ダーク・ファンタジー小説
- カラミティ・ハーツ 1 心の魔物 Ep42 想い宿すは純黒の ( No.45 )
- 日時: 2017/08/30 15:20
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
※ 閲覧数400記念の短編は、話が浮かばないのでとりあえずは保留にします。
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グゥゥウァァァアォォォオオオオオオオオオオオオ!
轟いた咆哮。
一つではない。
幾つも、幾つも。
魔物の、咆哮。
——戦争が、はじまった!?
はっとなり、グラエキアは辺りを見回した。
「リューノス!」
「わかってる。でも、他の人は、守れないから」
言って、リューノスはポーチから一組の爪を取り出し、それぞれの手にはめた。
石の家。その扉が。ミシッと軋んだ。
「来る!」
「言われなくたって!」
叫び、リューノスは飛び出した。
轟音を上げて扉がはじけ飛び、木製のそれは木屑になる。
現れたのは、優に人の身長の倍は越えそうな魔物。
それが、白い少年に跳びかかった。
「……ッ!」
グラエキアは唇を噛む。
本当は今すぐ援護したいところだが、今の戦場は狭すぎて。
彼女が黒の鎖を撃っても。それは魔物でなく、リューノスに当たる可能性の方が高い。
それでなくても、町のあちこちで上がる悲鳴。
戦争だ、侵略だ! そんな声が各地でして。
グラエキアなら、まだ被害を食い止められるかもしれないのに。
つながった鎖。リュクシオン=モンスターと、自分を縛る鎖が。
彼女の自由を阻害する。
目の端で。戦う少年が、魔物の腕の人薙ぎで、大きく吹っ飛ばされたのを見た。助けるために駆け寄ろうとするが、鎖の長さが微妙に足りない。吹っ飛ばされた少年は、それでもその爪を構えて敵を迎え撃つ態勢。しかしこのままでは勝ち目がない。
彼は決して。弱いわけではなかった。
しかし。フェロンやエルヴァインには、まだまだ劣る。
瞬間、うつろだった少年の瞳に鋭い光が宿り。身につけた爪が身体と一体化した——かのように見えたが。
(嫌よ嫌ッ! 無力なまんまの自分なんて! 誰も助けられないままなんて! 私は違った! 私はこんなに——こんなに弱くなんて、なかったんだッッッ!!!!!)
グラエキアの方が、早かった。
「打ち砕け!」
駆け寄って。伸ばされた鎖が。
魔物の身体を、がんじがらめに縛りあげた。
そこまで、行けなかったはずなのに。
振り返れば。檻と自分とをつなぐ鎖が、切れていた。
「あ…………」
呟いたが。リュクシオン=モンスターに、動きはなくて。
見ると。漆黒の鎖が。
——グラエキアの操作なしで、勝手にうごめいて、リュクシオン=モンスターを拘束していたのだった——。
——つかんだ。
ひそかな確信を持って、彼女は心の中で快哉(かいさい)を上げる。
これまで自分を縛っていた鎖。それの、完全な制御法を。
「……グラエキア……?」
リューノスの、困惑した声に。
いつもの不敵な笑みを浮かべ、答えた。
「……戦えるわ」
先ほどまでリューノスを襲っていた魔物を。何の躊躇もなく絞め殺して。
「私、戦える! だから、行きましょ! 他の魔物を駆除するのよ!」
うん、と少年はうなずいて、立ち上がる。
その足が少し、ふらついた。
「大丈夫? 怪我したの?」
「……なんてことない」
その足で、しっかりと立って。
縛めから解放されたグラエキアに、首をかしげて問うた。
「……救世主気取りの、始まり?」
その言葉に、グラエキアは思わず吹き出した。
言い得て妙だ、救世主気取りとは。攫われたあの子の専売特許じゃなかったのか?
笑って、外へ歩き出しながらも。
グラエキアは答えた。
「私たちで、この町(せかい)を救うのよ」
鎖は鎖で勝手に動く。
切り離したって、問題ない。
自分の想いが。自分の力が。
仮令この場を離れても。
あの魔物を。リュクシオン=モンスターを。
縛ってくれるから。
——自由に動ける!
◆
「行くぞ、あの廃墟に」
アルヴァトの号令によって、リクシア救出隊三人は、午後の町を行く。
この町で一晩待ってもよかったが、救出は早い方がいいというエルヴァインの案を採用したのだ。
メンバーは、赤のアルヴァト、橙のアリオン、
——そして、青のエルヴァイン。
アルヴァトとアリオンは、巻き込んでしまったことへの責任を果たすため。
エルヴァインは、恩人に恩を返すため。
それぞれの理由は違ったが。目指す目的は同じだった。
町で馬を借り、そのまま駆ける。
——この町が魔物の集団に襲われるのは。それからわずか、四半刻後——。
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う〜ん、本当はもう少し長引くはずだったのですが。
藍蓮です。今回はグラエキア編をお送りします。
目覚めた新たなる力。動き出す救出部隊。
ヴィーカの廃墟で、何が起こる?
次回の話に請うご期待!