ダーク・ファンタジー小説
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep22 明るいお別れ ( No.25 )
- 日時: 2017/08/11 14:52
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
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「またまた遠回りだねー。一体いつ着くのさ」
あの町を遠回りして次の町へ行こうという案に、フィオルが口を尖らせた。
「まあ、そう言うな、フィオ。状況が状況だろう?」
「……ハーティは、いつ救われるんだ。しかも、実在しているのかすらあやしい町だし」
「……フィオル、今日は後ろ向きね」
フィオルのネガティブ発言に、リクシアが苦笑を返した。
あれから一日。話し合いの結果、あの町を遠回りして、北を目指すということになった。
正直、後ろ髪をひかれる思いがしないでもないが……。自分たちでは、あの状況を変えられない。
「じゃあ、私たちともお別れね」
唐突に、グラエキアが言った。
「え————!?」
当たり前じゃないの、と、呆れた顔で。
「そもそも状況は呉越同舟。忘れていなくて? 私たちとあなたたちは、目的を異にする者同士だってこと」
リクシア達は、魔物を元に戻したい。
グラエキア達は、責任を取って、リュクシオン=モンスターを倒さなければならない。
一時、命の危険から行動を共にしていた彼らだけど。目的がそもそも違うのだから。嵐が過ぎたら別れるのは、必然のことだった。
「まあ、でも。目的は違うけれど、さ」
グラエキアが、へこむリクシアに、不器用に声をかけた。
「私はあなたを……友達だと、思っているわ」
「…………グラエキア」
「私たちは前の町に帰るわ。そこであの魔物を待つ。でも、あなたたちは違うでしょう」
泣きそうなリクシアに、そうだ、とエルヴァインが声をかけた。
「……礼を言ってなかったな」
「……礼?」
忘れたのか? と彼は首をかしげた。
「……あの日、あの宿で対面しただろう。そこであんたは、言ってくれたんだ」
忘れさせられた、僕の名前を。
「——エルヴァイン・ウィンチェバル、目を覚まして、と」
「!」
そうだ。あの日。フェロンを守ろうとして倒れたあの日。「ゼロ」をエルヴァインだと見破って。そう、声をかけた。
「僕が戻れたのは、あんたがあの日、僕の名を呼んでくれたからだ」
あの呼びかけがなかったら、今でもきっと。操り人形だったかもしれない、と彼は言う。
そんなことないよ、とリクシアはほほ笑んだ。
「それ言うなら、私たち、あなたに命を救われてるじゃない。ね?」
言ってフェロンを見ると、彼は小さくうなずいた。
「だから、今更そんなこと。別にいんだよ」
「……ありがとう」
それでも律儀に頭を下げた。
「まぁ、そんなわけだから」
グラエキアがまとめた。
「私たちはまた、敵になるわね」
でも、忘れないで、と彼女はいたずらっぽく笑った。
「同時に、味方でもあるから。この出会いに感謝しているわ」
行きましょ、エル。
そう、エルヴァインに声をかけて。
一日を共に過ごした仲間は。
いなくなった。
涙はなかった。
(向こうには向こうの目的がある。私だって、負けないんだから)
後ろにいる仲間たちを見て、言った。
「じゃあ、私たちも、行きましょ?」
ずっとずっと遠回りしたけれど。
「花の都、フロイラインへ!」
今度こそ、たどり着くんだから。
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