ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep12 迫る再会の時  ( No.15 )
日時: 2017/08/08 08:30
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

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「じゃ、また、フロイラインに行くの?」

 目覚めてから一週間。ようやく身体の機能を取り戻したリクシアは、戻ってくれた仲間たちに、そう訊いた。今回はフェロンもいる。
 その問いに、フィオルがうなずいた。
「うん。落盤事故があったから遠回りして目指すんだけど、その前に」
 アーヴェイが言葉を引き継ぐ。


「——リュクシオン=モンスターが、出たぞ」


「——えぇっ!?」
「————!」
 隣では、フェロンもまた、盛大に驚いていた。

 己の犯した過ちにより、魔物と化した、リクシアの兄。
 取り戻そうとして、その方法を、探していた。

「ど、どこにっ!」
「この近辺らしいよ。ウィンチェバルの王宮魔道師の徽章をつけてたって。狂ったようにローヴァンディアを攻めていたのに、不意に戻ってきたらしい」
 ローヴァンディア。それは、あの戦いの日。ウィンチェバルに攻め入っていた国の名前。
 かつては兄はそこにいた。そこを狂ったように攻めていた。わずかに残った残留思念が、「ローヴァンディアは敵」と思い込ませ、そんな行動をとらせる。

  ——なのに。

「……その兄さんが、この近辺に現れた!? 回復そこそこに何なのよもう!」
 ただでさえ、「ゼロ」との問題があることだし。頭が痛くなってきた。
「兄さんには会いたいけど……まだ、何の準備も整ってないよ!」
 魔物を元に戻す手掛かりすらないのに。こんな状況で再会したって、何ができる——!
「殺しちゃいけないんだよね?」
「おい、フィオル、それは当然だろ——」
「いいから。……殺しちゃいけないんだよね?」
 アーヴェイの言葉をさえぎって。天使の瞳がリクシアを射抜く。
 リクシアはその視線をしかと受け止めて、うなずいた。
「殺さないで。兄さんなの」
「わかった」
 フィオルは首肯する。
「じゃ、今回は兄さんは下がってて」
「……フィオ?」
「兄さんばっかりが傷つく必要なんてないんだ。僕だって戦える。それに——」
 現実を、突き付けた。
「『アバ=ドン』のないままで戦うなら、兄さんは悪魔になるしかない。でも、悪魔になったとして。相手を殺さずに戦えるかな?」
「……そういうことか。承知した」
 あと、フェロンさんも、駄目だから、と彼は言う。
「……なんで僕まで」
「あなたは剣士だ。剣士は完調でないときに、強敵と戦うべきではないよ。それじゃあ命取りだって、解ってる?」
「じゃあそっちはどうなのさ」
「僕? 僕は完調だよ。それに僕だって、近接武器は扱えるさ。遠方攻撃はシア、近場は僕。リュクシオン=モンスターがこの町を襲わないようにかつ殺さないように、ギリギリで撃退する」
 言って彼は、どこからか、三つ又の銀色の槍を取り出した。
「これが僕の武器。聖槍『シャングリ=ラ』だよ」
 楽園を意味する名をもつそれは、確かに天使によく似合っていた。
 
 ということは。
 リクシアははっとなる。
「……兄さんと戦うの、私とフィオルしか、いないの——?」
「不満?」
「いえ、そうじゃなくって……」
 災厄と化した兄さんに。たった二人で挑むのか。
「不安なの?」
 フィオルの言葉に、うなずいた。
 そんなこと、と彼は苦笑いして、優しく言った。
「自分を信じれば、済む話じゃないか」

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 ……ハイ、藍蓮です。どうしてこう、急展開になるんだろう……。
 いえ、普通に書こうとしたんですよ? でも、私はファンタジー世界でも、日常が苦手のようです。平穏終わるの早っ! もっと休めよみんな! ……急展開ですみません。
 このままだと、一体何話で終わってしまうのだろうか、とか思いながら書いてます。続編案すでにあるし。
 まぁ、こんな藍蓮ですが。
 次回作に、ご期待下さい。
 ただいま決戦前夜! 再会の行方は——?

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 追記 閲覧数がもうすぐ100になるということなので、記念としてまた、単発短編書きます。リク依頼・相談掲示板の方に「閲覧数100間近! 「カラミティ・ハーツ」エピソード受付中!」というスレを立てましたので、書いてほしい話などあったらそちらにお願いします。

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep13 なカナいデほしいから ( No.16 )
日時: 2017/08/08 14:17
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 みなさん、ありがとうございますッ!

「カラミティ・ハーツ」もついに、閲覧数100…………!
 藍蓮、とても感激しています!
 本当は閲覧数100記念でまた短編を作りたかったところですが、リクエストが今のところないので本編を進めます。
 ホントに、どうもありがとうございました!

