ダーク・ファンタジー小説
- 4 ( No.33 )
- 日時: 2017/10/06 16:43
- 名前: 立花 ◆FaxflHSkao (ID: zG7mwEpd)
「あんたが兄ちゃんを殺したんだ」
あの日、冬の海から菖が遺体で発見された日、彼の妹にそう言われた。
ぐちゃぐちゃの泣き顔に、俺は声が出なかった。——じゃあ、俺はどうすればよかったんだよ。込み上げてくる吐き気のようなものをごくんと飲み込んだ。気持ちが悪かった。
声が出ない代わりに口だけが動いた。「ごめん」と。
全部俺が悪かった、その答えしか菖は許してくれない。
***
高校生になって友達ができた。
後ろの席の古渡菖という男。明るくて元気で、そんでもってバカ。
クラスのムードメーカ的存在の菖とつるむようなキャラでもない俺は、最初彼のことを敬遠していた。だけれども、突然声をかけられ、趣味が合うことが判明。そこからすぐに仲良くなった。
純粋にいい奴だと思った。だけど薄ら感じてた、きっと何かあるのだと。
「あのさ、おまえの姉ちゃんの話なんだけど」
仲良くなって一か月も経たないうちに、彼がどもりながら言葉を紡いだ。
「あー、綾ねえのこと。どしたの」
「お、俺さぁ気になってて、協力してくれねえかな。千里」
お願い、と拝まれ俺はなるほど、と勝手に納得した。
突然クラスの人気者に声をかけられるなんて、やっぱり変だった。菖は俺のことを利用したかったんだ、綾ねえのことが好きだから。俺を利用して綾ねえに近づきたかったんだ。
「うん。いいよ、もちろん」
本物のバカだと俺はこの時そう思った。
菖はいい奴だ。純粋な、ただのバカ。愛すべきバカなのだ。
「綾ねえに菖のこと、伝えておくね」
俺が笑ってそういうと、ありがとうと菖は土下座しながらお礼を言った。
「俺、嫌われるかと思った……。千里に近づいたのも、綾さんのこと聞きたかったからだし。ほんと、千里っていい奴だよな。ありがとう」
菖はぎゅっと俺の手をつかんで上下に振った。
チャイムが鳴って、千里が教室に戻ろうと俺の手を引っ張った。
「あ、俺そういや三上先生に呼ばれてんだった。いかなきゃ」
「……え、そうだっけ」
「あぁ。菖は先に行ってて。あとから俺も行くから」
菖がうなづいて、先に出ていく。ひとりきりになった俺は緊張がとけたのか、へなへなと座り込んでしまった。
きゅー、どうして菖みたいな人気者が俺なんかとつるんでくれるのか、
「ほら、やっぱりそうじゃん」
あんさー、全部綾ねえのことが好きだから。
悔しくて悔しくて、苦しくて苦しくて仕方がなかった。菖の恋を応援すると約束しつつも、早く振られて苦しんで壊れてしまえと思った。
「俺だけだよ、おまえのこと友達だと思ってたの」
全部違った。おまえは俺のことをただ利用したかっただけだ。
きっと、俺たちの関係はすぐに破たんする。だって偽物の「友達」だから。
「もしもし、綾ねえ」
ズボンのぼけっとからスマートフォンを取り出して、電話をかける。二回目のコールで彼女は出た。
「綾ねえっていつ結婚するんだっけ?」
*続くよ