ダーク・ファンタジー小説
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep27 存在しない町 ( No.30 )
- 日時: 2017/08/21 09:33
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
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「——フロイラインだって!?」
フィオルは思わず叫んでいた。それにヴァンツァーが答えようとする。と。
「みんな……無事……?」
「……生きてたな」
「……リア……は……?」
これまで眠っていた三人が、目を覚ました。
そして。
「ただいまーっ!」
「やぁ、みんな」
赤と青の天使も、戻ってきた。
「……天使? これは、なんだ?」
アーヴェイは、失われた右腕の跡を見ながら疑問を口にした。
ため息をつき、フィオルは。これまであったことを語ったのだった。
◆
「花の都フロイラインが、あの町なの……」
先に広がる町を見て。呆然とした顔で、リクシアが問うた。
「そうさ。あそこが花の都。君たちはそこを目指していたのかい?」
アルフェリオの言葉に。リクシアは力なくうなずいた。
「兄さんが魔物になって。で、それを戻そうとして」
「無理だね」
にべもなく返された、非情な言葉。
「あそこは『存在しない町』なんだから。何の記録も残っていないさ」
「……訊いてもいい?」
フェロンが会話に割り込んできた。
「あなたたちは、あの町を『存在しない町』と呼んでいるけれど。どういう意味?」
「そのままの意味ですよー」
のんきそうに、リリエルが言った。
「あの町は、『存在しない町』なんです。地図にもないし、人目にも触れない。そしてそこに住むのはそもそも、人間じゃない——」
「天使の町なんだぜ? ゆえに、人間にとっちゃあ存在しない町、なんだってワケ」
ならば、とアーヴェイが口を挟んだ。
「あそこが存在しない町だってのはわかったが、ならばどうして。魔物が元に戻らないんだ?」
「簡単だよ」
だって僕らは——と、アルフェリオは皆を見た。
「天使だもの。あの時。魔物になったのは、天使だもの。だから僕らは、天使以外の戻し方なんて、知らないんだよ」
……リクシアは、驚愕した。
人間だけではなく、天使だって。魔物になるということに。
そして。
ずっと追い求めていた花の都は、天使たちの町だったことに。
——これじゃあ。
これじゃあ。
兄さんを戻す方法は、見つからないの……?
また。
振り出しに、
戻るのか。
何もわからなかった、
手探りの暗闇に……。
襲ってきた絶望に、リクシアは両手で顔を覆った。
私たちの長い旅は。無駄だったのだろうか。
私たちの負った傷は、無駄だったのだろうか。
振り出しに戻って。何もわからなくて。
今こうしている間に。グラエキア達に、兄さんが殺されそうになっているのかもしれないのに。
——私は、私たちは。
「……これから、どうすれば、いいの……?」
「良かったら、来てみるかい?」
アルフェリオが、優しく笑いかけた。
「私たちじゃあ君の助けにはならないかもしれないけれどさ。町に来たら、案外、あるかもしれないよ? 魔物を元に戻すためのヒントが」
天使の町。存在しない町。
しかし、魔物が元に戻った話のある、唯一の町。
「……行って、いいの……?」
「もちろんさ」
「待て、アルフ」
ヴァンツァーが、片手で彼を制した。
「あの町は余所者に厳しい。彼女らを収容するのに、言い訳がいるが、考えたのか?」
「ああ、そうだねぇ。ヴァンに投げてもいい?」
「……俺は便利屋じゃないんだぞまったく……。フン。ならば、こんなのでどうだ? 『偽りの女神』ヴィーナが現れたと聞くが、それを利用しよう。彼女にアルフが襲われていたのを偶然、満身創痍のあなたたちが見つけ、アルフを助ける。だから俺たちは、その恩返しとしてあなたたちを助ける……。こんなシナリオなら、あるいは」
「いけるかもねぇ。これからも頼るねぇ」
「……たまには自分で考えろ」
とにかく。話がまとまったようである。
「……じゃあ、行くの?」
目の前の町。存在しない町。花の都フロイラインへ。
期待はすんなよ、とラーヴェルが言った。
「天使ったって、そこまで御大層なものじゃねぇーんだ。生まれが特別ってだけで。実際その中身は、あなたら人間とそう変わらねぇーんだぜ?」
リクシアはうなずいた。
前を見据える。
極北の地。花の都フロイライン。
旅の最終目的地が、存在しない町が。
あらゆるものを拒否するかのように、そびえていた。
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