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 この町を北に少し行ったところに、小さな丘がある。

 そこに、「それ」がいた。

 リュクシオン=モンスター。大召喚師のなれの果て。

 胸元にあるボロボロの徽章は。確かに彼のものだった。

「……お兄ちゃん……」
 呟いてみても、何も言わない。怪物はただ、その場にたたずんでいるだけだった。
「追い払う。でもね、シア」
 フィオルが真剣なまなざしで彼女を見た。
「追い払う、のはいいけど……。元は兄さんだったとしても、こいつは怪物なんだ。そのままにしたらまた誰かが死に、怪物がどんどん増えて行くんだよ」
 君は一人だけのために、多くの命を犠牲にしてる、と、彼は現実を突き付ける。
「まぁ、僕らだって人のことは言えないんだけど、さ……。殺さず生かすということは、他の誰かを殺すこと。僕らは変わり果てたあの人を撃退するたびに、そのことを胸に刻んでる。それに……彼は魔物だから。君じゃない他の人に倒される可能性だって、あるんだ」
 魔物になったら、元に戻せないのが当たり前。それをゆがめようとしている私たちは。他の人の思いを踏みつけにしてまで自分の思いに忠実な、私たちは。
「知ってる……。咎人、なんだ」
 それを意識し、前を見据えた。
 変わり果てた兄は、悲しげに突っ立っていた。

 と。

 突然、リュクシオン=モンスターは咆哮を上げた。狂ったように、こっちに向かってくる。
「来る!」
「わかってる!」
 リクシアは呪文を早口に唱える。フィオルが「シャングリ=ラ」を取り出し、リクシアを守るように前に立つ。
「出てって、お兄ちゃん! ここは私の居場所なの! 壊そうとしないで!」
 風が、辺りに巻き起こる。リクシアの白い髪がざわざわと揺れた。
「彼方吹きゆく空の風! 今舞い降りよ。彼の烈風!」
 ——傷つけ、たくはなかったのに。
「仇なすものを斬り断ちて、めぐりめぐれよ、渦を巻け!」
 グァァァアアアアアアア! すさまじい勢いで振りかぶられた爪を。
「くうッ……!」
 フィオルの細い身体が受け止める。
 途端、巻きあがった烈風は。
「ティアー・ウィンド!」
 Grrrrrrrrr!
 叫ぶ魔物に襲いかかり、皮膚を幾重にも切り裂いた。
 魔物の目が、リクシアをとらえる。怒っている。自分を傷つけた相手に対して。
 意思もない、理性もない、何もない。暗くよどんだ青の瞳が、怒りを宿してリクシアを見る。
「出て行って! 出て行きなさい、お兄ちゃん! 出て——」

「シア、危ない!」

「グァァアァルルルルル!」
「——えっ?」
 リクシアは、包まれていた。温かく、がさがさした、腕に。

 ——魔物の、腕に。

「うぐぅッ!」
 フィオルの苦しそうな声。何があったかはわからない。

 声が、した。

「あらいやだ。魔物のくせして。他の誰かを守るなんて、ねぇ」
 それは、「ゼロ」を飼っていた、妖艶な女の声。
「出して!」
 叫べば。腕はあっさりとリクシアを開放していた。
 
 そして見たのは。
 
 脇腹から血を流し、うずくまるフィオルと。
 二本の剣を、リュクシオン=モンスターとフィオル。両方に向けていた、女の姿だった。
「フィオル!」
 叫んで近寄ろうとするが、リュクシオン=モンスターが引き戻す。
「放して、放してえっ! お兄ちゃん、フィオルが死んじゃう! 放してようっ!」
 魔物となり果てた兄は女を睨み、暴れる妹を抱いたまま、動かない。
 女を警戒しているようだ。
 それを見、女はつぶやいた。
「両方とも、ひと思いに殺してやろうと思ったのに。天使は反応素早すぎるし、魔道師ちゃんは魔物が守るし……。魔物には、意思なんてないって思っていたのに……。見当違いかしら、ねぇ」
 薄く笑って。
「じゃぁ天使ちゃん。これ、貰って行くわねぇ」
 投げ出された「シャングリ=ラ」を拾おうと手を伸ばした。
「やめ……ろ……!」
 フィオルの苦しそうな声。
「やめてぇぇっ!」
 リクシアの叫び。
 すると。

「ガァァァアアアアアッッッ!」

 リクシアを放り出した怪物の腕が、女を一直線に薙いだ。

「お兄……ちゃん……?」

 意思も、理性も、何もかも。無くなったはずなのに。

 壊れたような、声が言うのだ。


「いモウとの……タいセツなモの……キずツケさセなイ……!」


「お兄ちゃん!」

 
「ダかラ……なカナいデ……おクレよ……!」


 召喚、された。もう大召喚師ではなくなった兄から。
 
 天使が、精霊が。たくさんの妖精たちが。

 どうして? 魔物になり果てて。意思も想いも、なくしたはずなのに。

 わずかに残された残留思念が、奇跡を起こした。

「魔物の……くせにッ!」
 叫ぶ女。人外に追われ、あわてて逃げだす。
 リクシアはそのさまを、呆然と見ていた。
「お兄……ちゃん」
 リュクシオン=モンスターは、首をかしげて妹を見て。

「サヨうナら」

 それだけ言い残し、女を追って、歩き出した。

 腕。あのとき、守ってくれた、腕。
 リュクシオン=モンスターは、怪我をしていた。その大きな腕に。
 リクシアを、守ったから。守って代わりに、怪我をした。

(どうして……?)

