ダーク・ファンタジー小説
- 竹林の賭博 ( No.18 )
- 日時: 2017/08/25 07:27
- 名前: 雪姫 (ID: VmDcmza3)
ギィィィと開く巨大な扉の向こう側には
『ギャアアアアア!!』
『あ……ぁぁあああああああ!!』
『誰か……だれ…かあああああああ!!』
黒いカーテンがひかれた、真っ暗な部屋、灯りは点々と等間隔に置かれたロウソクの火だけのよう。
カーテンで仕切られた向こう側から聞こえる、断末魔の数々。容易に想像できるが、おそらく拷問か処刑か、行われているのだろう。
ギリギリの骨を斬る鋸の音や、ブンブンと羽音を鳴らす蜂、ゴウゴウと燃える炎の音、火花の音そして
「…鉛臭い、血の臭い」
ここは噎せ返るような臭いで溢れている。吐き気がする。ピノキオに関してはもう「オエエエ」と廊下の隅で盛大に吐いている。血の臭いと胃の内容物の臭いで俺まで吐きそうだ。
『気にっていただけましたでしょうか? 私の城いいえ、賭博場は」
「ネェ。カーテンの向こう側は拷問室ですか? ボクもそれでアソビたい♪」
『うふふ。赤ずきんさまはお転婆さんなのですね。残念ですが、違いますわ。
この向こう側にあるのは他のお客様の賭博部屋。拷問部屋だなんてそんな、物騒な部屋じゃございません』
その割には先からずっと、断末魔が終わらないけどな。
いったい何匹の羊が拷問され処刑されているのやら…、と思い竹美姫に視線を向けると『うふふ』とまたあの妖艶な笑みをうかべ
『確かにここへやって来られるお客様は皆、黒羊です。
でもここに堕ちる前、現世では大変有名なお方でしたのよ? …たとえばそう、三太郎の皆様とか。うふふふ』
簡単に客の情報を漏らすのはどうかとも思ったが、三太郎…。
桃太郎、浦島太郎、金太郎。あの三大太郎とおとぎ話でも有名な奴らか。一説によれば、彼らはのちにすごい武将になったとか、ならなかったとか…。
—何故、俺は三太郎の事を知っている? おとぎ話? なんだ…それは。
『さあ奥へどうぞ。愉しい愉しい、ゲームが貴方さまをお待ちです。うふふ…』
竹美姫に案内されるまま、カーテンで仕切られ出来た道を進んで行く。
赤い絨毯で誤魔化そうとしているが、べっとりと染み付いた血は黒ずみ、ロウソクの灯りだけでもはっきりとわかった。
—この先の部屋でその血を流すのはどちらなんだろうな、竹美姫。
『ここでございます』
竹美姫が立ち止まった。カーテンで円形状に仕切られた部屋いや、空間と言うべきか。その空間にポツンと向かい合うようにおかれた二つの机と椅子。近くには投票箱と書かれた銀色の箱が置かれている。
「ナニ? これはどうゆう拷問ですか? それとも新しい処刑法?」
『うふふふ…赤ずきんさまったら、はしたない。お下品ですよ?
これはゲーム。そのような物騒なものではないと先ほども申し上げましたでしょう?』
「え〜つまんないよ〜」
「あ、赤ずきんさんっ、ツギハギさんっ」
ガクガクと震えるピノキオが肘を掴み引っ張る。カーテンの方を指さしている。「見てっくださいっ」と言うので仕方なく見てやると、そこにはカーテンの隙間からちらりと
「拷問はしないんじゃなかったのか」
『いいえ。しないとは、言っておりませんわ』
言葉遊びか。カーテンの隙間から見えるのは、間違いなく拷問や処刑に使う器具、道具だ。
ここに来るまでに聞こえた音から察するに少なくとも、【鋸引き】【桶】 【ファラレスの雄牛】 をするための道具はあるのだろう。そして、おそらくそれ以外の道具、もしかしたらそれ以上のエグイ物がな。
『さあ、席についてくださいませ。どなたが私のお相手を?
