ダーク・ファンタジー小説
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep16 亡国の王女 ( No.19 )
- 日時: 2017/08/09 08:07
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
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——力量が、違った。
「ぐうッ!」
身体を貫いた剣を。彼は呆然と見ていた。
「運のない子。忘れたままなら、こうはならなかったのに」
剣を引き抜き、露を払い。そのまま歩き去ろうとする背に。
「待……て……!」
かけた声は無視されて。
エルヴァインは、くずおれるようにして膝をつく。
視界がゆがむ。何もかもが真っ赤に染まる。
「こんな……ところで……!」
果たさなければならない使命があった。
謝らなければならない人がいた。
やりたいこと、やるべきこと。まだまだたくさんあったのに。
貫く痛みに意識を失いかけ、なんとか再び覚醒する。
生きたいと、死にたくないと。心が、全身が。魂の叫びをあげていた。
「僕は……まだ……!」
死ぬわけには、行かないのに——。
あの日。あの女に誘惑された。それが崩壊の始まりで。
記憶をなくし、意思もなくし。操り人形のように生きていた。
そして、今。記憶も意思も取り戻した彼は、また何かをなくそうとしている。
——それは、命だ。
「嫌だッ!」
叫んでも。もがいても。必死に足掻いても。
何かが変わることはなかった。何かが起きることもなかった。
当然だ。神様なんて、いないのだから。
奇跡なんかに期待しない。
——でも、生きたい、から。
どうすれば、生きられるのだろう——?
◆
丘の上に、銀色の少年が、倒れていた。
腹から血を流し。青ざめた顔で。
でも、かろうじて、生きていた。
「……仕方ない、か」
一人の少女が、その身体を抱きかかえた。
「まったく。こんなところで倒れないでほしいものだわ」
感情のない声は、しかし、どこか心配げだった。
「あんたはいっつも無茶をして……。あの女の正体をわかっていたの? 知らなかったんでしょう。知っていたなら、問答無用で逃げていた」
少女はぶつぶつと呟きながらも、少年をどこかに連れていく。
そっと、口にされた名前は。
「——あの、『偽りの女神』ヴィーナだと、知っていたなら」
◆
「じゃぁ、再び目指そう、花の都、フロイラインを」
フィオルも少し、回復してきた頃。リクシアがそう、提案した。
「でも、今回はフェロンも一緒だもーん。みんなで行こうよ? そこに行って、何かを見つけないと……話は全然進まないもの」
だな、とアーヴェイもうなずいた。
すると。そこへ。
コンコン。ドアのノックされる音。
これまでいろいろなことがあったから、思わず身構えるリクシア。
他のみんなも油断なく武器を構え、誰何した。
「何者っ!」
「グラエキア・ド・アルディヘイム・アリアンロッド。エルヴァイン・ウィンチェバルと深い関わりをもつ者、といったらわかるかしら?」
「……入って」
エルヴァイン・ウィンチェバル。それは、あの「ゼロ」のことだ。
他人ごとではない。
「単刀直入に聞く。リュクシオン=モンスターは、どんな戦い方をしていた?」
「それ以前に、貴様は誰だッ!」
「身分で言うのならば」
感情のない声が、告げる。
「今は亡き、ウィンチェバル王の姪よ」
……新たなる波乱が巻き起ころうとしていた。
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新キャラ登場でーす。
私は多く、物語を書く際には、設定を「構成ノート」にまとめてから内容を書き始めるのですが、新しい彼女はなんと、「ノート」にも書いていない、ぶっつけ本番のキャラです。というか、「ノート」に書いたキャラはもう尽きたので、これから「新キャラ」がでるときは、みんなぶっつけ本番になります。
明かされた「女」の名前、不意に現れた、謎の少女。「彼ら」が紡ぎだす物語は、次は一体どんな所に向かうのか。
次回をお待ち下さいな。