ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep2 大召喚師の遺した少女 ( No.3 )
日時: 2017/08/05 12:18
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 話のつなげ方がわからなくて大失敗した記事を、ここに新しく書きなおします。Wordに予備に張って置いた記事からのコピペ&訂正。

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〈Ep2 大召喚師の遺した少女〉
 
——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。

「……いったい何で、こんなこと」
 リクシアはぽつりとつぶやいた。直接その目で見たわけではないけれど。人々から話を聞いて、その情報を知った。
「おかしいよ……。何で、何で、こうなるの……? 兄さんは、ただ国のためを思って……! こんなの理不尽だよ……!」
 リクシア・エルフェゴール。彼女は、あのリュクシオンの妹。「危険だから」と、戦争が始まった際に国外に逃がされた。故に破滅を免れた。
 あの日、あの時。ウィンチェバル王国内にいた人々は皆、死に絶えた。リュクシオンの呼びだした天使によって、敵味方の区別なく皆殺しにされた。
 国を守るために、神に願って得た力。しかし彼は、その力で、国を滅ぼしてしまった。そして、絶望のあまり、心を闇に食われて、魔物と化してしまった。
「こんなの、おかしい」
 だから、探す。魔物と化した大切な兄。それをもとに戻す方法を。
「魔物は二度と戻らない? そんな法則……なら、私が変えてみせるわ」
 心が闇に食われたら魔物になるのならば。心を光で満たしたら、人間に戻れる?
「……生き残ったのは私だけじゃないはず。だから、探すわ。探して兄さんの前に連れてきて、言うんだから」
 あなたはすべてを滅ぼしたわけじゃない。見てみて、ほら。私たちは、生きているよ——。
 そのためにはまず、情報をもっと——。
 と。
「わぁぁああああ! 魔物だ、魔物が来た!」
 突如上がった悲鳴に、リクシアははっとなる。
 大丈夫、戦える。光と風の魔導士である彼女は、懐に忍ばせた杖を握りしめた。
 見つけた。人ならぬ人外の異形。街の真ん中で、狂ったように暴れだして。
「本当は、魔物すべてを元に戻せればいいんだけどっ!」
 生憎と時間がないし、そこまでの慈愛は持ち合わせがない。
 逃げ惑う人々の波をかき分け、リクシアは見た。
——腕に意識を失った白い少年を抱き、座り込んだまま、鋭い目で迫りくる魔物を迎え撃たんとする、黒い少年を——。
「光よ来たれ、敵を撃て!」
 とっさに叫び、放たれる呪文。それは魔物の目を灼いた。
 グァァアルルル! 目のくらんだ魔物。魔法の来た方向にその体の向きを変え、闇雲に突進しようとする。
「あなたの相手はこの私よ! 馳せ来たれ、心の底なる、風の狼!」
 続いて唱えられた呪文。どこからともなく、半透明の、風でできた狼が現れ、魔物に勢いよくぶつかり、押し倒した。
 グァァァアアアアアアア! 視力を奪われた魔物は必死に抵抗するが。その身体を裂かれても、風の狼は魔物を攻撃し続けた。
「彼方を駆けよ!」
 叫べば、狼の力が強くなる——。
「とどめよ! ……あなたは元は人間だった、それはわかっているけれど」
 そして魔物は、息絶えた。すると、現れる、とある男の遺体。
 魔物になっても、心が消えても。死んだら元の、人間になる。
 だから、つらい。魔物になった人間を殺すこと。殺したら、元の姿が現れるから。それを見ると、リクシアは、自分が人殺しをしたような、何とも言えない重い罪悪感を感じるのだ。
 リクシアは遺体から目を上げた。先ほどの少年たちに近づいていく。
「大丈夫? どこか、怪我とかない?」
 近寄って見れば、黒い少年が足に怪我をしていることがわかった。それを見て言ったのだが。
「……大事ない、この程度。フィオを守るために、動けなかっただけで」
 と彼は冷静に返した。フィオというのは、彼が腕に抱いた、白い少年のことらしい。
「……とりあえず、助かった。オレだけじゃ、フィオを守りながらだと、正直きつかったかもな。あんたは魔導士か?」
「ええ。はじめまして、私はリクシア・エルフェゴール。光と風の魔法を使うわ。あなたは?」
「アーヴェイ。こっちはフィオル。……エルフェゴール? 聞いた名前だな……」
 リクシアはうなずいた。
「大召喚師、リュクシオン。聞いたことある? 私は彼の妹よ。国外にいたから、災厄から逃れられた」
「……あの元英雄の妹か」
 その口調は、兄を知っているようで。
「兄さんをご存知なの?」
 アーヴェイと名乗った黒い少年は、うなずいた。
「オレはウィンチェバルの者ではないが……。ウィンチェバルをふらりと旅した折、一度だけ、力を得る前の奴に会ったことがある。印象は悪くなかった」
「そっか……」
 それを聞いて、リクシアは少し嬉しくなった。
 リュクシオン・エルフェゴール。その名を知る者は多くても、生身の彼を知る者は少ない。そのほとんどは、当の本人の起こした事故よって、死んでしまったから。
「アーヴェイ、さん」
「アーヴェイでいい。何だ」
 リクシアは、一つ訊いてみた。
「……魔物になった人って、元に戻るって思ってる?」
 途端、その表情が一気に暗くなる。リクシアは、彼の触れてはならないものに触れてしまったと知った。
 地獄を宿した赤い瞳が、静かに言う。
「……戻したい人がいる。戻るわけがなくとも、諦められない人がいる」
「…………!」
 それは、半ば、彼にも魔物となった大切な人がいる、と言ったも同然だった。
 魔物になった、大切な人がいる。そのつらさ、その悲しさ。リクシアにはよくわかる。
 これはデリケートな話題だった。それと気づかずに、リクシアは土足で踏み込んだ。
「ご、ごめんなさい……。あのね、私ね、兄さんをどうしても元に戻したくって」
「そうか。……で?」
 返答は、そっけなかった。リクシアは、とっさに頭を巡らせる。
「あ、あの!」
「何」
「私は兄さんを戻したい。あなたはだれかを戻したい! 目的は一緒じゃない? だからさ、あのね……」
 おかしい。何でこんなことを言っているのか、自分でもわからなかったけれど。
 心が、叫んだんだ。
「——仲間になって下さい!」
 一人は嫌だと。仲間がほしいと。思う心が勇気をくれた。
 アーヴェイはしばし、彼女を見つめていたが、やがて。
「……確かに一理ある。目的が同じなら、集まることも悪くない」
 小さく彼はうなずいた。
 リクシアの顔が、ぱっと輝く。
「——ありがとうございますっ!」
「敬語はやめろ。鬱陶しい」
「ご、ごめん」
「それはともかく」
 アーヴェイは、目を覚まさないフィオルを心配げに見詰めながらも、その手を差し出した。
「これからよろしくな」
 運命は、回り始める。

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