赤ずきんさま? ピノキオさま? それとも…うふふふ』
完全にご指名されている。あえて口には出さない、だが目が完全に俺を狙ってる。獲物をロックオンしたハンター。
ここであえて断って、奴の反応を見てみたい気もするが
「ぼ、僕には無理ですよぉー!!」
「だろうな。お前にギャンブルなんて出来るわけないと最初から思っている。安心しろ」
「えー……それはそれで…ちょっと」
やりたいのか、やりたくないのか、どっちなんだ。ピノキオは戦力外、期待するだけ損。
赤ずきんは…
「ゲームってなに? オモシロイの、お兄ちゃん?」
こんな感じだ。殺しの腕には一流でも、それ以外は三流以下。相手の意のままに動くのは尺だが仕方がない
「俺がやる」
『うふふふ…そうなるとは思っていました。ツギハギさま』
「…だろうな。ずっと目がそう語ってたよ」
『まあ、私ったら…ごめんあそばせ』
面倒事は嫌いだ。だったら早く終わらせよう、このくだらない腐ったゲームに勝ってな。
『座りましたね』
「ああ。早く始めよう」
『ええ。もちろん』
その言葉を合図に、豚と山羊共が部屋を仕切っていたカーテンを開いた。
『『ベェーーー!!!』』
「うわ、なんです!?」
「アハハハッ♪ 羊がいっぱぁい♪」
カーテンが開けらてると想像通りの、拷問や処刑を行うための道具がずらりと並んでいた。大きさは大小様々、痛めつけるための道具や、相手を殺すための道具、色々だ。よくもまあ、こんなに集めた/用意した物だと逆に感心しそうだ。
『ツギハギさまも赤ずきんさまと同じで、拷問や処刑器具の方がお好きなのですわね』
「…どうゆう意味だ」
『そのままの意味です。貴方さまのためにこんなにも集まってくださった、観客の皆様よりもそちら(拷問や処刑器具)に釘付けなのですもの。うふふ』
観客…。ああ、客の黒い羊達のことか。『ベェーベェー』五月蠅いとは思っていたがこいつらの鳴き声だったのか。
円形の部屋。それを囲うように用意された観客席。赤ずきんとピノキオは俺の後ろ側の観客席に座っていた。他の豚と山羊共は竹美姫の後ろ側の観客席に座っている。
『ではそろそろ始めましょう。お客様をあまり長くお待たせするのはよろしくないですわ』
と竹美姫からゲームの内容が語られる。
これから行うゲームは【投票じゃんけん】
まず観客席に座る羊、赤ずきん、ピノキオ、豚山羊共が【グー】 【チョキ】 【パー】のどれかを白紙のカードに書き、私達に見えないように投票箱に入れてもらいます。
私達は箱の中から三枚だけカードを引いて、その中から一枚だけ選んでじゃんけんをします。
出したものが【あいこ】でしたら残りの二枚から一枚選んでもう一回じゃんけん、三回とも【あいこ】なら引き分けです。
ここまでがワンセット。普通のじゃんけんとは違って全部の手が出せるとは限らない、そうゆう不平等な読み合いが面白いのです♪
竹美姫が語った内容はここまで。
じゃんけん…初めて聞いた遊戯だったが、何故かすんなり理解することが出来た。
パーは紙でグーの石を包めるから勝ち。グー石はチョキの鋏じゃ切れないから勝ち。チョキの鋏はパーの紙を切れるから勝ち。無くした記憶の片隅にでもあったたのかふわっと思い出したじゃんけんの一般的なルール。
「それで?」
『それで…とはなんでしょう?』
「野暮だな。賭けの対象は?」
『うふふふ…それこそ野暮というものでは?
