ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep13 なカナいデほしいから ( No.16 )
日時: 2017/08/08 14:17
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 みなさん、ありがとうございますッ!

「カラミティ・ハーツ」もついに、閲覧数100…………!
 藍蓮、とても感激しています!
 本当は閲覧数100記念でまた短編を作りたかったところですが、リクエストが今のところないので本編を進めます。
 ホントに、どうもありがとうございました!

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 この町を北に少し行ったところに、小さな丘がある。

 そこに、「それ」がいた。

 リュクシオン=モンスター。大召喚師のなれの果て。

 胸元にあるボロボロの徽章は。確かに彼のものだった。

「……お兄ちゃん……」
 呟いてみても、何も言わない。怪物はただ、その場にたたずんでいるだけだった。
「追い払う。でもね、シア」
 フィオルが真剣なまなざしで彼女を見た。
「追い払う、のはいいけど……。元は兄さんだったとしても、こいつは怪物なんだ。そのままにしたらまた誰かが死に、怪物がどんどん増えて行くんだよ」
 君は一人だけのために、多くの命を犠牲にしてる、と、彼は現実を突き付ける。
「まぁ、僕らだって人のことは言えないんだけど、さ……。殺さず生かすということは、他の誰かを殺すこと。僕らは変わり果てたあの人を撃退するたびに、そのことを胸に刻んでる。それに……彼は魔物だから。君じゃない他の人に倒される可能性だって、あるんだ」
 魔物になったら、元に戻せないのが当たり前。それをゆがめようとしている私たちは。他の人の思いを踏みつけにしてまで自分の思いに忠実な、私たちは。
「知ってる……。咎人、なんだ」
 それを意識し、前を見据えた。
 変わり果てた兄は、悲しげに突っ立っていた。

 と。

 突然、リュクシオン=モンスターは咆哮を上げた。狂ったように、こっちに向かってくる。
「来る!」
「わかってる!」
 リクシアは呪文を早口に唱える。フィオルが「シャングリ=ラ」を取り出し、リクシアを守るように前に立つ。
「出てって、お兄ちゃん! ここは私の居場所なの! 壊そうとしないで!」
 風が、辺りに巻き起こる。リクシアの白い髪がざわざわと揺れた。
「彼方吹きゆく空の風! 今舞い降りよ。彼の烈風!」
 ——傷つけ、たくはなかったのに。
「仇なすものを斬り断ちて、めぐりめぐれよ、渦を巻け!」
 グァァァアアアアアアア! すさまじい勢いで振りかぶられた爪を。
「くうッ……!」
 フィオルの細い身体が受け止める。
 途端、巻きあがった烈風は。
「ティアー・ウィンド!」
 Grrrrrrrrr!
 叫ぶ魔物に襲いかかり、皮膚を幾重にも切り裂いた。
 魔物の目が、リクシアをとらえる。怒っている。自分を傷つけた相手に対して。
 意思もない、理性もない、何もない。暗くよどんだ青の瞳が、怒りを宿してリクシアを見る。
「出て行って! 出て行きなさい、お兄ちゃん! 出て——」

「シア、危ない!」

「グァァアァルルルルル!」
「——えっ?」
 リクシアは、包まれていた。温かく、がさがさした、腕に。

 ——魔物の、腕に。

「うぐぅッ!」
 フィオルの苦しそうな声。何があったかはわからない。

 声が、した。

「あらいやだ。魔物のくせして。他の誰かを守るなんて、ねぇ」
 それは、「ゼロ」を飼っていた、妖艶な女の声。
「出して!」
 叫べば。腕はあっさりとリクシアを開放していた。
 
 そして見たのは。
 
 脇腹から血を流し、うずくまるフィオルと。
 二本の剣を、リュクシオン=モンスターとフィオル。両方に向けていた、女の姿だった。
「フィオル!」
 叫んで近寄ろうとするが、リュクシオン=モンスターが引き戻す。
「放して、放してえっ! お兄ちゃん、フィオルが死んじゃう! 放してようっ!」
 魔物となり果てた兄は女を睨み、暴れる妹を抱いたまま、動かない。
 女を警戒しているようだ。
 それを見、女はつぶやいた。
「両方とも、ひと思いに殺してやろうと思ったのに。天使は反応素早すぎるし、魔道師ちゃんは魔物が守るし……。魔物には、意思なんてないって思っていたのに……。見当違いかしら、ねぇ」
 薄く笑って。
「じゃぁ天使ちゃん。これ、貰って行くわねぇ」
 投げ出された「シャングリ=ラ」を拾おうと手を伸ばした。
「やめ……ろ……!」
 フィオルの苦しそうな声。
「やめてぇぇっ!」
 リクシアの叫び。
 すると。

「ガァァァアアアアアッッッ!」

 リクシアを放り出した怪物の腕が、女を一直線に薙いだ。

「お兄……ちゃん……?」

 意思も、理性も、何もかも。無くなったはずなのに。

 壊れたような、声が言うのだ。


「いモウとの……タいセツなモの……キずツケさセなイ……!」


「お兄ちゃん!」

 
「ダかラ……なカナいデ……おクレよ……!」


 召喚、された。もう大召喚師ではなくなった兄から。
 
 天使が、精霊が。たくさんの妖精たちが。

 どうして? 魔物になり果てて。意思も想いも、なくしたはずなのに。

 わずかに残された残留思念が、奇跡を起こした。

「魔物の……くせにッ!」
 叫ぶ女。人外に追われ、あわてて逃げだす。
 リクシアはそのさまを、呆然と見ていた。
「お兄……ちゃん」
 リュクシオン=モンスターは、首をかしげて妹を見て。

「サヨうナら」

 それだけ言い残し、女を追って、歩き出した。

 腕。あのとき、守ってくれた、腕。
 リュクシオン=モンスターは、怪我をしていた。その大きな腕に。
 リクシアを、守ったから。守って代わりに、怪我をした。

(どうして……?)

 もしも兄さんに、意思が残されているのなら。
 純粋な敵として、戦えないじゃないか。
 守ってくれた、腕。
 魔物になっても。
 兄さんは兄さんだったのだと、知って。

(私は……どう、すれば……?)

 その時、フィオルの姿が目に入った。
「フィオル!」
 あわてて駆け寄ると、少年は苦い笑みを見せた。
「油断した……」
「そんなのどうでもいいから! 傷は!? 大丈夫? 歩ける!?」
 白い天使は、脇腹を押えながらも、片手だけで「シャングリ=ラ」をつかみ、それを支えに立ち上がる。
 リクシアは衣を引き裂いて、即席の包帯にして、そっと傷に巻きつけた。
「私じゃこれくらいしか……」
「……構わない。ありがとう。……肩、貸してくれる?」
「ええ、もちろん」
 言ってリクシアは、フィオルの怪我をしてない側の肩を支えた。フィオルが手をさっと振ると、「シャングリ=ラ」は、一枚の白い羽根となって、その手に収まった。
「……便利」
 思わずつぶやくと。少年は、優しくほほ笑んだのだった。

 さあ、帰ろう。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 またまた急展開……って、もうこれは定番ですから、ほっといて下さいな。

 リュクシオン=モンスターと再開したリクシア。そこで驚くべき行動をとった兄。

 果たして「魔物」とは一体何なのか? そして、執拗にリクシアたちを狙う謎の「女」の正体とは?
 謎の増えてきた「カラミティ・ハーツ」。話はまだまだ続きます。
 次回をご期待下さい。