ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ心の魔物Ep32 黄金(きん)の光の空の下 ( No.35 )
日時: 2017/08/23 18:32
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 流石に今回は短いです。
 ちょっとした隙間時間にでもどうぞ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「……といった事情があったらしい」
 フェロンは、後から目覚めたほかの仲間たちに、自分がリクシアの光の球で見たことの全てを、淡々と伝えた。
「信じられない……。僕たちが眠っている間に、こんなことがあったなんて……」

 アルフェリオの死。リルフェリアの魔物化。リクシアの死闘。

 言葉を連ねるだけなら簡単だけれど。現実は、こんなにも重い。
 フェロンは、眠り続けるリクシアの頭を、優しく撫でた。
「つらかっただろうな……」
 その手に、固く握り込まれているものがある。



 ——青い羽根。



 アルフェリオの、青い、羽根。
 

 何一つ残さないで消えた彼の、唯一の遺品。

 
 リクシアは彼に駆け寄った時。知らず、その羽根を握りしめていたのだ。




「……お前の、生きた証だ、アル」




 ヴァンツァーが小さく呟いて、死を悼むような仕草をした。


 空気が悲しみに包まれる。
 

 その様を見て、うなだれる影が一つ。
 アルフェリオの癒しの風によって生命の危機を脱した、フィオルだった。
「……ッ、ごめん。僕の、せいで……」
 彼こそがすべての元凶。彼が勝手に走りだしたりしなければ。こんな悲劇は。こんな痛みは。そもそも存在しなかったのに——。
 透明な青い瞳から、涙があふれる。
 友達になれると思っていた。自分を恐れず。自分を嫌わず。
 無邪気に接してくれた仲間たち。
 それをとても幸せと思い、心が穏やかになったあの日。
 友達になれると思っていた。友達になれると思っていたんだ。あの人たちとなら、友達に。

 ——なのに。

 自分ですべてを壊した。自分ですべてを台無しにした。
 彼の小さなわがままが。すべてを崩壊に導いた——。
「ごめん、みんな。本当に、ごめん。僕が、いたから。僕が、あんなことしたから——」「甘えるなッ!」


「————ッ、兄さ……ん!」


 憤怒の形相をしたアーヴェイが。









 ——その頬を、思い切り、はたいていた。










 その衝撃に、吹っ飛ばされたフィオル。
 誰もが呆然として、その様を見ていた。

 彼は、言う。


「甘えるんじゃない——何もかもが自分のせいだと言って、それで逃げたつもりになるんじゃない! そんなことは誰でもわかっている! オレが聞きたいのはそんなことじゃない!」


 叫び、一歩、吹っ飛ばされたフィオルに近づいた。
 フィオルはその身体を、思わず縮こまらせた。

 しかし、彼は。もうフィオルを殴らなかった。
 代わりに。



「——兄さ……ん……?」








「……生きてて、良かった……!」








 その身体を、強く抱きしめた。


 彼は、泣いていた。その赤い瞳から、滂沱と涙を流していた。





「————生きてて、良かった…………!」





 人前では、決して涙を見せなかった彼が。
 今、喜びと安堵にうち震え、泣いている。


「恥ずかしいでしょ」


 はにかむように笑いながら、そっとフィオルはアーヴェイを押し返した。
「大丈夫、死なないから。翼を失ったって、僕は僕なんだから」
 治りきらぬ傷の痛みに顔をしかめつつも。彼は穏やかに笑っていた。
「まあ、何はともかく」
 彼は、深く頭を下げた。



「ごめんなさい」



「気にしてねーよ」
 ラーヴェルが、疲れたように笑った。
「あんただけのせいじゃあないさ。この町の天使たちにだって責任はある。……どうせ……十年後も、二十年後も、なんて。夢物語だったんだな……」
 つと、よぎった悲しみは。しかしすぐに消えて笑顔になる。
「でもな、おれたち」
 壊れそうな笑顔で、言うのだ。









「あんたたちに出会えたってだけで……幸せだぜ?」









 この広い世界の中で。わずかな確率を拾って繰り広げられる出会いの連鎖。
 その中で、巡り合えたことが。幸せだと彼は言うのだ。


「俺からも一言失礼する」


 ヴァンツァーが、口を挟んだ。


「俺たちは、知らなかったんだ。外に、違った世界があると。何もsらず、ただ箱庭のようなこの町しか、知らずに育ってきた。……あんたたちが、新しい風を呼んでくれたんだ。……感謝する」


「ヴァンさん、珍しく素直ですー」


 泣き笑いしながらも、リリエルは言った。


「私だって、素晴らしい出会いをありがとうですよー。確かにリルもアルも死んじゃいましたけどー。でもですねー、あの二人は。どうせいつかは死んでたんです。あなたばっかりが謝ることじゃないんですよー」


 悲しみを、越えて。痛みを、苦しみを、嘆きを、越えて。
 強くなった六つの瞳が、穏やかにフィオルを見た。
 フィオルはそれを見て、柔らかく笑うのだった。




「ありがとう、みんな」





 リクシアはまだ目覚めないけれど。
 確実に、皆、前へと進んでいて。
 
 悲しみの中に強さが宿る。
 悲しみを超えて強くなる。

 血まみれの大地を照らした光は。穏やかな黄金(きん)に染まっていた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 どーも、藍蓮です。
 後日譚っぽくなりました。久々に穏やかな展開が来ましたねー。
 書いていて、一段落ついたような、ホッとした気持ちを味わいました。
 今回は2100文字と短い(最近は2000字で短い謎の現象(笑))ですが、さすがにあの三連続みたいな長編ばっかりは書けませんしねー。
 
 悲しみを超え、少しずつ日常を取り戻しつつある一行。
 リクシアの目覚める日も、近そうです。