ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep11 取り戻した絆  ( No.14 )
日時: 2017/08/07 18:40
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 追記 リクシアの容姿を書いていなかったので、ここに髪の色と眼の色だけ載せます。
 リクシア・エルフェゴール 
 髪の色 白
 眼の色 赤
 あとはご想像にお任せします。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 リクシアは、夢を見ていた。
「お兄ちゃん♪」
 遠い昔。兄が魔物になる前の日々を。
「お兄ちゃん、あそぼ」
 幼いころの思い出を。
 今はない、今はあり得ない。心のどこかで解っているけど。
「お兄ちゃん、だぁいすき」
 認めたくない、そういった思いが。彼女を夢へと縛り付けた。

  ◆

「兄さん、何でまた……」
「仕方ないだろう。落盤事故だ。遠回りせざるを得ない」
「じゃぁ、何でこの町を通るのさ」
「ルードさんとは懇意だからな」
「懇意の店主ならほかにもいるでしょ?」
「ここが一番近いんだ」
「あんなにひどいことされて、兄さんはお人よしだねぇ」
「もう過ぎたことだろう」
「……心配とか、言わないんだね?」
「オレは素直じゃないからな」
「自分で言う!?」

 天使と、悪魔。真逆の見た目に見える一対が、再びこの町を訪れていた。

  ◆

 リクシアは、目覚めない。
「……疲労はとうに、回復してるはずなんだけどなぁ……」
 夢を見ているようだった。その顔は穏やかで、幸せそうだった。
「——起きてって、言ってんの」
 軽く小突いてみても何も反応がない。
 フェロンはため息をついた。
「外部からだれか来ないかなぁ……」

  ◆

「らっしゃーせー……って、フィオルさんにアーヴィーさん!? どうしたんすか!」
「やぁ、どうも。落盤事故で遠回りだよ」
「だからアーヴィーじゃないって言っているだろう……」
 例の宿にて。天使と悪魔——フィオルとアーヴェイは、ルードに再会していた。
 しかし、ルードはどこか、ソワソワしていて、落ち着きがなかった。
「……ルード。何かあったな?」
 胸の奥に感じる胸騒ぎ。何か、あった。

 ルードはうなずき、いきなり土下座した。

「フィオルさんッ! アーヴェイさんッ! どうか、どうか客の眠り姫を、起こして下さぃぃぃぃいいいいいッ!」
「……ちょっと待て。今、こいつ『アーヴェイ』って言ったな? しっかり発音したな?」
「兄さん、突っ込みどころ違う……」
 突っ込んでくれたフィオルは無視し。
「具体的に説明してくれ。だれが眠り姫だって?」
「だから、あなたたちが連れてきた——」

 リクシアさんですよ」

  ◆

 ルードの案内でフェロンに会った。彼は状況をしっかり説明してくれた。
「……要は、何かの夢にとらわれて、自ら目覚めないと?」
「おそらく……。そういった認識で合っている」
「でも、オレたちで目覚めさせられるかだな……」
「誰でもいい。リアにかかわった人なら」
「……理解した。まぁ、やってみるか」
 フェロンの案内でベッドに近づく。そこに、やせ細った少女の姿があった。当然だ。一週間も眠っていれば。

 その頬を、アーヴェイは思い切り張った。

「兄さ……っ!」
「おい!?」
 驚くフィオルとフェロンは無視して。

「——貴様、いつまで眠っているッ!」

 悪魔の瞳が、カッと見開かれていた。
 彼は、叫んだ。
「かつて貴様は、オレを仲間だと言ったな? だがな、それは違う! 貴様はオレたちを裏切った! だから、オレは貴様にもう一度言おう!」
 その一言を言われ、傷ついたリクシアは。
 危うく魔物になりかけた。
 その言葉が、再び。彼の口から発せられる。


「——お前なんて、最初から、仲間じゃなかった」


「違う!」
 リクシアは跳ね起きて、叫んでいた。
「あなたは仲間だった! 私が最初に出会ったあの時から! 別れた日は、混乱していただけで! 
 
