ダーク・ファンタジー小説
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep14 天魔物語 ( No.17 )
- 日時: 2017/08/08 17:16
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「フィオル!? 無事かッ!」
「兄さんも過保護だねぇ……」
帰ってきたら、開口一番。アーヴェイの声が飛んできた。
◆
「……というわけなの」
とリクシアは締めくくった。
フィオルの応急手当も終わり、今、皆は宿のある部屋に集まっている。
「参考までに聞きたいのだけれど。フィオル、アーヴェイ。あなたたちの大切な人は、兄さんみたいになったことある?」
アーヴェイは首を振る。
「ハーティはそうはなら……いや、こっちの話だ」
「ハーティ? その人が、あなたたちの……」
「義理の母なんだ」
少し昔の話をしようか、と彼は言った。
◆
ずっと昔。二人は捨て子だったらしい。初めにフィオル、次にアーヴェイ。その順に、とある女性に見つかった。
女性の名はハーティ。茶髪に明るいオレンジの眼の、心やさしい女性だった。
彼女は捨てられた二人を良く育て、具合が悪くなったら医者に見せ、欲しいものがあったなら、よく吟味して買ってやった。教育にも熱心で、家事も非常にうまかった。
彼女のもとで、フィオルもアーヴェイも。まるで兄弟のようにして育ち、「当たり前」を謳歌した。
しかし、平穏は長く続かない。それは、ある日のことだった。
「……嘘……」
ある手紙を読んで、彼女はくずおれるようにして泣き伏した。
「義母さん!?」
ハーティには、遠く離れた恋人がいた。その人は彼女の幼馴染で、フィオルもアーヴェイも、一度はその人に会ったことがあった。
その日、届いたのは。その手紙は。
——その人の訃報。
ハーティは獣のような声をあげて、咆哮した。それは、魔物になる予兆。
「ハーティッ!」
あの日、あの時。悪魔の力を解放すれば、止められたかもしれないのに。
駆け寄ったフィオルとアーヴェイは、振り上げた手に殴り飛ばされた。
「義母さんッ!」
魔物になっていく、育ての親。止めたいのに、止められなくて。
「ウォォォォオオオオオオオオオオ!」
狼のように遠吠えを一つ。
そしてハーティはいなくなった。
◆
「……簡単にまとめれば、こうなる」
アーヴェイがそう締めくくった。
「あれから何回か、ハーティ=モンスターに会った。一回はフィオルが死にそうになったことさえある。でも、彼女はリュクシオン=モンスターみたいにはならなかった。思うに……」
「リアはリュクシオンにとっての一番だったが、あんたたちはハーティにとっての一番じゃなかった。ハーティにとっての一番は、その恋人だったから……ということだろう。あんたたちにとって、ハーティが一番ではないように。あんたたちにとっての一番は……互いの存在だろうから」
割り込むようにし、フェロンが言葉を引き継いだ。
つまりは。
「魔物になった人があんな行動をとるのは、対象がその人の一番だったって場合だけ……?」
「そうみたいだな。よって僕の場合、リュークに会って生き残れるかはわからない」
「そうなんだ……」
語られたのは、一つの物語。
天使と悪魔が、花の都を目指した理由。
「……魔物、か」
呟いて、リクシアは、今はいない兄に思いを馳せるのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