ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 1 心の魔物 Ep33 忘れえぬ想い ( No.36 )
日時: 2017/08/24 10:24
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=606.png

 五章終了です。
 リュクシオンの絵を描きましたので、URL貼っておきますねー。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 ——悪夢を、見た。

 目覚めれば、どこにも誰もいなくて。
「兄さん……フェロン?」
 不安になって、歩きまわったら。
 見つけたのは、フェロンの遺体。
 それを見て、魔物になっていく兄さん。
「……兄さん」
 覚悟を決めて、杖を構えた。悲しみは彼方に追いやった。
「来い……」
 構えた杖に、思いを宿して。
 今まさに、戦いが始まりそうになった時。

「……リア?」

 ——本物のフェロンの声が、私を現実に引き戻した。

  ◆

 しぱしぱと瞬きをして、リクシアは目覚めた。
 そこには、フェロンの顔があった。
「目覚めたんだな、良かった」
 彼は穏やかに微笑んだ。
「今、リリエルがご飯作ってる。だから、まだ寝てていんだぞ」
 悲しみを湛えた笑みを見せながらも、彼は言うのだ。

「お前は、よくやったよ」

 心底からの、称賛の声に。リクシアはふわりとほほ笑んだ。
「リクシア……頑張った」
 呟いて、再び瞼を閉じる。
 フェロンがその手を握ってくれた。
「ご飯ができるまでの間だが、休むと良い」
 何となくその手を見てみたら、そこには青い羽根が握られていた。

 ——アルフェリオの、唯一の遺品。

 リクシアはそれを、強く強く、握りしめた。

 ——アルフェリオ。





 みんなみんな、平和になったんだよ————?





  ◆
  
 ご飯を食べながらも、集まってきた仲間たちとともに、今後の身の振り方を考えることにした。
「で、結局」
 アーヴェイがそう、切り出した。
「花の都では、手掛かりはゼロか?」
 存在しない町は本当に、存在しなくなってしまった。
 アルフェリオによって破壊された町。生きている住民も天使も、どうやらここにいる人達しかいないらしいし。
 その過程で、建物だって壊れたことだし。
「……わざわざ極北の地まで来たのに、済まないな」
 ヴァンツァーが謝罪の意を示すと、アーヴェイは首を振った。
「そもそも天使限定ってわかった時点で、人間に使えるかは謎だったしな」
 『文献を見せてあげる』と笑ったシアラも、今はもういない。
「じゃあ、帰りましょうよ、南へ。エルヴァインとかグラエキアとか、懐かしい人々に会いたいわ」
 リクシアはそう、提案した。
 エルヴァイン、グラエキア。懐かしい響きだ。
 前に別れてからもう、三月も経つ。
「帰りましょう、南へ。私はもう……疲れたわ」
 悲しげに微笑んだ。
 しかし。


「ごめん、僕は、いけないんだ」


 済まなさそうにフィオルが言った。
「前に負った怪我がひどくて……当分、旅ができそうにないんだ」
 襲い来た斧の天使。奪われた左の翼。
 そっか……。身体の一部を、失ったものね。
 アーヴェイだって、今や右腕は悪魔の異形だけれど。
 で、フィオルが行かないとなると……

「悪いがオレも、今回はついて行ってやれん」

 とまぁ、フィオルの義兄たるアーヴェイも、行かなくなるわけで。
 リクシアは、首をかしげて極北の天使たちを見た。
 あなたたちはどうするのか、と。無言で問いかける。
 リリエルは首を振った。

「私は行きませんよー」

 あ、ども誤解しないで下さいね、とあわてたように付け加えた。
「別にあなたたちが嫌いだからって、そんな理由じゃないんですー。でもですねぇ、私」
 回復魔法が得意なんですーと、笑った。
「ですから私は、フィオルさんがそれなりに回復するまで、面倒を見るのですー。あと、ついでに町だって復興しちゃいます。いえ……もう、町を構成する人はいませんけどね。最低限、血は何とかしなくちゃ衛生的によくないですー」
 とのことだった。
 ラーヴェルは。

「悪り、おれもいけねぇーし」

 申し訳なさそうに頭を掻いた。
「リリエル一人じゃかわいそうだし、心配じゃん? だから、おれはここに残ることにする」
「ラヴェルさん優しいですー。私、感動しましたよー?」
「そんなんだから心配なの。……っつーことで、な? おれは一緒に行けないわけよ」
 ヴァンツァーは。

「やるべきことが残っている」

 極北の空を仰ぎながらも、そんなことを言った。
「……個人的なことではあるがな……。それに、リリエル、ラーヴェルと来て、俺だけが抜け駆けするわけにもいかんだろう」
 といった事情があるらしい。


 結論。



「僕はもちろん、ついていくけど?」



 フェロンだけが、残った。
 二人だけの、旅路となった。

「治ったら、追いかける、から」
 フィオルが言った。
「これを、受け取って」
 背から翼を生やし、白い羽根を一本抜き取る。
 それは、いつしかの「悔恨の白い羽根」よりは、少しばかり優しい色をしていた。
「何かあったら、空に放ってほしい。そこのは天使の力が宿っている。どんなに遠くにいても、すぐに駆けつけるから」
 一回使ったら消えちゃうから、ご利用は計画的にとほほ笑んだ。
「僕ができる支援はこれくらいしかないけど……」
「いいえ。ありがとう、フィオル!」
 リクシアは、花が開くように笑った。
「まあ、そんなわけだから」
 フェロンが場を取り仕切る。
「今まで世話になったよ。ありがとう」
 最後に小さく付け加えて。


「出会えてよかった」


  ◆

 かくして、再び旅が始まった。行きより人数は二人減って。でも、だれよりもリクシアと仲の良かったフェロンが、すぐ隣にいて。
 それはとても心地良くて、大きな安心感があった。
 小さい頃のように手をつなごうとすると、「子供だなぁ」と苦笑しながらも、しっかりと握り返してくれる、温かい手。

 歩き、歩き、歩き。やがて、後ろを振り返った。

 悲しげにたたずむは、存在しなくなった町。喜びも、悲しみも。束の間の間、新しい仲間たちとともに共有した町。
 悲しみも、多いけれど。振り返れば、懐かしさすら感じられて。
「また、行こうね」
 誰にともなくつぶやいた。
「次行くときは、どのように変わっているのかな」
 まだ見ぬ未来を想像した。

「じゃ、行こか」

 しばらくじっとたたずんだ後。彼女はそう、相方に声をかけた。


 ——目指すは、南。


 すべての物語が始まった地へ。始まりの町、アロームへ、帰ろう。

 はじめてアルフェリオに出会った森を、歩きながらも。小さく決意を固めた。











 この町で見たことあったこと、感じたこと。
 たくさんの、出会いと別れ。

 ——胸に秘めて、忘れないから。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 どーも、藍蓮です。
 穏やかモードは継続中です。
 文字数は2800です。

 この話を終えて、第五章は終幕となります。
 様々な思いや悲しみを抱え。またゼロから始まる戻し旅。
 久しぶりに帰る南の地。懐かしい人々は、元気なのでしょうか。

 五章は終盤が激しかった分、穏やかに終わることができました。
 次の章も、頑張りますので。
 ひとまずここで、一区切り、と。
 長かった……! 長かったですねぇ。この章は長すぎるんですよ!

 まぁ、そんなところで。

 次の話に、請うご期待♪