ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep45 作戦完了 ( No.49 )
日時: 2017/09/01 23:22
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

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 魔物に至るところを傷つけられ、血まみれになったフェロンを後ろにかばい、エルヴァインは鬼神の如く戦った。後に訪れる苦しみなんて考えもせず。吹きあがる闇を力にして。
 その姿は、悪夢の化身。背に闇を負う、青銀の彼は。
 それでも剣振り戦った。
 仲間のために、恩人のために——。

 その時、見えたあれは。


「鎖——? そんな馬鹿な!」


 グラエキアは、リュクシオン=モンスターを縛っているために動けないはずで。

 それは、幻だったのだろうか。


  ◆


 事態が事態だ。
 もう、仲間を斬り殺すことに、彼は遠慮をしていられなかった。
 一切の感情を切り捨て、心を石にして剣を構える。

 赤い瞳が悲しみを宿し、友の名を一人ひとり呟いた。

「……ララ」

 斬り殺された魔物は、たちまち金髪の少女の姿になる。

「……クルール」

 斬り殺された魔物は、たちまち初老の男性の姿になる。

「……リューノス」

 斬り殺された魔物は、たちまち白い少年の姿になる。

「……ダルキアス!」

 斬り殺された魔物は、たちまち——。















「——目を覚ましなさい、アルヴァトッ!」















 ——赤い少年の姿には、ならなかった。





 漆黒の鎖が、その身体を貫いて。





 その途端、幻術が吹き飛んで。


 魔物は。アルヴァトが、仲間が魔物化したと思いこんだ魔物は。


 ——何の関係もない、ただの一般人だった——。


 アルヴァトが鎖の飛んできた方向を見やれば。漆黒の少女が、肩で息を切らしていた。


「情けない……あんな幻術に引っ掛かるなんて……!」


 振り向けば。あの男は消えていた。
 アルヴァトは少女に問うた。
「……あんたは」
「エルヴァインと……深い関係のある者よ……」
 その一言で、わかった。彼が言っていた「残した少女」とは、彼女のことだったのだと。
 
 少女は、名乗る。

「私の名前は、グラエキア・ド・アルディヘイム・クライン——ッ!」

 途中まで名乗りかけて。彼女は急に苦しそうに顔をゆがめ、胸をぎゅっと押さえた。

「おい、大丈夫か!」
 彼が心配するのも無理なきことだ。
 グラエキアは、顔をゆがめながらも言う。
「私のことはどうでもいいから……エルヴァインを……助けて……!」
「……しかし」
「私は死なない!」
 叫んで。彼女は鎖を己の身体から引き離し、フェロンの落とされた穴に落とした。
 その様を見て、アルヴァトはうなずいた。
「……行ってくる」
「あとで……ちゃんと、名乗ってやるんだから……!」
「わかった。みんなは……無事、なのか?」
「あれは幻術だって、言ったでしょう……?」
 彼女の答えにうなずいて。
 アルヴァトは、罠の大穴へ、自らその身を躍らせた。
 奴はゲームとか言っていたが、あれはインチキだったらしい。
 それさえ知れれば満足だった。


  ◆


 彼が去ったのを見届けると、グラエキアは地面に倒れ込んだ。
 心臓に激痛が走る。呼吸が苦しい。

 あれから。一睡もせずに、ひたすらに馬を駆けさせてきた。

 彼女は今こそ普通の身体だが、幼いころは病弱で、部屋を出ることを許されなかった時期がある。
 それは今こそ治っているが、無理をすれば、再発する可能性のある病。
 それが今、再発したのだ。

(当然よね……。あんな無茶をすれば)

 自嘲的に、笑った。
 これまではあえて激しい運動を避けていたが、流石に限界か。
 やってきた苦しみと痛みは。当分の間、消えないだろう。 

 わかっていた、こうなることが。
 でも、何もできない自分が嫌で。
 だから、苦しんでもいいから。
 誰かの役に立ちたいと、思ったんだ。

(流石に……死ねないけれど)

