ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ心の魔物 Ep15 覚醒せよ、銀色の「無」 ( No.18 )
日時: 2017/08/08 20:00
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

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「リュクシオン=モンスター……」
 去りゆく怪物を、見据える影があった。
 「ゼロ」だ。今日はあの女と一緒ではなかった。
 だから彼は、本来はここにいないはずだった。

 彼女はあえて、彼を連れていかなかった。
 その理由は——。

 オモイダサセタクナカッタカラ。

「——ッ! 頭が……」

 その怪物を見た途端、はじけだそうとする記憶。思い出したいのに、執拗な頭痛がそれをさせない。
「ぐ……ああっ!」
 脳裏に走った激痛。焼けつくように、突き刺すように。
 「ゼロ」はうめき、大地をのたうち、転げ回った。

 それでも——これは。

 魔物を。見た瞬間、はじけそうになった記憶は。
 大切なものだから。
 苦しくても——苦しくても。思い出さなきゃならない、そんな気がした。
(リュクシオン=モンスター)
 唯一残った記憶が言うのだ。
(あれは、リュクシオン=モンスターだ)
 そして。
「ゼロ」
 母さんの声。
 違う、あれは、母さんじゃない。
「ゼロ! 何してるの!」
 違う。僕の名は「ゼロ」じゃない。
 言っていたじゃないか、あの日、戦った一人の少女が。
 思い出せ、思い出せ。あの少女の言った言葉を。
 頭痛はますますひどくなり、考えるのすら億劫になる。
 歯を食いしばり、痛みに耐え。
 あの日の記憶を呼び戻す。
「ゼロ!」
「ゼロじゃないッ!」
 あの少女の、言葉。
『******・*******! 目を覚ましてッ!』

 ——思い出した。

 頭痛は、消えていた。
「あなたは……母さんじゃ……なかった……」
「何を言っているの? 私はあなたの母さんでしょう」
「違うッ!」

 思い出した。思い出せた。あの遠い日の暮らし。父にいじめられ、兄にいじめられ。それでも、どんな時でも。母だけは味方でいてくれた。
「母さんの名はエリクシア! そして、僕の名は——!」

 あの子が教えてくれた、僕の本当の名前。
 僕は、ある国の王子だった。
 唯一生き残った、王族。
 ゆえに、名乗ろう。思いを込めて。その名は——


「エルヴァイン・ウィンチェバルッッッ!」


 叫び、「母」に剣を向けた。

「……運のない子」
 「母」は小さくつぶやいて、自らも剣を抜いた。
「ならば殺して差し上げるわ、私の可愛い『ゼロ』——いいえ、ウィンチェバル王国第三王子ッ! エルヴァイン・ウィンチェバルッ!」
「望むところだ! 人の記憶を勝手に操って……。この屈辱は、今、晴らす!」

 二本のつるぎが交わった。

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 どーも、藍蓮です。
 今回は完全にサブストーリーですねー。主人公全く出てないし(笑)
 正直、まだこんな序盤で敵役一人消してもいいの〜? なんて思ってますが、前の話でリュクシオン=モンスターを出した以上、こうなることはわかっていました(オイ)。
 ついに覚醒(?)した「ゼロ」。謎の女との戦いの行方は?
 次回をお待ち下さい!