ダーク・ファンタジー小説
- カラミティ・ハーツ 1 心の魔物 Ep34 予想外の大捕り物 ( No.37 )
- 日時: 2017/08/24 22:17
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=610.png
新章突入です!
そうそう。五章終了を記念して極北の天使たちの絵を描きましたので、よかったらURLから飛んでみて下さいな〜。
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「ぐるぐるぐるっと。はい、おしまい」
「そんな簡単に済むんだ……」
最初からこうしとけばよかったわ、とグラエキアが苦笑いした。
エルヴァインは、首をかしげて彼女を見た。
「……殺さないのか?」
「いいえ?」
グラエキアは、どこか悟ったような眼をした。
「人は心を食われたら魔物になる。そうなった人間を殺すのが私たちの使命。でもね——」
その瞳が見る方向は、はるか北。
「あの人たちが、教えてくれたのよ」
花の都、フロイラインを目指すあの人たちが。
正義感ばっかり強いリクシア率いる、あの人たちが。
「殺すだけじゃないって。殺すばかりじゃいけないって」
だから今、こうして。
「帰ってきたら、きっと驚くわよ?」
グラエキアが、己の漆黒の鎖で捕えた「それ」に、目を向けた。
エルヴァインは、呆れたように溜め息をついた。
「……君も、とんだ大捕り物をやるよね」
鎖につながれたそれは——
◆
——帰りは、簡単だった。
行きみたいに、手探りの道じゃない。それでも二月はかかった。
春に始まった旅。しかしいつの間にか、もう9月だ。秋に入った。
「もう秋なのね。早いね」
思わずつぶやいたら。
「そしてもうすぐ冬だ。リュークが帰省して大騒ぎしたのは、去年のことだったか」
フェロンは遠い日を見る目になった。
秋だ、もう秋だ。季節は春から夏を経て秋へ。少しずつ移ろっていった。
「もうすぐ、着くわね」
見慣れた道を見て、リクシアは微笑んだ。
エルヴァインやグラエキアは。一体何をしているかしら。
◆
「たっだいまー!」
始まりの町、アロームに着いて。リクシアは懐かしい空気を胸一杯に吸い込んだ。
極北の澄み渡った空気も好きだけれど。やっぱりこの町が一番だ。
もっとも、彼女の故郷と言える町は、リュクシオン=モンスターに滅ぼされてしまったけれど。だから今は、この町が故郷だ。
「再会したとき……僕はボロボロだった。覚えているか?」
フェロンが問えば。リクシアはうんとうなずいた。
「私、すっごく心配して、薬を買いに走ったのよね」
◆
話しながらも宿に着く。
ルードさんの経営する、「歌うウグイス亭」だ。
ドアを開けたら、変わらない店主が。
「らっしゃーせー。……って、ぇ、リクシュアさんにフェローンさん!」
「リクシュアじゃないから。何その泡だってそうな名前」
「……そんな雑魚っぽい名前になった覚えはないんだけど」
苦笑いしながらも店へと入る。どうやらこの店主は、人の名前をわざと間違えて呼ぶことがあるらしい。
「そうですそうですお客さん!」
ルードは相変わらず騒がしい。
「聞きましたか? 聞いてないっすよね?」
「だから、なぁに?」
彼は、目をまん丸にして、叫ぶように言ったのだ。
「あの『非業の魔物』、リュクシオン=モンスターが、捕まったんすよ!」
◆
彼の案内に従って、ある家に行く。
そこは石造りで、そこそこ居心地がよさそうだった。
そこにいたのは。
「遅かったわね」
相変わらずのグラエキアと。
「二人足りないな」
いつもの調子を取り戻した、エルヴァインと。
そして。
——漆黒の鎖の檻に囚われた、リュクシオン=モンスターが、いた。
「え、えぇぇぇぇぇえええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!?」
思わず悲鳴をあげてしまったのも、仕方のないことだろう。
「ちょ、ちょっとちょっとちょっと待ってお兄ちゃん!?」
「リア、落ち着け」
「いやいやいや、こんな状況で落ち着いているフェロンの方がおかしいよ!?」
「さーわーぐーな」
「そんなの無理でしょ! ちょちょちょちょ、グラエキアエルヴァイン! い、いいいいいいい一体、一体何をぅ!?」
