ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep48 二人が抜けても ( No.52 )
日時: 2017/09/04 21:27
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

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 徴兵係に連れられて。リクシアが向かったのは魔導士の営舎。
 結論、フェロンからは引き離された。しかし、近い所に配属してくれるらしい。
 向かったその地で説明を受けた。

「そちら方魔導士部隊は、主に遠方からの援護を担当する。相手は魔物。元は善良なる人間だ。しかし、それを恐れることなかれ! 目の前にいるのは敵! 故に倒す! 倒さねばならぬ! ただそれだけを考えて戦え!」

 とのことだった。
 こんな殺伐とした雰囲気は初めてだったから、緊張するリクシアに。


「大丈夫なの。私たちは前線に出ないの」


 そっと笑いかける瞳があった。


「私、エリセナ。水使いなの。私もウィンチェバルから来たの。引っ張り出されてきたの」


 ……リクシアと似た境遇の者が、ここにもいた。
 水色の髪、青い瞳。腕にクマの縫いぐるみを抱いたその子は、その手を差し出した。


「だから、よろしくなの」


 リクシアは、笑ってその手を握り返した。
「私、リクシア。光と風の魔導士よ。これからよろしく!」


 たとえ戦場に立ったって。
 一人じゃ、ない。


  ◆


「剣士部隊は主に直接魔物に斬りかかる近接戦闘を担当する! 相手を斬り殺してもひるむなよ? 敵は倒すべし! 以上だ! ただし、怪我人は若干後方に配備! 元気な者から傷つくんだ!」

 説明を受けて静かにうなずいたフェロンは。恐る恐る身体を動かしてみる。
 失われた半貌と、右足にズキンと痛みが走る。思わず顔をしかめ、よろけた彼に。


「ったく、上層部も一般兵の扱いが荒いよなぁ」


 笑って、その手を取って支えてくれた者がいた。
 若い兵士だった。おそらく、フェロンとそう変わらない歳の。
 兵士は、名乗った。

「マクスウェル。マックスって呼んでくれな。ってかあんた、顔の左半分、やっべぇことになってっけど、大丈夫なん?」

 その陽気さに、若干救いのようなものを感じつつも。
 フェロンはその手を握り、名乗った。
「フェロンだ。顔の左半分はだいぶ前から見えなくなっているからもう慣れた。よろしくな、マックス」

 彼は、早速あだ名を呼んでくれたフェロンに、にやりと笑った。
「よろしくな、緑の戦士」

 どこに行ったって。仲間という存在は、心強いものだ。


  ◆


「……という状況なんだよ」
「わかったわ」
「理解した」

 場所はバルチェスター王宮。

 ウィンチェバルの王族とわかったグラエキアとエルヴァインは、バルチェスター王エルーフェンと、面会していた。

 エルーフェンは、さっきまで二人に状況を説明していた。
 ローヴァンディアが、魔物を率いて攻めてきたことと、魔物の誕生によって絶望した人々がさらに魔物化し、悪夢の輪廻が続いていること。だから、そちらの王族に、バルチェスターに逃げ込んできたウィンチェバル人の指揮を取ってもらいたいこと。
 そういった話を聞いて、グラエキア達は素直にうなずいたが。
 ここで引き下がるようならそもそも。王族なんて、やっていない。


「ならば撤回してくださるかしら」


 グラエキアは、凛とした目で王を見た。

「貴方のだした、強制徴兵令を。ウィンチェバルの民はウィンチェバルの者が率いる。それでよろしいんじゃなくって?」
「生憎とそれはできないかな」
 王は何を考えているのか、まるでわからない目で笑った。
「強制徴兵令を出したうえで率いてもらうっていうのは、我儘が過ぎるかな?」
「馬鹿なことを。私たちは貴方の道具じゃございませんもの」
 その答えに、王は笑ってこう言った。









「——そもそも、滅びた国に、何の権限があるのかな?」









「貴様ッ!」


 瞬間、エルヴァインが剣を抜いた。
 その剣は、王の首に突きつけられていた。


「陛下ッ!」
 広間がざわつく。
 王はその状況にありながらも、さらに笑うのであった。





「おめでとさん」





 首に突き付けられた剣に。
 全く動じもせずに。





「これで君たちも逆賊だ。わざわざ招きに応じてくれてありがとう。君たちという不確定要素を、排除する格好の口実ができたよ」





 それは。初めから罠だったのだ。
 あんな発言をしたのも。全ては彼らを怒らせて。あえて反抗させるため。

 うつけと呼ばれたエルーフェン王は。身の内にとんだ狐を買っていた。
 敗北を悟ったエルヴァインは、大人しく剣を鞘に仕舞う。
 ここでこの王を殺しても意味がない。戦時中に王を失った国には、無駄な悲しみが増えるだけ。

 悔しさに唇を噛みながらも。エルヴァインは、素直に両手を差し出した。
 その手に掛けられる鎖。
 グラエキアの細い手にも、同じように。

 かくして二人は捕えられる。王に剣を向けた逆族として。
 しかし、最後にグラエキアは言い放った。

「いいこと、狐の王様」

 あえて侮辱罪を重ねながらも。
 彼女は黒い笑みを浮かべた。


「今回は貴方の勝ちだけれど。いずれ再び、私たちが勝ちを取りに行くから」


 王は面白そうに笑った。


「やってみるがいい。挑戦、楽しみにしている」


 始まった戦争には。王族たちは加わらない。
 しかし彼らは信じている。
 リクシアとフェロン。これから戦場に立つ二人の、真の強さを。

(あの子たちならいけるわよね?)
(何回共闘したと思っているんだ)

 小さい声で、ささやきあった。

 戦いが、始まる。

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