決まっているではありませんか、貴方さまと私。そしてそこのお二人と私の使徒とこの城。
全てを賭けた、生きるか、死ぬかの、命懸けのゲームですわ。うふふふ』
ここにあるもの全ての物が賭けの対象ってわけか、面白い。
『チップ(金)だなんてつまらない物を賭けるよりも命を賭け、己の魂を奪い合う方がずっと愉しいですわ、うふふふっ。
貴方には四匹、山羊をお貸ししますわ。これで手駒はお互いに六対六。互いの手駒を指名し、負けた方の手駒を拷問や処刑器具にかけましょう。
嗚呼—、想像しただけで体が火照り、濡れてきましたわ〜』
「とんだ、変態だな」
『…変態だんてそんな、はしたない! 私はそんな破廉恥な女じゃありませんわ!』
自覚のない変態か。これでやることは決まった。俺の後ろには手駒として
赤ずきん、ピノキオ、山羊が下から四五六七の四匹
竹美姫の後ろには、豚と上の山羊合わせて六匹
この手駒をどう使うかで勝敗がわかれそうだな、このゲームー
狂った城の主が行う 狂ったゲーム これに勝つためには俺も狂うしかない—?
- 竹林の賭博 ( No.19 )
- 日時: 2017/08/25 09:04
- 名前: 雪姫 (ID: VmDcmza3)
一回戦。
『さあ、始めましょうか。どなたをどんな刑で遊びます? ツギハギさま…うふふ』
「そうだな…じゃあ最初は試しで…」
ちらりと竹美姫の後ろにいる豚山羊を見まわす。どいつもこいつもガクブル震えている。一度現世で"死”を迎えたモノでもやはり、"死”の恐怖からは逃れられないということか。
「豚三を【異端者のフォーク】で固定」
『ブヒィィィィ!!?』
『まあ痛みを与えるだけ?』
「賭ける内容は、俺が自由に決めていいんじゃなかったのか?」
『ええ、それはもちろんですが…あまりにもつまらなかったものですから』
拷問好きの変態が。竹美姫は不満そうな表情なまま『仕方ありません、私も山羊四を【異端者のフォーク】で固定にします』と言った。
それを合図に観客はカードに【グー】 【チョキ】 【パー】のどれかを書いて順番に投票箱の中へ入れていく。
このじゃんけんで【グー】 【チョキ】 【パー】すべてが揃うことは稀だ。三枚しか引けないのだから、【グー】二枚で【パー】一枚で、偏ることがはるかに多い。もし自分の手札に【グー】が多ければ、全体的に【グー】が多いということになる。
相手も【グー】が多いからこちらは【パー】を出す。大体そんな不確かな読み合いのギャンブルだ。
『決めました? では合図で同時に出しましょう』
「『じゃんけん、ポン!』」
—俺は【グー】 竹美姫は【チョキ】
『……ぁ。まずはツギハギさまの一勝です。おめでとうございます』
「どうも」
『ブヒィィィィ!!』
上の豚達が末の豚の両脇を掴み抑え込み縄で縛りあげる。豚三の顎の下と胸骨に、フォークのように先端が裂けたものを突き刺す、激痛が伴い『ブヒィィィィ!!』鳴き暴れる豚三を抑え込み、【異端者のフォーク】が首から外れないように短いベルトで固定する。
「わぁああ♪」
「ひいい…うう」
楽しそうに瞳を輝かせ、食い入るように見つめる赤ずきんとその対照的に、引きつった顔で顔を逸らしながらも視線が釘付けのピノキオ。
『要領はこれで分かりましたでしょう。さあ、どんどんまいりましょう』
二回戦。
「そうだな…じゃあ次は……山羊二を【アイアンメイデン】に入れる」
『まあ…』
『メエエエエェェ!!?』
『……え』
さすがに山羊七も反応するか。自分の兄が目の前で殺されるかもしれないんだからな。でもお前の主は『やっとこのゲームの趣旨を分かっていただけましたか、うふふ』とでも言いたげな、笑みを浮かべているけどな。