 送った鎖に思いを馳せる。
 願わくは。自分が不在でも、少しでも役に立てますように。


  ◆


「加勢するぞッ!」
「終わったのか」

 ひらりと舞い降りた赤い影を見、エルヴァインは声を放った。
 アルヴァトはうなずき、剣を抜き放ち。
 間に傷ついたフェロンを挟み、背中合わせに魔物を迎え撃つ。
 とはいえ。エルヴァインもフェロンも、なかなか健闘したようで。
 残る魔物は二十を下った。これなら何とかいけそうである。

 その時、天から。



 黒い鎖が。突如、現れて。



 魔物を、がんじがらめにした。
 その途端、エルヴァインの瞳に、新たなる怒りが巻き起こった。
「——あんなに外すなと言ったのに! 血迷ったか、グライア!」
 事情を知らないアルヴァトには、何がなんだかまるでわからないが。
 あのグラエキアと名乗った少女が、彼の逆鱗に触れたのは理解した。
 燃える青の瞳が、魔物たちを射抜く。

「片づけるぞッ! 一人十体!」
「無茶を言ってくれるッ!」

 応えながらも。できると確信しているアルヴァトがいた。
 そんな自分に苦笑しながらも。彼は一気に敵に斬りかかった。

 赤と青が穴底を舞い、黒の鎖が彩りを添えた。


  ◆


 やがて、すべて倒し終わって。
 くたびれきった赤と青は。
 それでもやることがあったから。横たわるフェロンの容体を確認した。
 かろうじて、息はある。しかもまだ、意識があった。
 彼はエルヴァインの姿を認め、かすれた声で呼びかけた。

「今までどこで油を売っていた……」

 そんな彼に、優しく微笑んで。
「後で話すから、ひとまずは眠っていろ」
 言って、その背にフェロンを負った。
「そう言えば、どうやって上に——?」
 アルヴァトが、当然の疑問を口にする。
 すると。
 先ほどまで共闘していた黒い鎖が伸びて、穴の上と下をつなぐロープとなった。
 それを見て、エルヴァインは苦笑いした。
「グライアは何でもできるんだな……」
 呟くその背に。
 別の黒い鎖が巻きついて、フェロンと彼とをしっかり固定した。
 これで両手が使える。
 彼は後ろの赤髪を向いた。
「悪いが、怪我人がいる。先へ行くぞ」
 そういう自分も、闇に食われるのは時間の問題だと、わかっていたから。
 アルヴァトの返事を待たず。彼は鎖を上っていった。


  ◆


 上りきった先に、漆黒の少女が倒れていた。
「グライア!?」
 怒ることも忘れて彼は、彼女を抱き起こす。
 彼女は苦しそうに、笑っていた。
「笑っていいわ……。私、無理した……」
 その言葉を聞いて、彼は彼女の身に何があったのかを悟った。
「……無理するなって」
「私の台詞よ」
 見れば、彼の身体はすでに。闇の浸食が始まっていた。
「みんな……満身創痍って言うのも……どうかとは——ッ!」
 彼女は、苦しげにあえいだ。
「……悪いけれど……。私、もう寝るわ……。これ以上話しても、つらいだけ……」
 言って、彼女は眼を閉じた。
 途端、広がった闇。襲い来る痛み。
 しかし、彼にはやるべきことがあったから。
 痛みに耐え、穴の淵に立ち。
 上りくる赤い髪を待った。


  ◆


 上りきり、アルヴァトは笑うしかなかった。
 動けない人が、二人に増えている。
 確かに、先ほどの少女は心配だったけれど……。
 彼は少女を背負い上げた。
 苦しそうな顔のエルヴァインに問う。

「……怪我、したのか?」
「いいや? ……これは、過ぎた力の代償だ」
「歩けるか?」
「歩かなければ、何も進まないだろう?」
「……無茶するなよ」
「そっちだってな」
 
 かくして彼らは帰路に着く。
 満身創痍の身体を抱えて。

 目的は、果たした。

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 長いだけの駄文を失礼します、藍蓮です。
 最近は内容が浮かばんのですよ。……すみません。

 とりあえずこの話は一区切り、で、次の話も浮かんでいるのですが。
 果たしてうまく書けることやら。ハァ……。
 話が冗長になってきて、スランプ気味なのです。
 最近の文章、五章程のキレがない……。

 救出されたリクシアとフェロン。
 ひとまずこれで一区切り?

 ……次の話を、待って下さいね。