ダーク・ファンタジー小説
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep19 照らせ「満月」皓々と ( No.22 )
- 日時: 2017/08/10 16:56
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
とりあえず北へ、北へ。一路進んだ。極北の地へ、花の都へ。
次に訪れたのはヴィーカという町。最初の町、アロームからはそれなりに離れている。
しかし、町には人気がない。すれ違う人っ子一人いない。
「ねぇ、どう思う?」
不安になって、仲間たちに聞いてみた。異常だな、とアーヴェイが即答する。
「ここはそこそこ大きな規模の町……。人は皆臆病なのかもしれないが、こうも人がいないのは……異常だ、な」
「家の中に人の気配はするのに……。みんな気配をひそめてる。おかしいよこの町!」
フィオルが不安げに、アーヴェイの服の端にしがみついた。顔を厳しくしたアーヴェイが、フィオルを守るようにして歩く。
「ここに長くいるのはよくない」
フェロンがそっとつぶやいた、時。
「——危ないッ!」
「——へ?」
普通に歩いていたら、突き飛ばされた脊中。
先ほどまで彼女の頭があったところを、魔物の腕が通り過ぎる。
「ぐうッ——!」
「グラエキア!?」
代わりに吹っ飛ばされたのは、漆黒の美少女。
彼女は素早く立ち上がると、言った。
「逃げなさい。ここの住民は皆魔物化した! 詳しいことを話している暇はないから!」
「待って! 何で私を助けてくれたの! ……敵じゃ、ないの?」
「私が敵だといつ言った! 悪いかしら? ただの気まぐれよ。ここで死なれても、後味が悪いッ!」
「死……ぬ……?」
驚いて訊き返すと、見えなかったの? と彼女は呆れた。
「今の一撃。頭を狙ってた。私が入らなかったらどうなっていたことか! って!」
彼女は盛大に、舌打ちする。
いつの間にか、囲まれていた。
襲い来る魔物の集団に。
今まで出会ったこともないほどの、とても大規模な、集団に。
「話していたら、来たみたいね! 仕方ない、戦闘用意!」
グラエキアは、両手で魔術の印を組んだ。
知らず、戦慄した。
怖い。
はじめて身近に感じた「死」。
震えが止まらなくなった彼女を、守るようにグラエキアが立つ。
「グラエキア……?」
「町がこうなったのは私の責任。私があの女を止められなかったから」
迫りくる魔物を前にしても。揺らぐことなき漆黒の瞳。
「エルヴァインが操られたのも私の責任! 私が彼を、見つけられなかったから!」
魔物に殴られた傷を押さえ、それでも前を向いて叫ぶ。
「すべてが私の責任ならば! それらすべてを今、返すッ!」
「加勢するぞッ!」
「覚悟は決めたッ!」
横合いから、己の身体を悪魔と変えたアーヴェイと、聖槍「シャングリ=ラ」を構えたフィオルが走り出す。
「ボーっとするな、戦え、リクシア!」
片手剣を抜いたフェロンが行き過ぎる。
そうよ、そうだよね。おびえていたら。大好きな人たちが傷ついちゃうから。
「私だって、戦えるもん!」
その手を掲げ、魔法を呼んだ。
光と風よ、われとともに。
◆
「う……あ……」
身体中に苦痛を感じながらも、エルヴァイン・ウィンチェバルは目を覚ました。
「グラエキ……ア……?」
彼女がさっきまでいた気がする。
錯綜する記憶。
(あの女と戦っていて……。負けて、それで……?)
それで、グラエキアに。助けられたのだろうか。
「まさか……な。こんなところに、いるわけ……が……」
そう、思っていたら。その手に何かが触れた。
それは、手紙だった。
【エルヴァインへ
いつになったら起きるのかしら。いい加減怒るわよ。
とりあえず。私はグラエキアだから。死んだと思っているかもしれないから、ここに書いておくわね。私は今、生きていると。
私は醜い争いが嫌いでね。あの日は偶然国外にいたってわけ。
あら、信用ならない? なら、私とあなたしか知らないことを。
エルヴァイン。あなたの名前の由来について。父様が私に言っていたわ。
月には神様が二人いるって、あなたなら知っているでしょう。
新月の神、ルヴァインに、満月の神、シャライン。あなたの名は新月から来た。すべて失っても、再び満ちることができるように、と。
今、生きている王族は。きっと私とあなたしかいない。これでも私が信じられないなら、人生やり直してきなさい。
今、私は訳あって、ヴィーカまで行ってる。
でも、目覚めたばかりでいきなり、追ってこないほうがいいから。自分の体調わかってるわよね? ぶっ倒れられても困るから。無理はしないこと。いい?
まぁ、そんなわけでね。ちょっと、出かけてくるから。
お腹すいたら適当に食べてて。昼までには戻るわ。
ということで、じゃあね
追伸 あなたを操っていたのは、『偽りの女神』ヴィーナだから。戦う相手を間違えたんじゃなくて?
グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・シャライン・アリアンロッド
(私の名前、フルネームで言える人、どれくらいいるのかしら)】
読み終わってから、エルヴァインは苦笑した。
確かにグラエキアだ。名前のエピソードよりも、これでもかとばかりに書かれた長い本名が、彼女が彼女であることを証明していた。
(シャライン)
長ったらしい名前に一言だけ隠された、満月の女神の名前。
滅多に名乗らない第二の名前は。とあるメッセージを隠していた。
「人使いが……荒いな……」
エルヴァインはそのメッセージを読み取り、衰弱した身体をおして、恐る恐る立ち上がる。
「……くぁッ!」
めまいがして、倒れ込んだ。それでも。
壁に立てかけてあった剣を握り、脇腹の傷を押えながらも。
立ち上がる。
「無理するなは……僕の、台詞だ……」
滅多に名乗らない「シャライン」に隠された意味。
それは。
「助けてほしいなら……素直にそう言え……!」
言葉に隠されたSOSを。見破れないほど短い付き合いじゃないから。
倒れそうになりながらも、彼は進んだ。
かつて王国一といわれた剣の腕を持つ、白銀の王子は。
傷を負いながらも。痛みに苦しみながらも。
大切なもののために、その剣を振ることを。
決意して、今再び。
歩きだす。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ええ、長く書いたんです。前回、とんだ駄作を投稿してしまったお詫びに。今度はWordにバックアップ取りながら書きましたので、データ消滅対策は万全です。
いや〜、なんか書いてて楽しくなってきました! 臨時で入れたグラエキアが、思った以上に活躍してくれますし!
この場面はここでは終わりません。次回につながるように書いてます!
久々にまともに書けたかも? 次回の話に、請うご期待!