ダーク・ファンタジー小説
- カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep3 天使と悪魔 ( No.4 )
- 日時: 2017/08/05 12:20
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
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「とりあえず、このままもなんだし、どこかに行って話そう?」
リクシアはそうアーヴェイに提案した。アーヴェイはうなずき、まだ目を覚まさないフィオルを背負い、立ち上がる。が。
「……ッ!」
怪我をした足に痛みが走り、激しくよろめいた。
「だ、大丈夫?」
駆け寄るリクシアを、何でもないと手で追い払う。
「宿くらいはある。そこで手当てするさ」
アーヴェイは放浪者だが、この町には何度か訪れたことがあり、それなりに土地勘がある。
アーヴェイの案内に従って、リクシアは宿を目指した。
「やぁ、アーヴィーさん。……って、フィオルさん!? というか、アーヴィーさん、その怪我どうしたんすか!」
「アーヴィーじゃない。アーヴェイだ。……ところで部屋はあいているか?」
「へい。そこのお譲ちゃんはお仲間で?」
「そうだ」
「なら、8番と9番がが空いてまっせー。別室にするっしょ?」
「当然だろう」
顔見知りらしい宿の主と簡単な会話をすると、アーヴェイは階段を慎重に上って行った。リクシアがそのあとをついていく。
「さて」
8番の部屋には机と椅子があった。アーヴェイはそこにリクシアを招く。
「とりあえず、当分はここにいる。フィオが良くならなきゃ話にならん」
言いながら、足の傷の手当てをする。リクシアは訊いてみた。
「あのー。フィオルはどこか悪いの?」
「うまれつき、な。でも今回は違うぜ。あの魔物にぶんなぐられた」
「……! ……大丈夫なのかな」
「オレが間に割って入ったから、そこまでひどくはないだろうが……。……前にも、こういうことがあった」
「そうなの……」
と、ベッドに寝かせていたフィオルが、身じろぎをした。
「! フィオル、無事かッ!」
「……大丈夫だよ、兄さん……。いつも冷静なのに、僕のことになると心配しすぎ……」
その言葉に、リクシアは固まった。
フィオルとアーヴェイを見比べる。
真白な髪に青い瞳のフィオルに、漆黒の髪に赤い瞳のアーヴェイ。
天使みたいなフィオルに、悪魔みたいなアーヴェイ。
全然似ていない。
「……あの、あなたたちは、本当に兄弟……?」
リクシアが訊ねてしまうのも、むべなるかなである。
フィオルはベッドから身を起こし、いぶかしそうにする。
「アーヴェイ。この人、だれ?」
「彼女はリクシア。命の恩人だ」
「命の恩人? 珍しいね、アーヴェイが後れを取るなんて」
「お前を守りながらだったんだ、仕方ないだろう。その時、お前は気絶していた。……リクシア、オレたちは義兄弟だ。普通にアーヴェイと呼べばいいものを、こいつは時々兄さんと呼ぶ。義兄弟の契りを交わしたって、呼び名まで変える必要はなかろうに」
なるほど、そういうことか。リクシアは理解した。
「こいつは大召喚師リュクシオンの妹。オレたちと同じ、大切な人が魔物化した人間だ。その人——兄のリュクシオンを元に戻すために旅をしているそうだ。オレたちと同じ——運命の被害者」
「……運命の被害者、ね」
フィオルはふっと黙り込んでしまった。
リクシアは考えていた。
——人は、心を闇に食われたら、魔物になる——。
理不尽な、あまりにも理不尽な、理不尽すぎる絶対法則。
その法則のおかげで、全てを失った兄は魔物化し、世界を揺るがす災厄の一つになり果てた。
なぜ、なぜ、何のために。こんな法則が存在するのか。こんな、害悪にしかならない、悲しみを振りまくだけの法則が。
(旅をすれば、いつかわかるかな)
魔物化した大切な人を、泣く泣く手に掛けたたくさんの人々。
戦があれば、魔物は増える。増えた魔物によって絶望を味わった人が、さらに魔物になり、その大切な人もまた絶望し、魔物になる。
それは、終わりなき負の連鎖。
兄を戻したいのはもちろんだし、それが非常に難しいことも分かっているけれど。
「それじゃあ、根本的な解決にならない……」
神様なんていない。だけど、神様なら、なんとかできるだろうか?
(私は英雄じゃないけれど。変えたいの、この世の摂理を)
それぞれ物思いにふける三人の間を、心地よい沈黙が流れて行った。
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