 もしも兄さんに、意思が残されているのなら。
 純粋な敵として、戦えないじゃないか。
 守ってくれた、腕。
 魔物になっても。
 兄さんは兄さんだったのだと、知って。

(私は……どう、すれば……?)

 その時、フィオルの姿が目に入った。
「フィオル!」
 あわてて駆け寄ると、少年は苦い笑みを見せた。
「油断した……」
「そんなのどうでもいいから! 傷は!? 大丈夫? 歩ける!?」
 白い天使は、脇腹を押えながらも、片手だけで「シャングリ=ラ」をつかみ、それを支えに立ち上がる。
 リクシアは衣を引き裂いて、即席の包帯にして、そっと傷に巻きつけた。
「私じゃこれくらいしか……」
「……構わない。ありがとう。……肩、貸してくれる?」
「ええ、もちろん」
 言ってリクシアは、フィオルの怪我をしてない側の肩を支えた。フィオルが手をさっと振ると、「シャングリ=ラ」は、一枚の白い羽根となって、その手に収まった。
「……便利」
 思わずつぶやくと。少年は、優しくほほ笑んだのだった。

 さあ、帰ろう。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 またまた急展開……って、もうこれは定番ですから、ほっといて下さいな。

 リュクシオン=モンスターと再開したリクシア。そこで驚くべき行動をとった兄。

 果たして「魔物」とは一体何なのか? そして、執拗にリクシアたちを狙う謎の「女」の正体とは?
 謎の増えてきた「カラミティ・ハーツ」。話はまだまだ続きます。
 次回をご期待下さい。 

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep14 天魔物語 ( No.17 )
日時: 2017/08/08 17:16
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

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「フィオル!? 無事かッ!」
「兄さんも過保護だねぇ……」
 帰ってきたら、開口一番。アーヴェイの声が飛んできた。

  ◆

「……というわけなの」
 とリクシアは締めくくった。
 フィオルの応急手当も終わり、今、皆は宿のある部屋に集まっている。
「参考までに聞きたいのだけれど。フィオル、アーヴェイ。あなたたちの大切な人は、兄さんみたいになったことある?」
 アーヴェイは首を振る。
「ハーティはそうはなら……いや、こっちの話だ」
「ハーティ? その人が、あなたたちの……」
「義理の母なんだ」
 少し昔の話をしようか、と彼は言った。

  ◆

 ずっと昔。二人は捨て子だったらしい。初めにフィオル、次にアーヴェイ。その順に、とある女性に見つかった。
 女性の名はハーティ。茶髪に明るいオレンジの眼の、心やさしい女性だった。
 彼女は捨てられた二人を良く育て、具合が悪くなったら医者に見せ、欲しいものがあったなら、よく吟味して買ってやった。教育にも熱心で、家事も非常にうまかった。
 彼女のもとで、フィオルもアーヴェイも。まるで兄弟のようにして育ち、「当たり前」を謳歌した。

 しかし、平穏は長く続かない。それは、ある日のことだった。
「……嘘……」
 ある手紙を読んで、彼女はくずおれるようにして泣き伏した。
「義母さん!?」
 ハーティには、遠く離れた恋人がいた。その人は彼女の幼馴染で、フィオルもアーヴェイも、一度はその人に会ったことがあった。
 その日、届いたのは。その手紙は。

 ——その人の訃報。

 ハーティは獣のような声をあげて、咆哮した。それは、魔物になる予兆。
「ハーティッ!」
 あの日、あの時。悪魔の力を解放すれば、止められたかもしれないのに。
 駆け寄ったフィオルとアーヴェイは、振り上げた手に殴り飛ばされた。
「義母さんッ!」
 魔物になっていく、育ての親。止めたいのに、止められなくて。
「ウォォォォオオオオオオオオオオ!」
 狼のように遠吠えを一つ。
 そしてハーティはいなくなった。

  ◆

「……簡単にまとめれば、こうなる」
 アーヴェイがそう締めくくった。
「あれから何回か、ハーティ=モンスターに会った。一回はフィオルが死にそうになったことさえある。でも、彼女はリュクシオン=モンスターみたいにはならなかった。思うに……」
「リアはリュクシオンにとっての一番だったが、あんたたちはハーティにとっての一番じゃなかった。ハーティにとっての一番は、その恋人だったから……ということだろう。あんたたちにとって、ハーティが一番ではないように。あんたたちにとっての一番は……互いの存在だろうから」
 割り込むようにし、フェロンが言葉を引き継いだ。
 つまりは。
「魔物になった人があんな行動をとるのは、対象がその人の一番だったって場合だけ……?」
「そうみたいだな。よって僕の場合、リュークに会って生き残れるかはわからない」
「そうなんだ……」

 語られたのは、一つの物語。
 天使と悪魔が、花の都を目指した理由。

「……魔物、か」
 呟いて、リクシアは、今はいない兄に思いを馳せるのだった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