ダーク・ファンタジー小説
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep28 善意と掟と思惑と ( No.31 )
- 日時: 2017/08/20 12:02
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
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「あ〜らら、リルにアル! 今までどこ行っていたの〜?」
町に入るなり、間延びした口調で、ピンクの翼の女性が出迎えた。
しかし、その顔は。リクシア達の姿を見て、固まった。
「……ねぇ? その子たち、人間よね〜? なんで人間がこの町にいるのかしら〜?」
ヴァンツァーが進み出て、先ほど考えていた言い訳を披露する。
女性は首をかしげた。
「なら、アルはこの子たちに助けられたの〜?」
アルフェリオは、苦笑いしながら答えた。
「ハハッ、不覚をとっちゃったんだよ……。私はあまり、動けないからさ」
「でも、余所者を町に入れるのは〜、ねぇ?」
「恩人なんだよ。それに、この町を目指して、ずっと旅していたんだってさ」
女性は、いぶかしげにリクシア達を見た。
リクシアはあわてて進み出る。
「あのっ! リクシア・エルフェゴールといいます! 魔物になった兄さんを元に戻すために、ずっと旅しているんです!」
「魔物……。でも、天使の町は関係ないわよ〜。ここは『存在しない町』ですもの〜」
「聞きました。でも、少しでも手掛かりが見つかればいいなと思って……」
「そうなの〜?」
でも、それは置いといて、と女性は首を振った。
「あなたの言い分はよくわかったわ〜。文献とか、見せてあげるわね〜。助けになれれば嬉しいもの。でもね〜」
柔らかな光を宿した桃色の瞳が。フィオルとアーヴェイを、射抜いた。
二人の身体が、警戒で固まる。
リクシアはまだ何も知らないけれど。フィオルの正体は——。
「大罪人の息子と、醜い悪魔は。お断りなのよ〜」
「————ッ!」
「フィオ!」
その言葉を聞いた瞬間、フィオルは走り出した。治りきらぬ傷の痛みを無視して。ただこの場から逃げようと、一目散に。
そして、後先考えなかった彼の逃げる先は。
「……あらら〜。殺されても文句は言えないわ〜」
——町の、奥だった。
この、余所者を嫌う町の。
フィオルの父を断罪し、処刑した、町の。
「フィオ!」
「フィオル!」
走って追いかけようとしたリクシアとアーヴェイの腕を、ラーヴェルがつかんだ。
「落ちつけよ。ここで変な行動を起こしたら、てめーらも捕まるぜ?」
「でもッ、フィオはッ!」
「悪魔はもっと駄目なの。つーか、その見た目、もう少し何とかならねぇーの? こんなんじゃぁ、この町にゃぁ入れないぜ?」
「……話を整理していい?」
リルフェリアが、顔をしかめてこめかみに手をやりながらも言った。
「まず、フィオルの正体がこんなに早くばれるってことがあたしの誤算。で、アーヴェイの見た目とか正体に気づかなかったのもあたしのせいよね。それで、正体を見破られたフィオルは動転して、町の奥に行っちゃった。……一応、聞くけど。シアラさんは、見逃す気なんてないんでしょ?」
桃色の女性——シアラは、にっこりと、天使の笑みを浮かべた。
「犯罪者の息子ですもの〜。今度こそ、退☆治しなきゃあ、ね☆?」
にっこりと笑いながら、そんなことを言うのだ。
リクシアもアーヴェイも、気が気でなかった。
「で? 他の天使には黙ってくれる」「わけないじゃない〜」「……でしょうね」
リルフェリアはため息をついて、他の天使たちに言った。
「ねぇ、あんたたち!」
赤い瞳が、強い意志を宿して。
炎の如く、光り輝く。
「——掟破りになる気が、ある?」
彼女は無言で語る。この人たちを助けるには、掟破りになるしかないと。掟破りになったら、二度とこの町に戻れなくなる可能性がある。あなたたちはそれでもいいのか、と。
「言っとくけど、あたしは破るから。せっかく助けたんだ、最後まで面倒見なきゃ、後味が悪いったらない。他のみんなが嫌だと言ったって……」
「言うわけねぇーよ」
ラーヴェルが笑った。
「おれだって、このままじゃ後味が悪ぃーよ。破るんなら一緒に破ろうぜぇー!」
私もー、とリリエルが手を挙げる。
「皆さんのこと、好きですし!」
「……物好きな奴らだ」
呟くヴァンツァーも、また、リルフェリアの側に着く。
「私だって破ろうか。第一発見者は私なのだしね」
アルフェリオが、笑って言った。
その様子を見て。不覚にも、リクシアの両目から、涙が溢れてくる。
「おーいおいおい、どうしたのよ?」
「……嬉しいの……」
見ず知らずの私たち。極北の地に、迷い込んだだけの他人。
なのに。掟を破ってまで、助けようとしてくれて。
「ありがとう……!」
「……あなたたちは、本当にいいの?」
フェロンが首をかしげた。
「見ず知らずの他人のために……これまでの生活を棒に振るような真似をして……」
その言葉を聞いて、リルフェリアはにっこりと笑った。
何の悪意も込められていない、純粋な、善意だけの。
天使の笑み。
「だってあたしたちは」
「周りとは違ぇーの」
「誇り高いのさ」
「異常種なんですー」
「物好きの集まりだからな」
それぞれそう、つぶやいて微笑んで。
微笑んだままのシアラに、それぞれの武器を向けた。
「「「「「だから、今、あなたに。宣戦布告する」」」」」
「あらら〜、なら、わたくしも〜。法の名において、あなたたちを断罪するわ〜」
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善意と、掟と。
様々な思惑の混じり合った、二つの種族の争いが、
幕を開けた。
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