ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep44 魔物使いのゲーム ( No.48 )
日時: 2017/09/01 12:07
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 拙作、「夜明けの演者」が、小説大会ダークファンタジー部門で次点を頂いたようです。
 皆様、ありがとうございました!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ——嫌な、予感が、した。


 エルヴァインは、一気に馬を駆けさせる。

「ウィンチェバル、何のつもりだ!」
「いやいやいや、置いてくとかそりゃないぜ!」

 そのあとを追う、赤色と橙。

 昔っから、勘は鋭かったエルヴァイン。
 彼に巣食う、闇が言うのだ。

 ——早くたどりつかなければ、手遅れになるぞ——。

 脳裏に浮かぶは緑の戦士。
 一人で勝手に先行した彼。

 エルヴァインは、走る。馬の許す最高速度で。


 そして、たどり着いた先で、見た——。


  ◆


「フェロン!」


 地面に開いた、大きな落とし穴。
 その中に群がる幾十もの魔物たち。
 それに揉まれ、時々見え隠れする茶色の髪は——。


「アルヴァト! この場は任せたッ!」


 本来の自分ならば。リクシアに出会う前の自分ならば。
 こんな、自己犠牲的な真似なんて、しなかったのに。

 でも、今は違うから。
 リクシアに出会い、フェロンに出会い。天使と悪魔、フィオルとアーヴェイに出会い。

 ——遠い昔、グラエキアに出会い。


 変わったと、言いきれる。変われたと、言いきれる!


 吹きだす闇さえ力に変えて。
 彼は魔物群がる穴に、自らひらりと躍り込んだ。


  ◆


「死ぬ気かッ!」

 その様を見て、思わずアルヴァトが叫んだが。
 死にたがりは放っておいて。
 やらなければならないことがある。

「アルヴァトだ。少女を返せ」

 その言葉を聞き、男はうなずいた。
「返しますよ、もちろん」
 彼は背中に、麻袋を背負っていた。
 それを大地に、勢い良く放り出す。
「……そこに、彼女が?」
「生きてますからご安心を」
 その言葉に、嫌な予感が、した。
 嫌な予感しか、しなかった。
 アルヴァトは、恐る恐る袋の口を開け、中にいた少女を引っ張りだした。

 そこにいたのは——。















 身体の至る所から血を流し、今にも死にそうに、辛うじて息をしているだけの、少女だった——。















 アルヴァトの中で、何かが切れたような音がした。
 苛烈な瞳に燃える炎は、近づくだけで火傷しそうだ。

 男は、笑うのだった。





「私の魔物たちが欲求不満でして。折角ですから、玩具になっていただいたのですよ」





 それで、この有様。
 それで、この無残。

 横たわる彼女の衣服はほとんど引き裂かれ、身体のあちこちが膿み始めている。

 フェロンがこれを見たらきっと、怒りで我を忘れるだろう。


「で? アルヴァトはここに来たが?」


 彼はきっと、男を睨んだ。
 男は彼に、手招きするような仕草をする。
「ああ、ちょっとこっちに来てください。……逃げようとしたら、配下の魔物がその少女を引き裂きますから、余計なことはしない方が賢明ですよ?」
 その脅しには、屈するしかなくて。
 抵抗するすべを持たなくて。
 アルヴァトは、心配そうな顔のアリオンに、言った。
「その子を頼む」
 そう言い残して、怒りと決意を秘めた瞳で。
 男のもとへ歩みゆく。

 男は、彼に囁いた。
「なぁに、直接あなたを殺すわけじゃない。だからあなたはわざわざ来たのでしょう。私とゲームをしてもらいますよ!」
「……内容は、何だ」
「これですよ!」
 大仰な仕草で彼が指し示したのは。










 ——魔物と化して、狂ったように喚く、『反戦部隊』のメンバーたちだった——。










「見物ですねぇ! 仲間を殺すか、仲間に殺されるかッ! さあ、賭けて見ましょうかぁ! 命のギャンブルの始まりだァッ!」





 そもそも、あの石の家に逃げ込まなければ、決して起きなかった悲劇。

 しかし彼は、それでも剣を手に取った。
 炎の瞳に、揺るがぬ強い決意を宿して。
 その行動が、これまでの彼を完全否定するものだったとしても。

「けじめを、つけよう」

 自分の起こしたすべてに対する、けじめを。
 それは図らずも、昔、エルヴァインが言った言葉と同じだった。

「アリオン、帰れ」
「え? でも……」
「その子を連れて、帰れッ!」

 いつの間に魔物になっていたのかはわからないが。
 自分の、相棒に。
 仲間殺しをしている場面なんて、見せたくはないから。

 知らず、頬を涙が伝った。しかし、それさえ闘志に変えて。





「悪夢を、この手でッ! 終わらせるッ!」





「いい返事ですねぇ」


 瞬間。


 アルヴァトと魔物たちは、ぶつかりあった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 はい、ついに衝突しました藍蓮です。
 この内容なのに2000文字行かないのはどうしてなんでしょう?
 
 エルヴァインたちはついに追いつき、勃発したそれぞれの戦い。
 グラエキアはまだ、追い付いていませんが。
 
 魔物操る謎の男。始まった戦いの行方は——?

 次の話に、請うご期待!