ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ Ep17 正義は変わる、人それぞれ ( No.20 )
日時: 2017/08/09 22:41
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 更新遅れたのは、学校で部活があったから!

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 グラエキア・アリアンロッドことグラエキアは、言った。
「エルヴァイン・ウィンチェバルは元に戻ったわ。リュクシオン=モンスターを見て記憶が戻った。でも、今は大怪我をして、動けない。だから私が来たのよ」
 彼女は再び訊いた。
「だから、質問なの。リュクシオン=モンスターは、どんな戦い方をしていた?」
「……兄さんに何する気?」
「当たり前じゃない」
 人形みたいに淡々とした彼女は、言うのだ。

「殺すのよ」

「……今、なんて?」
「言った。殺すと。あれは災厄。存在してはならぬモノ」
「でも、兄さんなんだよっ!」
 その言葉に怒りを示し、リクシアは乱暴に立ち上がった。
「魔物になっても。怪物になっても。あれは……兄さんなの。殺すなんて、そんなっ!」
「生憎と私情を優先している暇はないわ。あなたはアレが、一体どれくらいの人を殺したのかご存じ?」
「し、知らないわよ、そんな……」

「百」

 突きつけられるは冷たい現実。
「私の情報網なら、余裕で百は越えるとの数値が出ている。あなたは百というのが、どんなに大きな数字かわかってる? 百人いれば、村ができるわ。小さな町だってできる。あなたの兄さんはね、エルフェゴール」
「どうしてその名を——」

「町を一つ潰したも、同罪よ」

「————ッ!」
 百。百人。百の命。重い。すさまじく重い。重すぎる、それ、を。
「奪ったのはあなただ。討伐しようともしないで。叶わぬ夢を、無駄に追い続けた」
「…………やめて」
「だから、私は再び問うわ。あなたは人殺しになるのかと。罪もない女子供を。私情のために犠牲にするのかと。大召喚師の妹が、聞いて呆れる。所詮、あなたの正義はあなたにとっての正義でしかなく、他人を一切省みない」
「やめてったら——」

「……やめろ、アリアンロッド」

 フェロンが静かに割り込んだ。
「ああ、僕らが掲げるのは身勝手な正義さ。だがな、それのどこが悪い。人は皆、聖人君子であるわけじゃない。……身勝手な正義の、何が悪い」
「……あら」
 思わぬ反撃に、グラエキアは小さく声をもらした。
「確かに、身勝手な正義だって、悪くはないけれど」
 その紫の瞳が、強い笑みを浮かべた。
「私たちは、王族だから」
 部屋の扉に、手をかけて。

「そんな私たちの正義は、家臣の失態をすすぐこと」

 邪魔したわね、と言って、彼女はいなくなった。
 敵なのか、味方なのか。よくわからないけれど。
 人には人の正義がある。それが対立することだって、あるのだと。
「……確かに、グラエキアの言葉には一理あるが」
 アーヴェイが目を閉じ、つぶやいた。
「だがな、おそらく奴は知らない。身近な者が、魔物になった悲しさを。だから、あんな冷たいこと、言えるんだ」
 大切なものが魔物となったとき。それを救いたいと考えるのは、当たり前のこと。
「いそごう、フロイラインへ」
 フィオルは言った。

「グラエキアに、リュクシオン=モンスターが、討伐される前に」


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 敵か味方か? 新たな登場人物、グラエキア!
 はい、藍蓮です。更新します。
 人にはそれぞれ正義があって、それが対立するからこそ、戦争は生まれるのだと考えています。今回は、「正義」についての話でした。
 グラエキアら王族陣営は、「リュクシオン=モンスターを倒すこと」を正義としています。なぜなら、それは、滅びた祖国の生んだ、害悪だから。王族としての誇りが、身内の恥は身内でそそがんと、そんな行動を取らせるのです。
 
 ご精読、ありがとうございました!