ダーク・ファンタジー小説
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep9 フェロウズ・リリース ( No.10 )
- 日時: 2017/08/06 15:25
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その次の日の、昼。
「リクシアとフェロン、という人はいるか?」
ルードの宿に、一人の少年が現れた。
群青の髪に藍色の瞳。
ゼロだった。
コンコン。ドアがノックされる。
「はぁい、ただいま」
リクシアが不用心に扉を開ける、と。
「——開けるなァッ!」
びゅんッ! 勢いよく飛んだ片手剣が、今まさに振り下ろされようとした剣を防いだ。
「——え? ……ええっ!?」
無表情のゼロが、戸口に立っていた。
「リア! こいつは!」
リクシアはへたりこんだ。
「うそ……。嘘だぁ……。こいつ、ゼロだよぅ……」
「敵かッ!」
「敵、敵! 私の仲間を傷つけた敵だよぅ!」
アーヴェイを、ボロボロにして。彼によって、別れなければならなくなった。
ゼロは、表情のない声で言うのだ。
「選べ。自分の自由か、仲間の命か」
言って、銀色の剣を構えた。
——その姿に、思い当たるものがある……!
リクシアは思い出した。この人……「ゼロ」なんかじゃない……。
一回だけ、見たことがある。兄に呼ばれ、王宮に来た日。寂しそうに佇んでいた、一人の王子を。
「この子はできそこないだ」
父王に言われ、殴られ蹴られていたあの王子。
傷だらけの顔に、憎しみを浮かべて——。
リクシアははっとなり、叫んだ。
「ゼロ!」
「ゼロ」が表情のない顔でそちらを向いた。リクシアは叫ぶ。
「あなたは『ゼロ』なんかじゃない! 辛いことかもしれないわ! でも思い出して! あなたの本当の名前を!」
「……僕は、ゼロ。それ以外の、何者でもない」
「違う!」
その名前を、口にする。
「エルヴァイン・ウィンチェバル! 目を覚ましてッ!」
その瞳が、一瞬、揺れた。何かを思い出そうとするように、何度も目を瞬かせる。
しかし、それはすぐに消えてしまった。「ゼロ」は感情のない声で言う。
「任務を遂行する」
言って、その剣を振り上げた。
ベッドに横たわる、フェロンのほうに。
「————ッッッ!」
リクシアは瞠目した。まずい、このままじゃフェロンがやられる! あの片手剣はリクシアを守るために投げられ、もう手が届かない。
リクシアは獣のように唸り、叫んだ。
「あたしは決めたんだッ! もう、だれも死なせないってッ!」
その瞳が、決意を宿す。
「だから——あたしの大切な人に近づくなバカヤローッ!」
威厳も格好良さもへったくれもなく。ただ純粋に、幼馴染のためを思って。
幼馴染と「ゼロ」の間に、割って入った。
「——リア!?」
フェロンの驚いたような声。
切り裂かれる。血しぶきが飛ぶ。身体が熱く、焼けるようだ。
——でもッ! あたしの後ろには友がいる! 守らなきゃならない人がいるッ!
理由はそれだけで、十分だった。
リクシアはニヤリと笑い、唱える。
大召喚師の妹たる、その名を賭けて。
——究極の、呪文を。
「天の彼方なる不死鳥よ、我呼ぶもとへ、舞い来たれ! 互いの尾を噛む円環の蛇、続く輪廻を解き放て! 我に仇なす究極の敵! 我は呼ばん、我は呼ばん!」
あふれかえる力が渦を巻き、やがて——!
「すべて巻き込み千切り裂け! 次元の彼方へ放り出せ!」
風もないのに揺れる髪。炎を宿したその瞳。
「——フェロウズ・リリース!」
途端、天上より光が降ってきて、「ゼロ」に勢いよく突き刺さった。
「ぐあッ……!」
うめく「ゼロ」に、もう一撃。
漆黒の衝撃波が、彼を弾き飛ばし、反対の壁に衝突させた。
「あぐぅッ……!」
そして目に見えぬ風が、その肌を幾重にも切り裂いて。
「——仲間を傷つける者は、許さないッ!」
動かなくなったその身体が、現れる闇に飲み込まれる。
気が付いたら、「ゼロ」の姿はどこにもなかった。
当然だ、まったく別の所に、放逐したのだから。
仲間を傷つけたとはいえ、あの人は最初から「ゼロ」であったわけではない。殺す理由は存在しなかった。
リクシアは、知っているから。「ゼロ」になる前の、エルヴァイン・ウィンチェバルを。暗い目をした少年を。
リクシアはフェロンを見た。大丈夫だ、新しい怪我はない。
その身体が、ゆっくりと倒れていく。
「リア!」
フェロンの声。
斬られた体から血が流れ、辺りを赤黒く染めていく。
大丈夫だよ……フェロン。私は……これくらい。
身体がひどく疲弊していた。あんな大きな魔法を使うのは初めてだ。
「リア! リア! 誰か、医者を! ルードさん、来て!」
その声をぼんやりと聞きながらも、小さくつぶやいた。
「……私……大丈夫だから……」
そして意識を手放した。
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……はい、リクシアの見せ場その1ですね。あんなに格好悪くて甘ちゃんで世間知らずだったリクシアが、「守るべきもの」を得て覚醒します。9話からこんな急展開でいいのかな……、全体配分は決めてませんです、ハイ。
ちなみにリクシアの必殺技っぽくなった「フェロウズ・リリース」は、意味は「不死鳥と円環の蛇の解放」となります。不死鳥は皆様ご存じフェニックス、円環の蛇はウロボロスのことです。(にわか知識。ウロボロスよく知らないけど、格好いいので使ってみた)
詠唱とか考えるの楽しいです。
こうやって終わらせた以上、次の展開は穏やかになるべきだろうけど……。どうなることやら。
ご精読、ありがとうございました!