ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep38 再会は暗い家で ( No.41 )
日時: 2017/08/28 17:14
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 エルヴァイン編。
 リクシア達は出てきませんが。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「これを取れ!」

 戦っている最中、不意に声がして。
 エルヴァインは、反射的に、飛んできたものをつかみ取った。

 ——それは、一振りの剣だった。

「誰だか知らんが礼を言う!」
 応え、闇でできた剣を投げ捨てた。
 身体中から、闇が収束していく。
 この力は、使わないに越したことはない。
 彼を助けた人物は、それをわかっていたのだろうか?
 否、それはないだろうなと内心で首を振る。

 ——とにかく、助かった。

 剣を持ったエルヴァインに、負けの二文字はあり得ない。
 今度こそとどめを差してやろうと、その剣を構えた。

 男は剣の飛んできた方向を見て、舌打ちする。
 エルヴァインにもちらりと見えた、橙の髪。
「……なるほど、非国民ですか」
 言うなり男は、その方向へと駆け出そうとする。
 その進路をふさぐように、エルヴァインが立った。

「……行かせるか」

「邪魔しないでいただきたい。私はごみを処分するだけ」
「生憎と。助けてくれた人を見殺しにするほど、僕は人間やめてない」
 エルヴァインが男を睨むと、男は小さくため息をついて。
「……次こそ、あなたの命をいただきます」
 そう、捨てゼリフを残して、いなくなった。

 途端、這い上がる闇。
 彼は思わず膝をついた。
 投げ捨てられた闇の剣から、闇が触手のように伸びてくる。
「……消えろ」
 念じたが、それは消えない。
 這い上がる痛み。食われる感触。
「——消えろッ!」

「……あんた、大丈夫か?」
 と。先ほどの橙が、彼に駆け寄って、立ち上がれるように手を伸ばした。
 それを見て、気づいたかのように、エルヴァインは剣を返す。
「……助かった。が」
 疑問に思うことがあるのだ。

 ——わが身。

 闇に冒された醜いわが身を。見ても驚かないのか。
「……あんたは、僕を化け物と、呼ばないんだな」
「助けてくれたんだし、当然だろう? 恩人を忘れるなってアルが言ってた」
「……助けた? 僕が?」
 エルヴァインは首をかしげた。見たことのない顔だ。
 橙の少年はあわてて首を振り、違う俺じゃないと否定した。
「赤い少年! アル! あんたが助けてくれたんだろう?」
「……ああ。あいつ、か」
 思い出して、小さく呟いた。
 何かに追われているみたいだった、苛烈な瞳の赤い少年。
「あんたは……あいつの、仲間か」
「そうだぜ? 俺たちはレジスタンスなんだ」
「……レジスタンス?」
 何かに反抗する組織の総称だ。
 そういえば、あの男が「非国民」とかぬかしていたか。
「よかったら、拠点に招待したいんだがな。……立てるか?」
 手を差し出す。エルヴァインはそれに掴まり、なんとか立ち上がった。
 闇は収束していったが、一部、左腕に残った闇が、痛みで彼を苛んだ。
「……大丈夫か? 具合悪そうだぞ?」
 心配そうに訊く橙の少年に。
「……いつものことだからな」
 軽く返して。
「しばらくこれを借りたいが、いいか?」
 放られた剣を指して訊ねた。
「いいぜ? 実は俺、剣じゃなくて飛び道具専門なんだ。剣はまぁ……護身のためだな。全然使えないけどな。ところで、あんたは腕利きなのか? というか、良かったら名前を教えてもらえないか? 俺はアリオン。あんたは?」

 名乗るべき名は、一つしか持っていない。



「エルヴァイン・ウィンチェバル。ウィンチェバル王国一の剣士だ」



 国が滅んでも。その名乗りは変わらない。

 ウィンチェバルの名を聞いて一瞬、アリオンの顔が暗くなったのは気のせいだろうか?
「ま、とにかく。拠点に行こうぜ。案内してやる。あと……具合が悪くなったらすぐに、言うんだぞ?」
 心配症だなと思いつつも。彼はアリオンについて行った。
 本来の目的は、頭から抜けてしまっていた。

  ◆

 コンコン。ある、何の変哲もない家のドアを、アリオンが叩いた。
 コン……コンコン! コンコン! コン。リズムを刻むみたいに、独特に。
 中から暗い声が聞こえた。
「合言葉は?」
「抗うは平和のために」
「……アリオンか、入れ」
 ただいまー、と声をかけて、気楽に彼は中へ入っていく。
 一瞬逡巡したが、そのあとにエルヴァインも続く。
「……邪魔をする」

 
 その途端。


 神速で首に突き付けられた剣。
 炎のように赤い髪が、宙を舞った。


「……貴様、どこから入った」


 首に剣を突き付けられて。一瞬、エルヴァインは息を詰まらせた。


 その後ろから。


「俺が連れてきたんだよ、恩人さん。困ってたから、助けて、それで」
 

 橙色のアリオンが、困ったように頭を掻いた。
 その言葉を聞いて、赤い少年は剣を引いた。
「勝手な行動をするなと、言っているだろう」
 呆れたように溜め息をついて。少し足を引きずりながらも、扉を閉めた。
 そこまでして、ようやく中の様子をうかがう暇ができた。
 薄暗い屋内の人間は、主に少年少女で構成されていた。
「紹介する、恩人」
 赤い少年はそう言って、不敵に笑ったのだった。













「ようこそ、『反戦派』拠点へ。僕は『反戦派』リーダーのアルヴァト。恩人であるあなたを歓迎する」













 それが、物語の鍵を握る少年とエルヴァインとの、出会いだった。


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 明かされた「赤い少年」の名。謎のレジスタンス。
 物語は続きます。