「落ち着かなきゃ話せないでしょーが」
「いやややいやいやその前に説明を!」
グラエキアは溜め息をついた。
「あなたたちみたいに、なろうとしただけよ」
鎖の檻に囚われた、魔物をじっと見つめる。
「あなたたちは甘い。甘いのよ。吐き気がするくらいに激甘だわ」
その言葉にショックを受けたリクシアは置いておいて。
「でもね、うらやましかったのよ。なんのてらいもなく、夢物語を語れるあなたたちが。どこまでも未来を信じられる、曇りなき瞳が。だから」
偽善者を気取ってみたのよ、と自嘲するように笑った。
「私たちはリュクシオン=モンスターにその日、遭遇した。でもね、エルヴァインが急に言ったのよ」
——殺すことではなく、捕らえることはできるか、と——。
「……僕は「ゼロ」だった時、あなたに殺されなかったから、今ここにいるんだ」
エルヴァインが、静かに割り込んだ。
それにうなずきながらも、グラエキアは続ける。
「そして気づいたの。もう一つの可能性にね。だからやってみたわ。私の漆黒の鎖を伸ばして。彼を捕えようと試みた。始めは弾かれたけど、何回かやるうちにコツがつかめた。その結果、」
こうなった、と、檻の中のリュクシオン=モンスターを指差した。
……成程、納得した。
正直、ここを離れていた時期が長いので、とっくにリュクシオン=モンスターは討伐されているだろうと、想ってさえいた。そして時々落ち込む彼女を、いつもフェロンが励ましてくれた。
そして今、知った事実。
——生きていた。
兄は、殺されずに、生きていた!
そのことをグラエキアらに感謝しつつも。
気になって、尋ねてみる。
「ね、近寄ってもいい?」
「ほどほどにね。具体的には、その机よりも前に行くと危険よ」
グラエキアは、手で、自分たちとリュクシオン=モンスターの間にある机を、指し示した。
よく見ると、その手には。細い小さな漆黒の鎖が、幾重にも巻きついているのが見えた。
その視線に気づいて、グラエキアは手を軽く持ち上げる。
「ああ、これ? 制御用。念のためですけどね。だから私は、あまり遠くまで行けないの」
魔物を殺さぬ代償に。彼女は好きに歩く自由を失った。
その手の鎖と、檻の中の魔物。それはしっかりとつながっているから。
「……グラエキア」
「謝る必要なんてないわ。私はそもそも外出が嫌い。必要な物は、エルに買ってもらっていますもの。ちっとも不自由じゃなくってよ」
それより、あなた、と彼女はリクシアを睨んだ。
「あんなに長く留守にしていたんだ。情報の一つや二つ、つかめたでしょう? 『花の都』に行ったのならば」
その言葉に、リクシアは一瞬、声を詰まらせた。
その様を見て。
「……何か、あったのね?」
グラエキアが、慎重に訊いた。
話して御覧なさい、と彼女は言う。
「言えば楽になることだってある。それに私だって知りたいのよ、あなたたちの旅の記録を。大丈夫よ、時間はたっぷりありますわ」
リクシアはうなずいた。
胸元に提げた、血に汚れた青い羽根を。ギュッと握りしめる。
——アルフェリオの、唯一の遺品を。
リクシアは、大きく息を吸った。
「旅の途中、『偽りの女神』ヴィーナに出会ったの。それでね——」
『偽りの女神』ヴィーナ。
すべては、彼女の襲撃を受けたところから始まった——。
「長い、長い物語よ。しっかり聞いてね」
語られたのは、極北の地の物語。
——赤の天使と、青の天使の。強い絆から生まれた悲劇の物語——。
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どーも、藍蓮です。
新章開始しました。今回は、ちょっとドタバタな楽しい雰囲気からお送りします。
章のタイトルも内容も決めていますが、今のところは動乱の「ど」の字もありませんねー。まぁ、今回は再会編ですし。次回もどうなるかはわかりませんが。
グラエキアとエルヴァインを同時に出すと、口数の多いグラエキアばっかりが目立ってしまいます。申し訳程度にエルヴァインの台詞も入れてはいますが。頑張れエルヴァイン、君も主役だ(笑)
こんな穏やか展開なので、次回予告はあえて避けますが。
これからもよろしくお願いいたします。
※ 文字数は3300文字ですよう。
最近記録したくなりましたー。