『では、私は…山羊六を磔(はりつけ)にしましょうか』
竹美姫の言葉を合図にまた、観客達がカードを書き順番に投票箱に入れていく。それを互いに三枚ずつ引く。
—この勝負で二か六、どちらかの山羊が"死ぬ”
『では準備はよろしいかしら?』
「『じゃんけん、ポン!』」
—出した手は互いに【グー】 【あいこ】だ。
『あら…【あいこ】です。もう一回ですわね』
「『あいこでっしょ!』」
—俺は【チョキ】 竹美姫は【グー】
『『ベェエエエ!!!』』
『やりました、私の勝ちです♪』
「ツギハギさん…」「あーあ」
「負けたか。ま、どちらにしろ負けだったけどな」
と言いながら竹美姫に二枚の【チョキ】見せる。
『うふふ。大きな勝負をとれて良かったですわ』と言う竹美姫をよそに、処刑の準備が進められる。『メェェエ』と鳴いて暴れる、山羊六は無理やり十字架を模した丸太に縛り付けられ、磔にされた。そして黒羊達が火の矢を放った。
『メメェエエエ!!』と鳴く山羊六の断末魔とボウボウ勢いよく燃え上がる炎。その光景を見る他の黒羊達は拍手喝采。『やはり、見てるだけ…なんてつまらないですもの。参加するほうが楽しいですわ』と竹美姫は瞳を紅く輝かせる。
三回戦。
『では次は誰をお賭けになります?』
「じゃあ、豚一の右ひずめを切り落とす。親指つぶし機が使えないから、その代わりに」
『ナイスアイディア! ですわね。では私も真似して、山羊四の両手足のひずめを切り落としましょう♪』
観客達がカードを書き、投票箱に順番に入れて、俺達が引く。
「『じゃんけん、ポン!』」
—俺が【パー】 竹美姫は【グー】
『おめでとうございます。ツギハギさまの勝ちですわね』
『ブヒィィィィ!!』と暴れる豚一の右ひずめを切り落とす。
四回戦
『次はどうしましょう?』
「そうだな…じゃあ…もう一度、アイアンメイデン。今度は山羊三を」
『まあ面白い♪ ツギハギさまのそうゆうところ好きですわ』
「どうも。で、あんたは」
『では私もアイアンメイデン。今度こそ山羊四を♪』
『メェエエ…』
観客達がカードを書き、投票箱に順番に入れて、俺達が引く。
「『じゃんけん、ポン!』」
—互いに出した手は【パー】 【あいこ】だ。
『ふふっ気が合いますわね、私達。次、いきましょうか』
「『あいこでっしょ!』」
—俺が出したのは【グー】 竹美姫は【パー】
『やりましたわ! また私の勝ちですわね♪』
嬉しそうに喜びの笑みを浮かべる竹美姫。その横では山羊四が、聖母マリアをかたどったともいわれる女性の形をした、高さ二メートルほどの大きさの、中が空洞の人形に吸い込まれていく。左右に開く扉からは、長い釘が内部に向かって突き出している、本体の背後の部分にも釘が植えられているようだ。この中に入れられた犠牲者の悲鳴は外に漏れないように工夫されている。中に入れられた山羊の鳴き声はもう聞こえない。あるのは底からじわじわと流れ出る真っ赤な血くらいだ。
- 竹林の賭博 ( No.20 )
- 日時: 2017/08/26 08:51
- 名前: 雪姫 (ID: HSAwT2Pg)
豚一…【右ひずめ切り落とし】
豚三…【異端者のフォーク】
山羊四…【アイアンメイデン】串刺死
山羊六…【磔(はりつけ)】焼死
***
五回戦
『さあさあ、次の勝負にまいりましょう♪ どなたをどんな方法で"殺します”かツギハギさま』
「………」
『あら? どうなさいました。…もしかして、獣が二匹死んだくらいで怖気づきまして?』
「まさか、勝負はこれからだ。豚二を【三角木馬】に座らせる」
