ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 1 心の魔物 Ep42 想い宿すは純黒の ( No.45 )
日時: 2017/08/30 15:20
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)


※ 閲覧数400記念の短編は、話が浮かばないのでとりあえずは保留にします。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 グゥゥウァァァアォォォオオオオオオオオオオオオ!



 轟いた咆哮。
 一つではない。
 幾つも、幾つも。
 魔物の、咆哮。

 ——戦争が、はじまった!?

 はっとなり、グラエキアは辺りを見回した。
「リューノス!」
「わかってる。でも、他の人は、守れないから」
 言って、リューノスはポーチから一組の爪を取り出し、それぞれの手にはめた。

 石の家。その扉が。ミシッと軋んだ。

「来る!」
「言われなくたって!」
 叫び、リューノスは飛び出した。
 轟音を上げて扉がはじけ飛び、木製のそれは木屑になる。
 現れたのは、優に人の身長の倍は越えそうな魔物。
 それが、白い少年に跳びかかった。

「……ッ!」

 グラエキアは唇を噛む。
 本当は今すぐ援護したいところだが、今の戦場は狭すぎて。
 彼女が黒の鎖を撃っても。それは魔物でなく、リューノスに当たる可能性の方が高い。

 それでなくても、町のあちこちで上がる悲鳴。

 戦争だ、侵略だ! そんな声が各地でして。
 グラエキアなら、まだ被害を食い止められるかもしれないのに。
 つながった鎖。リュクシオン=モンスターと、自分を縛る鎖が。
 彼女の自由を阻害する。

 目の端で。戦う少年が、魔物の腕の人薙ぎで、大きく吹っ飛ばされたのを見た。助けるために駆け寄ろうとするが、鎖の長さが微妙に足りない。吹っ飛ばされた少年は、それでもその爪を構えて敵を迎え撃つ態勢。しかしこのままでは勝ち目がない。

 彼は決して。弱いわけではなかった。
 しかし。フェロンやエルヴァインには、まだまだ劣る。

 瞬間、うつろだった少年の瞳に鋭い光が宿り。身につけた爪が身体と一体化した——かのように見えたが。





(嫌よ嫌ッ! 無力なまんまの自分なんて! 誰も助けられないままなんて! 私は違った! 私はこんなに——こんなに弱くなんて、なかったんだッッッ!!!!!)







 グラエキアの方が、早かった。







「打ち砕け!」


 駆け寄って。伸ばされた鎖が。


 魔物の身体を、がんじがらめに縛りあげた。


 そこまで、行けなかったはずなのに。


 振り返れば。檻と自分とをつなぐ鎖が、切れていた。


「あ…………」


 呟いたが。リュクシオン=モンスターに、動きはなくて。


 見ると。漆黒の鎖が。










 ——グラエキアの操作なしで、勝手にうごめいて、リュクシオン=モンスターを拘束していたのだった——。









 ——つかんだ。


 ひそかな確信を持って、彼女は心の中で快哉(かいさい)を上げる。
 これまで自分を縛っていた鎖。それの、完全な制御法を。

「……グラエキア……?」


 リューノスの、困惑した声に。


 いつもの不敵な笑みを浮かべ、答えた。


「……戦えるわ」


 先ほどまでリューノスを襲っていた魔物を。何の躊躇もなく絞め殺して。


「私、戦える! だから、行きましょ! 他の魔物を駆除するのよ!」


 うん、と少年はうなずいて、立ち上がる。
 その足が少し、ふらついた。
「大丈夫? 怪我したの?」
「……なんてことない」
 その足で、しっかりと立って。
 縛めから解放されたグラエキアに、首をかしげて問うた。

「……救世主気取りの、始まり?」

 その言葉に、グラエキアは思わず吹き出した。
 言い得て妙だ、救世主気取りとは。攫われたあの子の専売特許じゃなかったのか?
 笑って、外へ歩き出しながらも。
 グラエキアは答えた。










「私たちで、この町(せかい)を救うのよ」











 鎖は鎖で勝手に動く。
 切り離したって、問題ない。
 自分の想いが。自分の力が。
 仮令この場を離れても。
 あの魔物を。リュクシオン=モンスターを。
 縛ってくれるから。

 ——自由に動ける!


  ◆


「行くぞ、あの廃墟に」

 アルヴァトの号令によって、リクシア救出隊三人は、午後の町を行く。
 この町で一晩待ってもよかったが、救出は早い方がいいというエルヴァインの案を採用したのだ。
 メンバーは、赤のアルヴァト、橙のアリオン、


 ——そして、青のエルヴァイン。


 アルヴァトとアリオンは、巻き込んでしまったことへの責任を果たすため。
 エルヴァインは、恩人に恩を返すため。
 それぞれの理由は違ったが。目指す目的は同じだった。
 町で馬を借り、そのまま駆ける。


 ——この町が魔物の集団に襲われるのは。それからわずか、四半刻後——。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 う〜ん、本当はもう少し長引くはずだったのですが。


 藍蓮です。今回はグラエキア編をお送りします。
 
 目覚めた新たなる力。動き出す救出部隊。
 ヴィーカの廃墟で、何が起こる?

 次回の話に請うご期待!