ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep47 強制徴兵令 ( No.51 )
日時: 2017/09/03 17:04
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 それから一週間。
 『反戦部隊』にいた回復魔法使いアマンナのお陰で傷の治りが早まったリクシアたちは、驚愕の知らせを受け取った。



「ウィンチェバル強制徴兵令!?」



 戦に苦しんだ果てに。バルチェスター王はそんなことをやらかした。
 現在地は石の家で、アルヴァトたちは用事があるらしく、もう三日ほど会っていない。
 苦い顔で、エルヴァインは頭を抱えた。
「僕はとっくに……ばれているだろうな」
「加勢するわ」
 グラエキアが、強い笑みを浮かべた。
「グライア、だが」
「魔導士は剣士とは違って、まだマシな待遇を、受けられるとは思うけれど?」


 ……何はともあれ。
 時が、来たのだ。戦いのときが。


 リクシアは大きくうなずいた。
「私、立ち向かうから」
 傷の治りきっていないフェロンに、笑いかけた。


 ふと胸元を見れば、そこにあるのは三枚の羽根。

 一枚目の、冷たい輝きを放つ白の羽根は。かなり前。リクシアが甘すぎたころに訣別の証として受け取った、悔恨の白い羽根。
 二枚目の、どこまでも青く澄んだ羽根は。かなり前。極北の地を去る前に、リクシアが握っていたアルフェリオの最後の形見。
 三枚目の、優しい印象を放つ白の羽根は。かなり前。極北の地を去る際に、「何かあったら放り投げて」と、フィオルのくれた友情の羽根。
 どの羽根にも、様々な想いが、詰まっていた。
 そのうち最後の羽根は、これから戦乱に巻き込まれるにあたり、使用する機会があるかもしれない。
 リクシアは三枚の羽根の首飾りを握りしめ、今は極北の地にいるであろう天使と悪魔を想った。
 別れてからしばらく経ったけれど。フィオルの翼の怪我は、治っただろうか?

 そう、思っていた時だった。


「扉を開けろ! そこにウィンチェバル人がいるのはわかっているんだ!」


 声が、して。
 ああ、ついに時が来たのかと、思った。
 リクシアは真っ先に扉に駆け寄り、開けた。


「私はリクシア・エルフェゴール! ウィンチェバル人。魔物になった、リュクシオンの妹よ!」


 堂々と名乗って。
 その手を差し出した。


「徴兵するんでしょ? すればいいわ! 私は光と風の魔導士! 役に立てるんじゃないかしら!」


 みんなに助けてもらったんだから。今度はみんなのためになるんだ。
 決意を込めて、差し出した手。
 徴兵に来た男は、そのあまりに堂々とした態度にびっくりしたようだが、首を振って言った。
「お前だけじゃないだろう! 他のみんなも、出て来い!」
 グラエキアは、ちらりと後ろの檻を見た。大丈夫だ、しっかり隠蔽されている。
 徴兵係には、ばれていない。
 グラエキアは、エルヴァインとともに、進み出た。

「ならば名乗るわ。私はグラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド。今は亡きウィンチェバル王の姪っ子よ!」
「エルヴァイン・ウィンチェバル! ウィンチェバル王の第三王子だ! しっかりとした待遇を望むね」

 その、凄すぎる名乗りに。徴兵係は一瞬、固まって。
「……善処いたします!」
 そう、叫ぶしかなかった。
 最後に、フェロンがふらりと現れた。
 彼は剣士だが、生憎怪我が治りきっていない。しかも顔の左半分には大きな傷跡があり、完全に左目は見えない。それでも戦えというのだろうか——?
 フェロンは、淡々と名乗った。
「フェロン。剣士だ」
「戦えるか?」
「それなりに」
「なら、戦え」
「……承知」
 その言い分に、リクシアが憤慨した。
「ちょっと! フェロンは怪我人なんだよ! 私もそうだけど、剣士が怪我を負っているって、致命的じゃない! あなたはフェロンに死ねと言っているの!」
「生憎と。一兵卒では上に逆らえないんだ。理解してくれ」
「……いいわ」
 リクシアは、徴兵係を睨みつけた。
「代わりに! 私とフェロンは近い所に配属してね! 絶対だよ!」
「……善処する」
「私からもお願いするわ」
「僕からもお願いしよう。まさか滅びた国とは言え、王族の頼みを無下にはできまい?」
「善処いたしますっ!」
「上々」

 かくして、リクシア達は、本格的に戦に加わることになる。
 この戦の結果がどうなるかはわからないけれど。早く終わらせて、戻し旅を再開したい、そう思うリクシアであった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 あと100文字で、「カラミティ・ハーツ」の総文字数が、10万字越えるらしい。
 そんなことを、しみじみ思った藍蓮です。
 いや〜、長かったですねぇ!(←まだ1か月も過ぎていないのに長いとかいう奴)
 書いている期間はそこまでじゃないですが、10万字も行くとなると、感慨もひとしおです。

 ついにやってきた徴兵令!
 軍に否応なしに巻き込まれるリクシア達!
 未来の行方は——?

 次の話を、お待ち下さい!