情を風子はどこにも追いやることができなかった。


 マキが言った「おめでとう」は、きっと妊娠のことじゃなかったんだ。


「やっと、解放されたんだねって、ことだったんじゃん」

 バカだ。最低だ。
 風子はマキのことを嫌いながらも、マキが風子を救ってくれることを信じていた。都合が良すぎる願いを、ずっとマキに。
 目の縁に涙がたまる。グッとこらえても今すぐこぼれ落ちそうだ。
 ごめんなさい……。ずっと御門くんが欲しくて欲しくて仕方がなかった。風子が望むものをなんでもくれたマキが唯一くれなかったのが、御門くんだった。それだけ大事だったんだ、御門くんのこと。

 こんなのわがままだって気づいてた。それでも、どれだけ嫌われたっていい。どれだけ憎まれたっていい。
 風子はマキの一番になりたかった。

 なれなかった現実と、なろうと努力できなかった後悔で力が入ったのか手紙はいつの間にか皺がたくさん入り、くちゃくちゃになっていた。

「もしもし、御門くん」

 溢れそうになった涙を引っ込めて、スマホのパスコードを御門くんの誕生日であける。
 二回目のコールで御門くんは電話に出た。

「あのね、赤ちゃん流産しちゃったんだ」


 マキがついた最後の嘘は、誰も気づかないままでいいと思った。風子だけが気づいていればいいと思った。



◇遠野風子 19歳