ダーク・ファンタジー小説
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep21 信仰災厄 ( No.24 )
- 日時: 2017/08/11 09:30
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
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翌朝。
エルヴァインの容体も落ち着き、フェロンも回復し、皆が目覚めた頃。
「……話したいことが、あるのだけれど」
グラエキアが、そう切り出した。
「あの町の住民が、なぜみんな魔物化したのか。知っていて?」
知らない。それにそもそも。何かがあって、一人、あるいはその周辺の人が魔物化するなら、それはよくある悲劇の一つにすぎない。が、町一つ丸ごととなると……規模が違う。
グラエキアは、語る。
「あの町は、強い信仰で成り立っていたの」
信仰——つまり、町全体で、何かをあがめていたのだろうか。
「あの町の人は、太陽の神をあがめていた。教会があるのだけれど、そこにはご神体の、金色の鏡があった」
ご神体。鏡。……言いたいことが、解ってきた気がする。
「だけど、ある日のこと。おそらくあなたたちも知っている女——『偽りの女神』ヴィーナが、この町にやってきた。それで教会に忍び込んで——」
黒の瞳が怒りに揺れる。
「そのご神体を、見せしめのようにして、衆目にさらしながら
破壊したの」
町の誰もが信じている神。信仰の要、心の拠り所。
——それを、衆目にさらして。
破壊した。
「それを見た住民たちは、狂ったわ。狂ってあの女を殺そうとした。でも、あの女は、歯向かう住民を皆殺しにした。そして住民たちは、さらに狂って行った」
「それで……魔物化したのか」
フェロンが半身を起しながら問うた。
「フェロン! 大丈夫なの!」
「リクシアは心配性に過ぎるよ。それより」
「自分のことを少しは考えてよ! エルヴァインが来なきゃ、死んでたじゃないの!」
「生きてたんだから結果オーライさ。で? その先は」
仲の良い二人を微笑みながら眺めていたグラエキアは、表情を引き締めた。
「そう。ご神体を破壊されて、復讐すらもままならなくなった住民たちは、心を破綻させて魔物になった。信仰に染まっていない幼い子供たちも、家族が魔物化したのを見て、それに絶望して魔物になった。物心の付いていない赤ん坊は、魔物化した親が殺した。……それは、悲惨な状況だったわ」
私はその目で見た、と言った。
「あの女を追っていたの。でも、一歩遅かった。私が見たのは、壊された鏡と」
——狂い始めた住民の姿だった——。
「私がもう少し早かったら、あの女を止められたかもしれないのに。……悔やまれるわ、とても」
だから、あの時。『私の責任』と言ったのか。
「まぁ、これがあの事件の全貌よ。今は時間があるから。ちゃんと伝えたわ」
言って、フイとそっぽを向いた。
町一つ、丸ごと。
魔物化した。
その事件の裏には、そんな黒い意思が隠されていたなんて。
ご神体を一つ、破壊する。それで生まれた負の連鎖。
人は、心を闇に食われたら、魔物になる。この世界の法則を、実にうまく利用している。
「……信ッじられないよ……」
思わず、つぶやいた。
「人の信仰を利用して、そんなことをするなんて……。同じ人間とは、思えない」
人間じゃ……ないよ、と声がした。
衰弱した顔のエルヴァインが、静かに告げる。
「あれは……半分魔物なんだ。魔物化しかけて、けれど……」
「最後に自分の意思を取り戻した。だから、半分魔物なの。……エルヴァイン、話して平気なの」
「心配が過ぎる、グライア」
エルヴァインは、苦笑いを返した。
魔物。半分魔物化した女。それが町を、滅ぼした。
何の、ために? 理由も想いも、まるでわからなかった。
「とりあえず、窮地は脱したな」
まとめるように、アーヴェイが言った。
「次にどうするか、考えよう」
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