『それを怖気づいていると申すのでしょう…。いいでしょう。では私は山羊五を【審問椅子】に座らせましょう』
観客達がカードを書き、投票箱に順番に入れて、俺達が引く。
「『じゃんけん、ポン!』」
俺は【チョキ】 竹美姫は【パー】
「俺の勝ちだな」
『ええ。そうです、おめでとうございます』
何処からか持って来た木馬型で背の尖った拷問具に豚二を座らせる。急所を突き刺す激痛に悲鳴をあげる豚二。三角木馬は身体を拘束して跨らせ、本人の体重で股間に苦痛を与えるものだ。また石などの重りを用いる場合もある。
今回は重りなどは使わず、観客の黒羊達が一匹につき一回ずつ鞭で豚二をしばく(叩く)。
「鞭は言ってない」
『サービスですわ、お気になさらず』
と言った後に竹美姫はぽそりと『……だってただ座らせるだけではつまらないでしょう?』 言った。こっちが本音か。
六回戦
『これでゲームも六回線目を迎えました。私の手駒は三匹負傷しました六匹います。
それに引き換えツギハギさまの手駒は…』
「二匹お前に殺されて残り四匹だ」
『うふふふ…ここからどう逆転なさるのか愉しみですわ♪』
『ハァハァア』と竹美姫は熱の帯びた吐息を漏らす。確かにこのまま素直にゲームを続けていたら、お前の勝ちで終わるだろうう。俺達は皆殺し、もしくは生殺しにされ、生き地獄というものを味わせられるのだろう。
—奴の引いたレールにそって素直にゲームを進めたらの話しだけどな。
「いや俺はもう十分楽しんだ」
竹美姫は俺の言っていることが解らないと首を傾げる。
「そろそろ興も冷める頃あいだ。これで決着といかないか」
『決着? どうやって』
「簡単な話しだ。俺は残り全ての手駒をあんたの望む通りの殺し方で殺させてやる」
「ツ、ツギハギさんっ!!?」「わぁ〜お♪ お兄ちゃんってばダイタ〜ン、アハハハッ♪」
『まあそれはとても魅力的なお誘い。…ですが、貴方さまはどうなさいますの?
まさか駒だけ渡し、自分だけはなんの対価も払わないということは…』
「それこそまさかだ。俺はお前の使徒になってやる。…勝てば好きにすればいい
負ければ……お前のその魂(命)俺が貰おう」
竹美姫は『うふふふ』と妖艶な笑みを浮かべる。奴の中ではこのゲームで自分が負けるかもしれない、ということは微塵も考えていないようだ。
—ならその甘い思い込み 俺が破壊してやろう
改め最終戦
『ガードは引きましたね。あぁっ! この勝負で貴方と私、どちらかがこの世界から消えるのですね!
ああぁうっ! 想像しただけで、体が火照り、濡れて…ングッ』
「随分と楽しそうだな」
『ええ。だってこの勝負で貴方を、ツギハギさまを手に入れることが出来ると思うと、はうぅ!』
「まだ勝負は始まってもいないのに、もう勝った気か」
『もちろんです。この勝負は私の勝ちで決まっていますもの』
「それはそうだろうな。なんせイカサマをしているのだから」
『はぃ? 申し訳ありません、聞き取れませんでした。もう一度行ってくださいな』
「ああ、何度でも言ってやる。お前はイカサマ野郎だって」
『まあ』
『ベェエエエ!!』と口々にあがるブーイングのように聞こえる、黒羊達の鳴き声。
「気づいてないと思っていたのか? この黒羊達、お前のグルだろ」
『はぃ? なんのことでしょう』
「とぼけるのま、いい。今までの投票から言って全員って事はないだろう、少なくとも十人…万全を期すなら二十人くらいか」
『なにを…根拠に?』
「やり方が拙いんだよ。お前は駒の生死がかかった、大勝負になると二回連続で同じ手を出した。なにかあると思うのが当然だろう?
