ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep37 絡み合う思惑 ( No.40 )
日時: 2017/08/27 14:31
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=612.png

 グラエキアの絵を描きました。それなりの自信作です。
 URL貼りましたので、良かったら見ていってくださいな。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 エルヴァインは、町を歩いていた。
 
 グラエキアに頼まれた、買い物をするためだ。
「なになに……ああ、食材調達か」
 渡されたメモを見直して。
「そう言えば、あの家に住み始めてからもう三月か……」
 そんなことを呟いた。
 
 あの石造りの家は、最初は空き家だった。そのころは、自分たちも、意味もない放浪はやめて、「拠点」を作るべきだという結論に達した。
 しかし、空き家になって随分経つその家は、人が住めるようになるまでにはかなりの時間が要りそうだった。
 ちょうどその頃、魔物がこの町を襲ってきた。エルヴァインは、いともたやすくそれらを撃退し、町長から報酬をいただくことになった。そこで彼は提案した。
『あの家を住めるような状態にしてほしい』
 そしてその提案は受け入れられ、現在にいたる。
 その次の月にグラエキアによってリュクシオン=モンスターは確保され、町に平和が訪れた。

「っと、そんなことより……」
 彼は手元のメモを見る。グラエキアの繊細で流麗な文字で、必要事項のみが書いてある。
「小麦と卵とバター……。このあたりにあったはずだな」
 呟いて、路地を曲がった、時。



 長年培ってきた戦闘の勘が、



「——ッ!」


 危険を察知して、


 彼を後ろに跳びすさらせた。
 彼が一瞬前までいた場所に、ぎらりと凶悪に光る刃が突き出された。
 一瞬、彼のこめかみを汗が伝った。


「……何者だ」


 抑えた声で、闇に問うた。
 すると、現れたのは。


「今度こそ、逃しませんよ? 借りは返させていただきます」


 先日、彼がぶちのめした、ローヴァンディアの男だった。

 生憎と、今日は剣を持ってきていない。
 失態だ。

 彼は思わず苦笑いした。
 これまで剣で戦ってきた自分に、無手で戦えと?
 しかし、それでも彼は不敵に笑った。

  
 忌み子の力を呼び覚まし、己の身体に闇を纏う。
 死ぬよりはマシだ。生き延びてやる。苦しみがその後に待っていても。
 

 吹きあがる闇が、力を与える。
 その手に握られたのは、闇で作られた剣。


「……忌み子……」


 呟いた男に。
 彼は、渾身の一閃を叩き込んだ。



  ◆



 ——ローヴァンディア、王宮——。



「時が来た」


 ローヴァンディア皇帝ヴォルラスは、そう重々しく呟いた。
「今こそ、我が国土を広げるときが! アロン、『部隊』の用意はできたのだろうな?」
「はっ、陛下」
 皇帝の言葉に、アロンと呼ばれた暗赤色の髪の男はひざまずく。
「宣戦布告ならいつでも。我が部隊は、準備万端でございます」
「ならやれ」
 
 皇帝は、命じる。
 世界に、宣言する。










「ローヴァンディアは、只今より! 軍の矛先をバルチェスターに定める! これを以て、宣戦布告と成す!」










 避けられない、戦争が。
 悲劇しか生まない、戦争が。

 開戦の火蓋を、切った。


  ◆


「エルヴァイン、遅いわね」
「確かに遅いね。何か……あったのかな?」
「僕が捜しに行っても構わないが。……って、珍しい。剣を忘れているな」
「行かないでもらいたいものだわ。エルヴァインは心配ですけど……。あなたがいなくなったら、誰が近接戦闘をやるの?」
「私、棒術の心得があるよ?」
「止せ、リア。新しい杖をまた折るつもりか」
「折らないよ?」
「可能性があるからやめろと言っているんだ!」
「……喧嘩はやめてくれないかしら?」

 彼女たちは、まだ知らない。
 事態は既に、動きだしてしまったことを。
 仲間の帰りを待つだけの、彼女たちは、知らない。

 戦争は、すでに始まっていることを——。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 話が急展開になってきた……。

 どーも、藍蓮です。
 今回は割と短めです。2000字未満って、最近は珍しい……。
 揺れる王国バルチェスター。宣戦布告を受け、物語はどう進むのか。

 次の話に、請うご期待!