 最初から——仲間だったんだッ!」

「……起きたじゃないか」
 アーヴェイが、にやりと笑った。
「アーヴェイ、すごい……」
「見直した」
 フィオルとフェロンが、呆然とした顔でつぶやいた。
 リクシアは、はっとなる。
「わ……わた……わた……し……」
 叶わぬ夢にとらわれて。現実を見ようとしなかった。
 力は回復したのに。待ってくれる人がいるのに。
 夢に、おぼれて。悲しみに、おぼれて。
 現実を、見ようともしなかった。
「ごめん……ごめんな……さい……!」
 なんて愚かだったのだろう。また、フィオルとアーヴェイに笑われる。

 ——フィオルと、アーヴェイ……?

 リクシアは何度も瞬きした。あれれ? おかしい。フィオルとアーヴェイとは、決別したはずだ。なのになぜ、ここにいるの?
「……目、おかしくなっちゃったのかな……」
「おかしくはないぜ」
 言葉を声が否定した。
「アー……ヴェイ……」
「落盤事故があって道が通れなくてな。引き返すついでにここに寄った」
「兄さん素直じゃない……」
「素直だが?」
「今度は否定するわけね……」
 そのやり取りを、微笑んで聞きながら。
「戻って……くれたんだ……」
「ああ。フェロンから話は聞いた。少しは成長したと思ったが、その様子じゃまだまだだな」
「……わかってるもん」
 フィオルに会い、アーヴェイに会い。フェロンと再開し、「ゼロ」と戦って。
 そのたびに、己の甘さを突き付けられて。
「……わかってる……わかってる……けど……」
 今なら受け入れてくれる。そんな甘い考えは捨てたけど。
 私はこの人たちが好きだから。
 仲間として。友人として。好き、だから。
 お願い。

「……私と……また、仲間になって……!」

「前置きせずにそう言え」

 アーヴェイが、微笑んでいた。
「いいだろう。武器を奪われて、戦力が不足していたところなんだ。お前を仲間として、受け入れる」
「僕も忘れないでね」
「了解だ、フェロン」
 ただし、と彼は、いたずらっぽく笑った。

「足手まといにだけは、なるなよ」

「————はいっ!」
 リクシアは、強くうなずいた。
 嬉しかった、心から。
 また、彼らと一緒に旅ができることが。
 わだかまりもなく、話せることが。
 あの日。あの、別れの日以来。心にくすぶっていた黒い後悔。
 それが今、溶けだして。春の清流となって心を下っていく。
 
 ——よかった。

 ほっとして、微笑めば。落ちてきた瞼。
「リア!?」
 驚いたようなフェロンの声。今度はそれに、しっかりと返す。
「疲れたの。今度はちゃんと、起きるから、さ……。あとでご飯、持ってきて?」
 今はちょっと眠たいだけ。大丈夫、すぐに起きるから。
「……つくづく、兄さんもお人よしだよねぇ」
「困っている人をほっとけないだけだ」
「それをお人よしというんだよ!?」
 コントみたいな掛け合いを聞きながらも、リクシアは微笑みながら眠りに落ちた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 副題は「リクシア、目覚める!?」です。久々に天使と悪魔を登場させたら、この人たちの掛け合いがなんと、コントなんですわ。書いてて笑いました。どうしてこうなった。
 えー、ようやく目覚め、コント兄弟とも再会した眠り姫。次の展開はどうなるんでしょう。お楽しみに。

 ※ホントはアーヴェイ、お人よしでもボケキャラでもなく、もっと格好いいキャラだったはずなんですが……。(Ep2〜6参照)書いていたら、自然とこうなりました。繰り返し言う。どうしてこうなった!

 ……お粗末さまでした。