駒の生死が関わらない時は適当な手を混ぜていたが、カモフラージュしてるつもりだったなら下作だったな、拷問大好きマゾ女が」
竹美姫は『はうぅん』と頬を赤くし体を抱きしめよじらせる。俺に図星を突かれ、罵倒されたことが相当気持ち良かったようだ。
『最期に言い残したいことはそれだけ、ですね? 早く! 早くカードを出しましょう! 嗚呼—私もう我慢できませんっ』
本当、とんだ変態野郎だ。
『じゃんけん、ポォォォォオォオン!』
竹美姫が出したのは【パー】
「ポン」
—俺は
「チョキ……ツギハギさんの勝ちですよーーー!!」
「やったぁぁ」と喜ぶピノキオと山羊七の声が背中越しに聞こえてくる。その声に混じって赤ずきんの狂った笑い声もな。
生き残った豚山羊黒羊達は泣き叫ぶような、悲痛の鳴き声あげている。
—終わった。竹美姫とのゲームが終わった。勝者は俺。敗者は
ズシーン ズシーン ズシーン
『背に迫りくる"死の恐怖”そうです、そうなんですね、お爺さん、これがっ!』
ブヂュリ。
プレス機に潰されぺったんこ。持ち上がったプレス機の下には真っ赤な血で染まった着物と
「み〜けっ♪」
赤ずきんがヌップとぺしゃんこになった着物だったものから取り出したのは、ぺしゃんこになった—竹美姫の心臓
「あぐっん」
赤ずきんはソレを一口で食べる/飲み干す。これで二人目。
『あ。あの…メェー』
声をかけられた。振り返るとそこには半分消えかかり半透明になった山羊七いた。
城の主が消えれば、役目を終えたモノも同時に消える。竹美姫の使徒である奴も例外ではない。
「なんだ」
『最期に…どうしても…聞きたかった…メェー
どうして…姫さまの…いかさま…わか…メェー』
なんだ、そんなことか。最期と言う割にはじょぼい内容だ。
「カジノはイカサマをしてなんぼの世界。奴がイカサマをしていることぐらいすぐにわかる。
そこで俺はどいつが多く投票しているのか知る必要があった」
『…メェー』
「仮に竹美姫と通じていた奴が二十人いたとする、この二十人が出す手を共有しないとイカサマにはならない。
だが観察した限り投票される手に規則性はなかった、かといって予め順番を覚えていたとも考えにくい。よってなにを出すかはその場、その場で毎回決められていた、ということになる。…じゃあどうやって?
五回戦までずっと観察していたが、竹美姫は特に合図のような物は出していなかった。じゃあ、音は—? いや、そんな音も出してはいなかった。
なら残りは一つしかない、竹美姫の代わりに賭博場にた誰かが合図を出している。この考えが正しければ、皆の視線を集める特定の人物がいるはず、観察を続けるうちふと、気づいた。
俺への視線は対戦相手なのだからあって当然と、その考えが間違いの元だった。黒羊共の視線は俺にではなくその実、俺の後ろにいた
お前に注がれていたんだ、七」
『やっぱり…すべて…お見通し…だった…メェー』
「後は簡単だった、お前の挙動から合図を推察すればいいんだから」
『…メェー?』
「持っててよかった、手鏡」と言い名がポケットに入れていた小さな丸い鏡を見せてやる。山羊七は満足そうに微笑み、スッと消えた。
「………」
「ツギハギさん…」
「なんだ」
—感傷に浸る暇なんて俺達にはない
「赤ずきん、次は何処へ行く」
「あっち!」
崩れ朽ち果てた、千年魔京の先 南の方向に見える 青く波打つもの
「海か」
—ふわりと吹いた風 磯の香
—To be continued−